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選ばれた村娘は聖剣を携え、遥かな道を往く ~ただし選ばれただけの娘は、未だ謳われることなく~
選ばれた村娘は聖剣を携え、遥かな道を往く ~ただし選ばれただけの娘は、未だ謳われることなく~
杵島 灯
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月10日
公開日
11万字
連載中
外の世界への『夢』を持ちながら辺境の村で暮らしていたローゼは十七歳になったある日、王都から来た大神官に「聖剣の主として選ばれた」と告げられた。 しかし世にある十振の聖剣は所持できる家系が決まっている。 辺境の村に生まれた自分とはもちろん何の関係もない家だ。 どういうことか、と戸惑うローゼに大神官は重ねて言う。 「あなたが持つのは、四百年のあいだ誰も手にしていない『十一振目の聖剣』です」と。 記録がほとんど無く、謎ばかりが多い『十一振目の聖剣』は、その持ち手としてローゼが選ばれた理由すらも謎だった。 この聖剣はどういう類のものなのか。そもそも、何の才覚もないただの村娘に聖剣の主が務まるのか。 悩むローゼは村の神官であるアーヴィンの助言も受け、最終的に「聖剣の主になる」と決めて憧れの外の世界へ旅立つ。 そこで出会ったのは、村にいたときには想像もできないことばかりだった。

道が分かれた最初の日

 ローゼは目の前の景色を呆然としながら見つめた。


 かなり低くなった陽は広々とした草原を昼間とは違う趣の緑に染めている。

 しかし草原にいるものの、ローゼの目の前に広がっている色は緑ではなかった。


 手前から奥に向けて濃さの変わる青、その後ろにはきらめく白。

 合わせて百を数えるほどのこれらの色は、王都の大神殿より訪れた者たちが纏う衣装だ。華々しい姿の彼らは全員が膝をつき、黙ってこうべを垂れている。


 この場でただひとり立つ、赤い髪と瞳の村娘に向けて。


 何が起きているのか分からないローゼはおろおろとしながら視線をさ迷わせ、すがるような気持ちで共に村から来た男性を見つめる。

 だが、いつも穏やかな声で助言をくれる彼も、青い群衆の中で頭を下げ、無言で夕の風に褐色の髪をなびかせるばかり。ローゼにその灰青の瞳を向けてくれることすらない。

 よく知っているはずの彼が、まるでまったく知らない人のようで、何が起きているか分からないローゼはくらくらとしてくる。普段なら彼に向けて憎まれ口の二つや三つくらい簡単に出て来るのに、今はまったく頭も回らない。


(……もしかしたら、これは夢なのかも)


 目の前の出来事があまりに現実味を帯びていないこともあって、ついそんなことを考えてしまう。


 草の揺れる音だけが響く中、この場で一番の身分を持っていると思しき人物が頭を上げた。挨拶を述べたあと、衝撃的な言葉を放つ。

 ローゼはそれを、震える声で繰り返した。


「聖剣の主に選ばれた……? ……あ、あたしが……?」


 ――この日が、長く語られる話の始まりとなった。


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