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ダンジョン運営部 モンスター管理課
ダンジョン運営部 モンスター管理課
雨宮徹
異世界ファンタジー内政・領地経営
2025年04月11日
公開日
1.9万字
連載中
ファンタジーといえばダンジョン。ダンジョンといえばモンスター。 でも、そのモンスター、誰が用意してるか知ってます? 勇者に倒されるだけがモンスターの仕事じゃない! これは、ダンジョンの「運営側」に立って、モンスターを適切に育て、配置し、時に手配ミスで怒られながら働く人々の物語。 ヤラセ冒険者やゴブリンのストライキなど、エピソードは豊富です。 シモン……新米係員 カルロス……シモンの教育係 エミリー……モンスター教育係 ジャスミン……冒険者ギルド代表 ライル……モンスター管理課トップ ※ドタバタコメディです。 ※ほぼ1話完結。ゆっくりと登場人物が成長します。

第1話 有名勇者のご所望は……

「ドラゴンを用意して欲しい」


 それが有名冒険者の要望だった。


 新米の僕にも分かる。有名冒険者なのだから、S級ドラゴンを希望しているに違いない。大物は違うな。


「どのランクを用意いたしましょうか?」


 カルロスさんは物腰柔らかだ。聞かなくても分かっている。S級に決まって――。


「F級を頼む」


 え、F級!?


「それなりのお金が必要ですが……」


 カルロスさんは動じない。いやいや、冒険者がモンスターを買う!? それも低級を?


 ドンという音とともに麻袋がカウンターに置かれる。大量の金貨が入っているのは間違いない。カルロスさんは、サッと確認すると「分かりました。手配します」と言う。


「で、どこの階層にしますか?」


「そうだな……三層目で頼む。あそこにいるのは新米だけ。奴らにはドラゴンを倒せない。そこを俺がガツンと倒して拍手喝采って寸法だ」


 こいつ、ゲスい。いくら名声を得るためとはいえ、やらせをするのは冒険者失格だ。


「カルロスさん、これは――」


「いや、いいんだ。では、三日後に三層へ行ってください。狂暴そうに見えるドラゴンを用意しておきます」


 冒険者は当然だというような顔をすると、モンスター管理課を去っていく。


「あのー、今のやりとり違法じゃありませんか?」


「シモン、これは日常茶飯事だぞ。うちだってダンジョンを運営するには金が要る。特に、モンスター育成にはな。モンスターなくしてダンジョンなし。それに、お前は無給で働きたいのか?」


 カルロスさんは「何か問題でも?」という態度だ。いや、問題大ありでしょ!


「おい、エミリー。F級ドラゴンの手配を頼む」


 モンスター教育係のエミリーさんなら、この状況を上に報告してくれるに違いない。


「F級ね。オーケー。S級は育成の手間がかかるから、あまりダンジョンに出したくないのよね」


 金髪のロングヘアーをかきあげて、「助かった」という表情だ。あ、この部署は腐っているな。


「でも、彼女――つまりドラゴンだけど、生まれた時に最初に私を見たから、親だと勘違いしているの。我が子をダンジョンに送り込むのは辛いわね。仕事だから割り切りが必要なんでしょうけど」


 何か、この二人を止める手段はないか?


 その時、モンスター管理課のドアがゆっくりと開く。そこにいたのは、冒険者ギルド管理人のジャスミンさんだった。正義感の強い彼女のことだ、不正を聞きつけたに違いない。


「えっと、これお持ちしました」


 おどおどとしながら、ドサッと麻袋を置く。この光景、見覚えがあるぞ。


「依頼人の報酬の一部です。今日は1割ほど少ないですが……」


「まあ、そういう日もあるさ。明日も頼むぞ」


 いや、報酬の一部を管理課に渡す!? もしかして、ギルドもグルなのか? 僕の中で、おっとりとしつつも芯が強いジャスミンさんのイメージが崩れ去る。ガタガタという音は、もしかしたらカルロスさんにも聞こえたかもしれない。


 コツコツと音を立てて誰かがらせん階段を下りてくる。ここのトップのライルさんだ。


「シモン、これがここの日常だ。新米の君には異常に見えるかもしれんがな。ようこそ、ダンジョン運営部モンスター管理課へ」

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