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ホームレスへのカウントダウン

「佛雁君、今日はお疲れ様だったね。まあ、ぶっつけ本番にしては上出来だったんじゃないかい。報酬はあとで口座に振り込んでおくよ」


 ああ、やっと解放された・・・・・・。なんだか、どっと疲れが押し寄せてくる。


 あれからユリアの運転する車で研究所へ戻ると、反省会と称したピザパーティが行なわれた。まあ、パーティとは名ばかりで、俺がピザを手に取ろうとするともれなくユリアに手をはたき落とされるという、人権侵害とでも言うべき行為が行なわれていたわけだが・・・・・・。


 結果、エレナがマヨコーンピザを円盤ごと食い尽くす様をただただ見せつけられる羽目になった。あのちんちくりんの身体のいったいどこにあれだけのピザが入るのだろう・・・・・・?


 時刻はすっかり夜の19時。朝からいちごラテしか飲んでいない俺の腹は、グーグー鳴って仕方がない。


 まあ、これでコイツらのおままごとから解放されたと思えば、こんな空腹くらい必要経費か。


「ああ、明日は7時までにはここに来るようにね。もちろん分かっていると思うけどね、わざわざ家に帰してあげるという私の慈悲深さにつけ込んで逃げようだなんて馬鹿なことは考えない方が身のためだよ。・・・・・・キミの秘蔵映像を公にばら撒かれたくなかったら・・・・・・ね?」


 そんなわけはなく、どうやら俺は明日以降もコイツらにこき使われる運命のようだ・・・・・・。


「ああ、朝のアレか?」


 どうせ、今朝の女子高生にタックルしたときの映像のことだろう。正直、今更どうでもいい感じはしなくもないが、今後の就職のことを考えると、余計なものをばら撒かれるのは極力避けておきたい。


「・・・・・・ああ、そういやそんなのもあったね」


「え?」


「ああ、なんでもないよ。まあ、キミがちゃんとまた来ればいいだけの話さ」


 エレナが小声でどうでもよさそうに呟いた言葉がよく聞き取れずに聞き返したが、うやふやにはぐらかされてしまった。まあ、どうせロクなことではないから、深くは追求しないでおこう。


 それよりもだ。せっかく家に帰してくれるというのなら、わざわざ帰らない選択肢を取る意味はない。


 今日はストロング缶でも買って帰るとするか。つまみはそうだな? ピザでも頼むとしよう。


 ・・・・・・そういえば、俺の部屋って黒杉グループの社宅だったはずだけど、もしかして追い出されるのか・・・・・・?


 ***


「失礼致します」


 池袋某所。株式会社シプレスの本社ビル、その社長室にて。


 高級ブランドのブリティッシュスーツをビシッと着こなした長身の男性が、重い扉を開けて入室する。


「桧山社長、が動きだしたそうです。何か手を打ちますか?」


 その視線の先には、漆黒のドレスに身を包んだ妙齢の女性。その異様なまでの近寄りがたい雰囲気を生み出しているのは、場違いとも言うべき服装のせいだけではあるまい。


「まあ、泳がせておけばいいんじゃないかしら? ・・・・・・どのみち黒杉はもうお終いなのだから」


 桧山と呼ばれた女社長は、薄暗い部屋で妖しく微笑んだ。

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