ピエロによって運命の出会いを果たし、そのまま付き合うことになったカップルがいました。
ノリのいい男は街に来てまだ日が浅いこともあり、ピエロの狂気ぶりに「楽しそう」という理由だけで付き合うことにしました。
女性の方はピエロの狂気度をよく知っていますので、なんとか男を逃がそうと逃げ道を指し示しましたが男は全く逃げず女性の傍にいました。
女性も流石にこの急展開をまずいと思いましたが、「一目惚れ」と真正面から真っ直ぐな気持ちを言われると言葉が詰まってしまい、そのままピエロの思惑通りにカップルとして成立してしまいました。
しかも大々的に街中に知れ渡りました。
さらになんと、家まで買うことになりました。
こんな簡単で、かつ急にお付き合いを初めていいものなのか。
「お互い違うと思ったら別れよう」
そんな約束を交わした2人は、ひとまず会える日は会うようにしました。
おやすみの電話をするようにしました。
デートへ行く事も増やしました。
次第に打ち解け、常に笑いが起こり、甘く楽しい雰囲気で包まれる2人がいました。
そんな2人の存在を愛する人々は多く、末永く幸せになってとあらゆる人が願うようになりました。
とくに幸せを願っているのはピエロでした。
元々女性をママと思っていたピエロは、起きたら必ずママに会いにいきます。
ピエロは真っ白な色を持つママの魅力と人を惹き付ける能力に彼女以外ママはいない、彼女以上のママはいないと認めていました。
ピエロは、積極的に自分を知ろうとする男の存在をパパとして認めるだけでなく、男の存在自体を気に入り始めました。
すると、男もピエロを知りたいと言い始めました。
ピエロは喜びました。
自分が繋げた2人が、自分を真っ直ぐ見てくれる。
否定をせず認めてくれる。
自分の居場所がないと思っていたピエロは、初めて与えられた自分の居場所に大いに喜びました。
そして、自分を知ろうとする中でパパが黒に落ちることになることを知りました。
それはママにとってはよろしくないことです。
ピエロは知っています。
ママは会社を大事にしています。
一度おねだりという形で黒いことに手を出させようとしましたがママは決して折れませんでした。
そんな芯の強いママをピエロは大好きでした。
自分のペースに巻き込まれているようで、実は芯を持って自分の道をしっかり進み全く落ちない2人が大好きでした。
だから例え形として2人が別れても。
ピエロはママをママ。パパをパパと呼ぶことに決めました。
男は悩みました。
全部自分のわがままです。
やりたいことをやってから人生を終わりたいという我儘だからこそ、言葉を選んで彼女に自分のやりたいことや気持ちを伝えました。
男は気づいていました。
そこに、最初のノリはもうない。
すでに、彼女を心から愛していることを自覚していました。
だから好きを伝えることは出来ても、自分の本当の我儘を上手く言葉にできませんでした。
口下手でヘタレな男は、大好きで仕方がない彼女に迷惑をかけたくがないために、上手く言葉を繋いでいくことが出来ませんでした。
彼女に負担をかけたくなくて、全部自分のワガママで片付けようとしました。
しかし、男は忘れていました。
彼女の面白く美しい魅力に惚れたのではなく。
その芯の強さと、好きを伝えてくれる可愛さに一番惚れていることを。
女は答えを決めました。
覚悟を決めました。
自分はそんな弱い女じゃない。
けれど、欲張りさんです。
そして優しい彼女は、大好きな彼のどんな夢も応援したいと思っていました。
だから告げました。
あなたが私を弱みにならないくらい強くなったら、1番になったら。
「迎えに来て」
男は途中で言葉をかぶせるように答えました。
「迎えに行きます」
そうだ、そうすればよかったんだ。そう言えばよかったんだ。
言いたかったことを代弁してくれた彼女の言葉に
「たまには家に帰るね」
「心折れた時は電話させて」
一度溢れた気持ちは止まらない。
結局男は彼女に甘えたい自分がいることを自覚し、本心を告げました。
同時に、一緒に行きたかった所がいっぱいあったことを後悔し始めました。
自分で別れを告げてから、たくさんたくさん後悔があることに気づきました。
だから何度も言いました。
「迎えに行くから」
「見えないところで会うぐらいはいいよね」
そう答えながら、仕方がないから待っててあげるね、と女性は笑いました。
そうして、街一番美しい女性と噂されている彼女は愛する彼に別れを告げました。
数分後。
彼女は、1人海岸に行きました。
彼からプレゼントしてもらった車に乗って。
そして、呟きました。
「いつになるかもわからない」
「遠い遠い先の未来かもしれない」
「期間なって決まってない」
だけど、彼女は待つと決めました。
本当に彼が運命の人かはわからなくても。
待つと、決めました。
彼が運命の人だったらいいなと、ずっと思っていた自分に気づいたから。
「運命の人になら」
「本当の自分を――いつか」
「あなたになら……見せられるようになりたい」
こうして、街で有名なカップルの第1章は完結しました。
次に、第2章。
別々の道を歩き、だけど心はつながったまま。
その心臓はきっとローズレッドの糸で結ばれている事でしょう。
私は、最終章まで2人の成長を見ていたいです。