「呪・・・・・・い・・・・・・?」
急に降って湧いたオカルトワード。当然何のことだか判るわけもなく、ただオウム返しすることしかできない。そんな俺の様子をよそに、少女は相変わらず一方的に高説を垂れていた。
「ああ。あの女子高生には
「いや、歩きスマホが気に入らないから天誅を加えてやっただけだが・・・・・・?」
「・・・・・・」
流れる気まずい沈黙。
「えっと・・・・・・キミ? じゃあ
「知ってる訳ないだろ」
妖狐の呪い? そんなオカルト有ってたまるか。
「・・・・・・」
またも流れる気まずい沈黙。
「つまりキミは、ただ人間の屑であんなことをしていただけだと・・・・・・?」
「誰が人間の屑だ!? さっきから黙って聞いていれば・・・・・・あんまナメた口きいてると泣かすぞ、クソガキが!」
何故この俺がこんな見ず知らずのクソガキに屑呼ばわりされねばならんのだ。あんまり訳の判らないことばかりぬかすからつい聞き手に回ってしまっていたが、いい加減大人をバカにするとどうなるか教えてやらなければ。
「この私としたことが・・・・・・スカウトする人間を間違えたな」
しかし少女が恫喝に怯える様子は毛程もなく、それどころかか俺を完全無視して考え事をし始めた。
「・・・・・・まあいいか。人を突き飛ばすという行為に何の抵抗もないっていうのも、それはそれで貴重な才能だしな。並みの人間にできることではない」
「それは褒めてるのか? 貶してるのか?」
「これが褒めてるように聞こえるなら、本当に重症だな・・・・・・」
心底軽蔑したような目線が向けられる。実に不愉快だ。
「話を戻そう。キミには、この世界に蔓延した
「断る」
もちろん即答で断ってやった。妖狐だか何だか知らないが、そんなくだらないオカルト話なんかに付き合っていられるか。ただでさえ、理不尽にクビにされたせいで、今すぐにでも就職活動をしなければならないというのに。
「・・・・・・報酬は弾むと言っても?」
「ああ。あまり見くびるなよ? この俺ほどのキャリアを以てすれば、次の就職先なんて簡単に見つかるんだからな?」
「そうか・・・・・・。まあこの国には職業選択の自由があるからね。あまり無理強いをするわけにもいかないな」
なんだ? やけに素直に引き下がるじゃないか。
「だが私にも、キミが面接受ける企業全てに例の動画を送りつける自由があるということだけは、まあ頭の片隅にでも入れておいてくれたまえ」
・・・・・・そういうことかよ。
「あまり収入の無い期間が長引くと、キミのオキニのカオリちゃんにも愛想を尽かされるかもしれないしね。まあ、上手くいくことを祈っているよ」
そうだ。今月はまだカオリに逢いに行けていない。次逢うときにはシャンパンタワーを入れると約束していたのに、無職のままでは自己破産コースまっしぐらだ。しかし、なぜコイツは俺のオキニのキャバ嬢の名前まで知っているんだ・・・・・・?
いや、今はそんなことはどうでもいい。このクソガキのいいなりになるのは癪だが、愛しのカオリのためだ。背に腹は代えられない。
俺は、右手を挙げて立ち去る少女の背中を追いかけ、その左の肩を掴んで言った。
「確か・・・・・・妖狐の呪いを解くんだったか・・・・・・? 俺にその協力、させてくれないか?」