「ああ、二つめかい? 別に大したものじゃないよ?」
エレナは、あまり乗り気ではなさそうに口を開いた。
「大したものじゃなくていい! エレナが何を作ったのかが、気になって仕方ないんだ!」
むしろ「エターナル・フデオリキャノンMK=Ⅲ」をも上回るような
「うーん。でも、絵面が地味だからねえ。私としては派手にぶっ放す方が気分爽快でいいんだけどなあ」
「地味だからこそ素晴らしいものだってあるじゃないか! 就活生のリクルートスーツとか!」
「就活生へのセクハラがバレて人事部外された君が言うと説得力が違うね。それはさておき、そんなに気になるなら見せてあげようか」
なぜそれを知っているんだ……? まあ、このままいけば「エターナル・フデオリキャノンMK=Ⅲ」は回避できそうだし、この際それはいいか。
「ユリア、アレ持ってきて」
「わかりました。お嬢様」
エレナの指示を受け、ユリアが部屋の外へと姿を消す。鬼が出るか蛇が出るか。祈るような心持ちで、俺はその後ろ姿を見送った。
数分後。戻ってきたユリアの手には、注射器が握られていた。在りし日のトラウマが刺激されそうになるが、幸い今度の注射器は見た目だけは普通だった。見た目だけは。
「えっと……それは?」
恐る恐るエレナへと尋ねてみる。
「黒杉総合病院から頼まれていた、新種の麻酔薬だよ。患者の動き
エレナはあっけからんとした様子で答える。
あれ? 想像していたよりもよっぽどまともな気がする。そもそも、麻酔って動きを止めるためのものだし。
俺はホッと胸を撫でおろした。腕は枷に拘束されてるけど。
「じゃあ、せっかくだし、コイツを使って整形手術でもするかい? 顔だけでも変えておけば、
キタ! このまま手術の方に持っていければ、少なくとも死だけは免れることができる。俺のハンサムフェイスがいじくられるのは不本意だが、命に比べれば安いものよ。
「ああ! 俺もそれがいいと思う! ちょっと作戦失敗したくらいでいちいち殺してたんじゃ、命がもったいない!」
「心からの叫びをどうもありがとう。私だって鬼じゃない。そんなに言うなら、キミの願いを叶えてあげようじゃないか」
「よっしゃーーー!!!」
腕は拘束されて動かせないため、心の中だけでガッツポーズをする。
「じゃあ、ユリア。佛雁君にそれ投与してあげて」
「はい。お嬢様」
エレナの指示を受けるやいなや、ユリアが俺の左側へと瞬間移動のように現れる。そして、そのまま俺の首筋へと注射針が突き刺された。
麻酔が効き始めてきたのか、枷とは関係なく四肢の動かせなくなっていく。そして、そのまま俺の意識はまどろみの中へ……って、あれ?
ふと感じた違和感。いつまで経っても意識が消えていかない。麻酔が足りてないのかとも思ったが、四肢も口も動かせず、それを伝えることもままならない。
するとエレナは、そんな俺の思考を読んだかのようにニヤリと笑みを浮かべた。
「だから、言っただろう? 動き『だけ』を止める麻酔だって。痛みはこれっぽっちも消えないから、手術の間頑張って耐えてくれたまえ」
エレナからの言葉を聞き、サーっと血の気が引くような思いに襲われる。
「慈愛に満ち溢れた私にとっては、こんな残酷な麻酔、何に使うのか
この期に及んで白々しいことを言ってのけるエレナであったが、その顔が思い切り
「じゃあ、ユリア。佛雁君を手術室に連れて行っといて。私は手術道具を用意してから後で行くよ。メスとかドリルとかね」
麻酔のせいで、抵抗はおろか「やめろー! 助けてくれー!」と叫ぶことすらできず、俺はあえなくユリアへと連行されて行った。
***「見せられないよ!」(手術シーン)***
「うーん、カンペキ。前よりいい顔になったじゃないか」
「さすがです、お嬢様。しかし、なぜでしょうか? 見てると無性に腹が立つ顔ですね。最近どこかで見たような……?」
「せっかくだから、さっき暇つぶしに読んだ週刊誌に載ってた顔に似せてみたんだけどねえ」
「ところで、麻酔の具合はいかがでしたか?」
「ああ、これはダメだね。失敗作だ。せっかく痛みを残しても、叫び声の一つも上げないんじゃ意味がないだろう?」