佛雁と謎の執事くんは、神社の外へと足早にその姿を消していった。
・・・・・・ついにそっちにまで手を出し始めたか。相変わらず救いようのないクズ野郎のようで、いっそ安心感さえ覚えてくる。
「桧山さん。こうしてお会いするのは久しぶりですね」
奴らの姿が見えなくなると、先程まで狼狽えていた巫女さんが一転、淡々とした様子で口を開いた。
「ええ、あの日以来・・・・・・かしら・・・・・・?」
あの日もらった石玉は、シプレスの社長室で厳重に祀っている。なにせ今日までのシプレスの発展、および打倒ブラックシダーへの重要な布石だからだ。
「御朱印RTA協会の会長までしてくださって、桧山様には頭が上がりませんよ」
「別に大したことはしてないわ。参加者が増えたわけでもあるまいし・・・・・・」
「そうでもないみたいですよ。先程の彼も、どうやら御朱印RTAのために来たみたいですし。・・・・・・最も、規約違反なのでタイムにはカウントされませんが」
佛雁が・・・・・・? いったいどういう風の吹き回しだろう・・・・・・?
「実は、また新しく景品を用意したんですよ。とはいっても、また例の石玉ですけどね」
そういうと、巫女さんはどこに隠していたのか、私が貰ったものと全く同じ見た目の石玉を取り出した。
「もし彼が規約を遵守していたら押しつ・・・・・・差し上げようかと思っていたのですが、ちょうどよかったです。あなたにお渡しした方が有効活用してくれそうですし」
「あら、いいのかしら? これもまた貴重なものなのではなくて?」
「ええ。二つあって初めて真価をするものですから。なんたって
二つの玉ってそういうこと・・・・・・? なんだか急にあんまり触りたくなくなってきたような・・・・・・。
「社長!? ご無事ですか!?」
私が玉の扱いに困っていると、鳥居の方角から秘書の鈴木の慌てた声が聞こえ、駆け寄ってくるのが見えた。
「どうやらお迎えの方が来たみたいですね。では、またいつかお会いしましょう」
鈴木の声は巫女さんにも聞こえたようで、彼女はそっと呟いた。
「いったい何があったんですか、社長!? 救急車呼びますか!?」
御朱印受付カウンターの中で倒れたままの私を見て、血相を変えて携帯電話を取り出す鈴木。巫女さんと話しているうちに目眩も大分落ち着いてきていたので、私はすっと立ち上がり、今にも通報しそうな鈴木の手を抑える。
「大丈夫よ。別に何ともなってないわ。・・・・・・それよりも、これ持っててくれる?」
「もちろんです。って、これ、社長室の石玉では・・・・・・? 持ってきていたのですか?」
石の玉を突然押しつけられ、しかも社長室のものとそっくりだったためか、鈴木は訝しむ様な目線を向けてくる。
「いいえ。こちらにいる巫女さんからいただいたのよ」
倒れている私の傍らで、無表情のままダブルピースをしている巫女さんのことを指して紹介するが・・・・・・
「社長・・・・・・中には誰もいませんよ・・・・・・? やはり救急車を・・・・・・!」
巫女さんの姿は鈴木には見えていないようであった・・・・・・。