「いやー、やってくれたねぇ」
翌朝。研究所でのミーティングにて。
エレナは手持ちのタブレット端末でSNSの画面を見ながら、ケタケタと腹を抱えて笑っていた。
「まったく・・・・・・だから
楽しそうな様子のエレナとは対照的に、ユリアは眉間を抱えて顔をしかめている。
「いやー、まさか撮られてたことに気づいていなかったなんてね。間抜けすぎて笑えてくるよ」
「仕方ないだろ。パンツ覗くので忙しかったんだから」
「それのどこが仕方ないんだ・・・・・・?」
エレナのタブレットに映し出されていたのは、スマホを構えて女子高生のスカート内を覗き込む俺の写真。パンツを追うのに夢中でまったく気づかなかったが、どうやらもう一人の黒髪の方に撮られてしまったらしい。
その写真はSNSアプリ「ツイスター」に投稿され、瞬く間に拡散された。インプレッションの伸びた投稿の宿命ではあるが、コメント欄はもれなく地獄絵図と化している。
「え? ヤバw」
「キモすぎw」
「山本線でコイツに尻触られたことあるかも」
「お巡りさんコイツですw」
「襲われた自慢ですか?」
「スカートそんなに短くしてるからだろ」
「特定しますた。ブラックシダー池袋の佛雁穣二(42歳独身)」
「↑俺社員だけど、そいつクビになったよw」
「www」
「フォロー・拡散してくれたら、もっと激しいのDMで送ります♡」
「にしても、すごい燃えっぷりだねー。お、キミの好きそうなエ○スパムもついてるよ。よかったじゃないか」
どこまでも下に続いていくコメントの全てにわざわざ目を通しながら、心底楽しそうにゲラゲラ笑っているエレナ。
「うお、デカ! もっかい見せ・・・・・・ガフッ」
エレナに勧められたエ○スパムに大興奮していると、ユリアからのかかと落としが飛んできた。なんでだよ。勧めてきたのはあっちだろ・・・・・・?
「しかし、お嬢様。こんなに顔が割れてしまって、作戦の実行に支障出ませんかね・・・・・・?」
パンプスのかかとを直しながら、作戦の心配をするユリア。もっと他に心配することあるだろ。俺の後頭部の出血とか、どこかに飛んでった上の前歯とか。
しかし、俺の訴えは完全無視され、二人だけで話は進んでいった。
「まあ、別に問題ないんじゃないかい? ネット上でバズってるだけの奴なんて、案外リアルで見かけても分からんもんさ」
「だといいのですが・・・・・・」
楽観的なエレナと、なおも不安そうなユリア。
「まあ、もし使い物にならないようだったら殺処分にすればいいだけの話だしね。気楽に行こうじゃないか」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら、しれっと聞き捨てならないことを口走るエレナ。コイツ、今「殺処分」って言ったよな・・・・・・?
「確かにそうですね・・・・・・。お任せください! どういう殺し方がいいか、100パターンくらい考えておきます!」
コイツはコイツで、もう殺す気まんまんじゃねぇか・・・・・・。ていうか、こんなときばっかりいい笑顔しやがって・・・・・・。
「ま、そういうわけだからね。早く今日の作戦に移ろうじゃないか」
「そうですね。車用意してきます」
「ああ、頼むよ」
俺の命の危機など知らぬとばかりに、足早に駐車場の方へと歩きだすエレナたち。
「キミも早く来たまえよ。その様子を見るに、まだ爆ぜたくはないんだろう?」
エレナにおったてられる俺の脳内では、某売られる子牛の歌がエンドレス再生されていた。