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水面の下の贄姫
水面の下の贄姫
温水空
異世界恋愛和風・中華
2025年04月11日
公開日
6,191字
連載中
災いの子――。 白い髪に赤い瞳という特異な容姿を持つ瀬羅は、災いをもたらす存在として周囲から疎まれてきた。 そんなある日、村では水害が多発するようになる。 村人たちの不安が高まるなか、こんな声が上がる。 「これは、水神さまのお怒りだ」 村人たちは水神の怒りを鎮めようと、生贄を差し出すことを決める。 その生贄に選ばれたのは、瀬羅だった。 無理やり滝壺に沈められた瀬羅は死を覚悟する。 ――しかし、水面の下の世界には神さまたちの国が存在していて……。 生贄にされた少女と孤独な水神の恋愛ファンタジー。

プロローグ

******


「いい、瀬羅せら。この世は悪意だらけよ」


 お母さんの柔らかい掌が、瀬羅の髪を優しく撫でる。お母さんが身じろぎする度、ふわりと甘い花の様な香りが広がる。お母さんの匂いだ。瀬羅はこの匂いが大好きだった。


「お母さん、あくいってなぁに?」

「……悪意はね、人間が皆持っているもの。他人や自分を傷つけるのに、どうしようもできないものなのよ。瀬羅にもそのうちわかるようになるわ」


 お母さんの声が少し低くなる。声に悲しみが溶け込んでいる。瀬羅はそう思った。


「これから大人になるにつれて、人の悪意に傷つくことが増えると思う。でもね……」


 お母さんが瀬羅の肩に手を添える。あぁ、きっとお母さんは何か大事なことを言おうとしているんだ。そう感じ取って、瀬羅はそっと姿勢を正した。


「どれだけ悪意に傷ついたとしても、優しさを忘れちゃ駄目よ。……悪意に勝てるのは、人を想う心だけ」


 その言葉が、瀬羅の心にすっと入り込んだ。


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