「エネルギー・・・・・・ギョウシュクカイシ・・・・・・10%・・・・・・」
無機質な機械音声によるアナウンスと同時に、直径1mはあろう巨大な砲塔の奥では、赤紫色の雷にも似た禍々しいエネルギーの凝縮が始まった。
身の危険を感じて辺りを見回すと、巨大な大砲以外には何もない殺風景でだだっ広い謎の空間。地下シェルターか何かだろうか? そして、俺の四肢は枷で拘束され、壁に
「お、おい!? エレナ!? これはいったい!?」
命の危険を悟り、必死にエレナへと叫びかける。すると、エレナは操縦席の横で面倒くさそうに口を開いた。
「見れば分かるだろう? これからキミを殺処分する。ただそれだけの話だよ」
「さ、殺処分!? 俺がいったい何をしたって・・・・・・」
すると、操縦席のパネル操作の片手間で、ユリアが口を挟んできた。
「貴様はその軽率な行動によって、お嬢様の
「い、いや。あの作戦だいぶガバガバじゃ・・・・・・」
俺が反論しようとすると、ユリアは表情も変えずに、右手をレバーにかけ、左手でボタン入力を始めた。
「キュウソクギョウシュクモードニイコウ・・・・・・エネルギージョウゲンカイホウ・・・・・・リミットブレイクカイシ・・・・・・120%」
すると、砲身を走るエネルギーが加速し、砲塔から禍々しい光が、今にも溢れ出さんとばかりに漏れ始めた。
「うわー! やめろ! やめろ! ストップ! ストップ! エレナの作戦は完璧でしたと認めますので、どうか命だけはお助けをーーー!!!」
ユリアに向かって必死に命乞いを試みる。すると、なぜか少し満足気な顔をしたエレナがユリアのことを右手で制し、演説するかのように語り始めた。
「
「は、はぁ・・・・・・?」
言いたいことは多々あるが、目の前で今にもぶっ放さんとばかりにガタガタ震えている機械の存在が、俺に発言を許さなかった。
「今回の敗因は、キミの容姿がSNS上で拡散され、悪目立ちしてしまったことにある。つまり、キミを殺処分して代わりを用意すれば全て解決する。違うかい?」
一見理屈は通っているのかもしれないが、それにしたって結論が過激すぎる。しかし、ユリアが今にもボタンに手をかけようとしているこの状況では、反論のしようもない。
「しかし、キミを人間爆弾として人知れず爆発させたとしても、それでは何の生産性も無い。せめて何かの実験台として有効活用してあげないと、
どうしよう。ものすごく大声でツッコみたい。ただ、そうした瞬間に俺の死が確定しそうだったので、必死に言葉を呑み込んだ。
「ちょうどおあつらえ向きに、今試したい物が
そういえば「ブラックシダー」在籍中に小耳に挟んだことがある。黒杉グループ傘下である出版社「黒杉出版」が、新エネルギーの研究を始めたと。
「なぜに出版社がエネルギー研究?」と当時はよく分からなかったが、その研究成果にまさかこんな形でお目にかかる日が来ようとは。
「ワタシの試算では、タワーマンションくらいなら塵一つ残さず消し炭にできる火力だと踏んでいるのだけれど、生憎まだ人に向けて撃ったことはなくてね。せっかくだから、キミに記念すべき最初の犠牲者になってもらおうというわけさ」
演説を終えて満足したのか、エレナはユリアを制止していた手を下ろす。すると、ガタガタと震えるエターナル・フデオリキャノンMK=Ⅲの砲身へ、さらなるエネルギーが注ぎ込まれだした。
・・・・・・考えろ、佛雁。ここから助かる方法を。カオリにシャンパンタワーを入れるためにも、こんなところで死ぬわけにはいかない。
そういえば・・・・・・。エレナの演説のうち、とある一カ所を思い出す。そう、「試したい物が二つある」と言っていたはずだ。
どうせ二つ目もロクでもない代物に違いない。だが、いま目の前で凝縮されている、タワマンを一瞬で消し飛ばす程の威力だという禍々しいエネルギーをぶっ放されてなお俺が生きている確率と、まだ見ぬ二つ目でのそれとを比べた場合なら、辛うじて後者の方がまだ可能性が高い・・・・・・かもしれない。
俺は一縷の望みにかけ、エレナの方へと恐る恐る尋ねてみることにした。
「あ、あのー。ちなみにですね、試したいものの二つ目ってなんでしょうか・・・・・・?」