この世のものとは思えない地獄の手術が無事(?)に終わると、俺はユリアによっていつもの研究室へと運びこまれ、その床へと乱雑に転がされた。ひんやりとした床の冷たさと、いまだに顔に残ったジンジンと熱い痛みの対比をしばらく味わっているうちに、徐々に四肢に動きが戻ってくる。
そんな俺の様子を見て、すっかりだらけきった様子のエレナが口を開いた。
「お、お目覚めかい? せっかくだし鏡でも見てきたらどうだい?」
ずっと
とりあえず身体を起こそうとしたが、何だかやけに軽い感覚がして、いちいち違和感を覚える。42年間慣れ親しんできた感覚が、急にまったく違うものへと差し替えられてしまったようで、非常に馴染みが悪い。
しかし、人のことを地獄に叩き落とした張本人はすっかり興味を失った様子で、呑気にビーンズチェアに寝っ転がって週刊誌なんか読んでいた。
「あ、ユリア。ポテチ持ってきて」
「はい。お嬢様」
自分の手すら使わずに、ユリアにポテチを食べさせてもらっているエレナ。そんなだらけ主従の様を尻目に、俺はトイレへと向かい、変わり果てたであろう自分の顔の有様を確認することにした。
***
「これが・・・・・・俺・・・・・・?」
人を食ったような切れ長の細目。シュッと整った細い鼻筋。常ににやけた笑みを浮かべているようにも見える薄い唇と吊り上がった口角。10年前からレッドリスト入りしていたはずの絶滅危惧の毛根からは、小憎らしいナチュラルパーマのかかった髪が生えている。
そして、せっかく108㎏も蓄えた肉の鎧はどこへやら。スラッとした細マッチョの肉体へと変貌していた。
いわゆる「塩顔系細マッチョイケメン」というやつなのか、これは? 俺としては、カオリにも「恵比寿様の生き写し」とまで言われた、全身から溢れ出る慈愛を隠しきれないわがままボディの方が気に入っていたんだが・・・・・・。まあ、これはこれで悪くはない。
そうだ。せっかくだし、俺の新たな姿をカオリにも見せてやろう。
俺はスマホを取り出し、「Voyanger」のサイトを開く。よし、カオリは出勤してるな。
そうと決まれば、善は急げだ。俺はさっそく、物理的に軽い足取りで「Voyanger」まで向かうこととした。
***
一方その頃。研究室にて。
週刊誌を読み終わったエレナが、思い出したかのように呟いた。
「そういえば、佛雁君遅いね。ウンコでも止まらなくなったのかな?」
「それにしたって1時間以上ってことはないでしょう・・・・・・。逃げたのかもしれません。連れ戻しましょうか?」
「いいよ、べつに。ほっといて。あらかた『Voyanger』にでも行ってるんじゃない?」
「しかし・・・・・・」
「ま、帰ってこなかったら、そのときは爆ぜてもらえばいいだけの話さ。そんなことよりユリア。コーラ持ってきて」
エレナは、ビーンズチェアの脇に無造作に放り投げられたタブレット端末へと目線をやりながら、ニヤリと笑みを浮かべた。