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悪質タックルは科学的に

「タンスの角に・・・・・・小指をぶつける呪い・・・・・・?」


「ああ。三日に一回。それも、必ずね」


 聞き間違いかと信じたかったが、残念ながらそうではないらしい。


「いや、くだらねっ。ほっとけばいいだろ、そんな呪い」


 こんなことのために俺はハメられ、会社をクビにまでされたのか。そう思い返すと、つい毒づかずにはいられなかった。


「甘いね、佛雁君。この呪いの本当の恐ろしさが分からないだなんて。それでもあのブラックシダーの管理職かい? 元部下達を苦労を偲ぶと涙が止まらないね」


「テメェなぁ・・・・・・マジでいい加減にしろよ?」


 いちいち勘に障ることばかり言うガキだ。コイツがそんなことで黙るタマでないことはもう分かってはいるが、一応睨みを利かせておく。


「まあ、無職のキミにはもう関係のないことだから、別に構いやしないがね」


 結果は案の定のぬかに釘だった。そろそろ一発ぶん殴ってやるべきか。


「キミには池袋の人々の足の小指を護るため、呪いを祓う悪質タックラーになってもらうよ」


 誰が悪質タックラーだ。抗議の視線を向けたが、無視された。


「しかし、呪いを解くのとタックルとに何の関係が? こういうのは普通、お祓いとか封印とかの管轄なんじゃないか?」


「キミは馬鹿かい? そんな非科学的な方法で解決するはずがないじゃないか」


 まさか妖狐の呪いだとかの言い出しっぺに、非科学的だとか言われるとは・・・・・・。


「私の血の滲むような研究の成果でね。ヨウコの呪いは、強い衝撃を受けると一時的に剥がれることが判明したのさ」


「研究? ああ。お前、それで白衣なんか着てるのか。てっきりただのコスプレ趣味だと」


 こんなちんちくりんのくせに研究員だったのかコイツ。それにしたって別に、こんな駅構内で着ている必要はないとは思うが。


「こんなに白衣の似合う知的な女性をつかまえて、コスプレ趣味とはご挨拶だね。キミ、デリカシーがなさ過ぎてフラれたことあるだろ?」


 なぜ知っている? 新入社員の頃、同期の事務員の絵里君をディナーデートに連れ出したまでは良いものの、その後こっぴどく玉砕した苦い思い出が蘇る。あんまり食べるものだから、ただ「太るぞ」と言っただけなのに。


「・・・・・・」


「なんだ、図星なのかい? どうしようもないね」


 過去の苦い思い出を思い返し、遠い目で固まってしまった俺のことを、少女がジト目で見つめてくる。やめろ。哀れむな。余計惨めになるだろ。


「まあノンデリ君の黒歴史のことは置いておいて・・・・・・話を戻そうか。衝撃を与えるとはいってもどうしたものかと頭を悩ませていた折のこと、たまたま駅で悪質タックルを繰り返す害悪ぶつかりおじさんがいるのを見つけてね。これだ! と思ったわけだよ」


「ほう。とんだ迷惑な奴もいたもんだな」


「この流れで自分じゃないと思える、その図々しさだけは表彰物だね・・・・・・。キミのことに決まっているだろう」


「は!? 俺は歩きスマホをしている迷惑女に、正義の鉄槌を下していただけだが!?」


 俺がやっているのはあくまで、歩きスマホ撲滅のための慈善運動であり、ただのぶつかりおじさん呼ばわりされるのは心外だ。


「はいはい。まあキミの歪んだ正義感のことなんて別にどうだっていいんだよ」


 しかし、俺の抗議は右から左へあっけなくスルーされてしまった。


「で、問題はここからだ。キミがあまりにも、ヨウコの呪いにかかった者だけを的確に突き飛ばしていくものだから、私はてっきり、キミが見えていてやってるものだとばかり思ってしまってね。・・・・・・まさかただの悪質タックラーだったなんてね」


 少女は再度、軽蔑しきったような目線で俺のことを見たのち、左手で額を抱えて大きな溜息をついた。


 俺の評価については心底不服だが、まあコイツの言いたいことは大体判った気がする。要は呪いにかかった者を何らかの方法で見つけ出し、タックルをしかけて尻餅をつかせればよいと。


 で、これって言うほど科学的か・・・・・・?



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