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番外編:業務日誌(黒杉出版 エネルギー開発課課長 矢見 緒智江)

R6.4.1

 黒杉グループ技術開発研究室「ラボラトリア・セデーロ」黒杉玲那れな室長よりメールあり。「新エネルギーの開発のため、強いマイナス感情を収集したい」とのこと。

 エイプリルフールの冗談と判断し、対応せず。


R6.4.2 

 黒杉室長よりリマインドのメールあり。どうやら本気らしい。

 室長とのミーティングを実施し、恨みのエネルギーの具体的な収集方法を協議する。

 ・・・・・・元作家志望者として良心は痛む。しかし、黒杉出版は10年連続赤字を叩き出している赤字部署であり、やらない選択肢はない。


R6.4.9 

 エネルギー開発課発足の正式発表がされ、同課課長への就任辞令を受ける。


R6.4.10

 当社運営のweb小説投稿サイト「クロページ」にて、ライトノベルの新人賞「KSノベル大賞」の開催概要を発表。賞金に1億円と書籍化確約を提示し、多くの作家志望者を集めることを目的とする。

 ユーザーからもランクの変動がリアルタイムで追えるようにし、マイナス感情の扇動を試みる。


R6.4.17

 ランキングの始動は、力のある作品が上位を走る順当な滑り出しとなり、ユーザーのマイナス感情はあまり集まっていない。

 このままでは目標値の達成には程遠いことを、黒杉室長へと報告する。


R6.5.1

 ランキングおよびマイナス感情の経過は変わらず。

 黒杉室長より、全自動小説生成装置「悪弄おろうくん」が届く。

 ・・・・・・これだけは使いたくなかったのだけれど。


R6.5.2

 黒杉グループ社員の個人情報を用い、10万人規模の架空ユーザーを「クロページ」へと登録。

 各ユーザーのアカウントから「悪弄くん」によって生成された小説作品を「KSノベル大賞」へと参加させる。

 そして、毎日各ユーザーによる「悪弄くん」作品への投票を実施し、ランキングのジャックを試みる。


R6.5.9

 ランキングの経過の中間チェック実施。「悪弄くん」作品が各ランキングを席巻していることを確認。

 ユーザーのマイナス感情も爆発的に増大し、目標値を大きく上回るエネルギーが採取できそうだ。


R6.5.15

「KSノベル大賞」の募集期間終了を待たずして、マイナス感情は目標値を大幅に上回った。もう、こちらから手を下す必要性もない状態だ。

 暇つぶしに「悪弄くん」作品の一つを読んでみることにする。

 ・・・・・・下品で扇情的なタイトル。本文も、ちまたで流行っているジャンルや設定を全て無理矢理詰め込んだかのような、とても読むに堪えない代物。


R6.5.22

 目標の早期達成に伴い、収集したマイナス感情を黒杉室長へと転送する。


R6.6.1

 マイナス感情のエネルギーへの変換は順調とのこと。


R6.6.7

「KSノベル大賞」募集期間終了。

 各賞に選出されるのは「悪弄くん」作品とすでに決まっているため、これから選評をでっちあげなければならない。アレを読み返すのかと思うと頭痛がする。


R6.6.12

 黒杉室長より。試作品が自らのエネルギーに耐えきれずに爆発したらしい。

 ・・・・・・いったい何を作る気なのだろう。


R6.7.1

「KSノベル大賞」受賞作品の発表をする。

 と、いっても受賞は全て架空アカウント。賞金を払う必要もなければ、書籍化だって「受賞者本人の意志で辞退した」とかでっち上げておけばいい。


R6.7.13

 黒杉室長より。エネルギーの持続的な確保のため、「KSノベル大賞」もしくはそれに準ずる企画を継続開催するよう指示を受ける。

 ちなみに、試作品はまた爆発したらしい。


R6.8.2

「KSノベル大賞2」の開催概要を発表。前回よりもユーザー離れが予測されるため、賞金を10億円につり上げて様子を見ることにする。

 どうせ払う必要のない金だ。いくらに設定したって問題はない。


R6.8.15

「KSノベル大賞2」募集開始。

 今回こそはとユーザーに期待を持たせるため、初動からの「悪弄くん」投入はせず。


R6.9.1

 初動はユーザーが慎重になっていたからか参加者数の伸びがイマイチだったが、徐々に右肩上がりの傾向に変わってきた。

 満を持して「悪弄くん」作品の投下を行なう。


R6.9.15

 前回基準の目標値を下回るのではないかと懸念されていたマイナス感情だったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。「ツイスター」を覗いてみても、阿鼻叫喚の声で溢れている。

 そんな折、黒杉室長より試作品の完成報告とその写真が送られてきた。

 これは・・・・・・大砲・・・・・・? エレナのやつ・・・・・・いや、黒杉室長は相変わらず意味の分からないものばかり作っているな。

「ご協力のお礼に、オチエっちにコイツの命名権をあげるよ」とのことだが、別にどうでもいい・・・・・・。まあ、せっかくだから考えてあげるとするか。

 意味もなく開いたままにしていた「ツイスター」のタイムラインには、とあるユーザーによる「もうエタらせて筆を折ります」という絶望した書き込みがちょうど投稿されたところであった。

 そこから名前の案を思いついたため、黒杉室長へメールを返信する。


「エレナ。その破壊兵器の名前だけれど『エターナル・フデオリキャノン』ってのはどうかしら?」


「ほう。作家の絶望を糧とするコイツにピッタシのいい名前じゃないか。流石はオチエっち。じゃあ、エネルギー供給の方、引き続きよろしく頼むよ」

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