「発動ッ!【
それこそ。その魔法こそ、ロンベル=シュナイザーが他の《A》
この
彼ら彼女らは生まれつき────類を見ない程に頑丈であり、強靭であった。そして、常軌を逸する桁外れな膂力を有していた。誰が最初にそう言ったか、いつしかその者たちは皆、超人体質と呼ばれるようになった。
そんな超人体質の一人に該当するロンベルは拳をただ振るうだけで、【
そんなロンベルに────というよりは、彼と同じ超人体質の者たちのみ、行使し得る魔法。彼ら彼女らにのみ使うことが許された魔法────【
そもそも使用できる人間が数人と限られている為に、その詳しい原理や正しい効果についてはまだ判明していない。そんな中でただ一つ、唯一わかっているのは。
超人体質による人並外れた頑丈さと強靭さを以てして、それでようやく初めて耐えられる程の絶大な負荷を経て。【強化】を優に、遥かに超える、埒外な強化を得られるということ。
ただでさえ何もせずとも殴打の一発で〝殲滅級〟の
そんなロンベルが【超強化】を使えば。その場合に限っての話ではあるが────ロンベル=シュナイザーは《S》
その上、ロンベルが先程自身に打った注射────自身に注入した、あの赤い液体による。劇的なまでに人間離れした肉体強化がそこに合わされば、『
「覚悟、しなぁ……この一撃、は……放つ俺ですら、どうなんの、か……わからねぇ……ぜ」
と、【超強化】の尋常ではない程に絶大な負荷を。普通の人間であればまず一秒と保たず、肉体と脳が自壊しているだろうその負荷を耐えつつ、苦し紛れにロンベルはそう呟く。
「せめてもの、ほんの些細、で……なけなし、なッ、
正常からは程遠い速度と勢いで、目紛しく早急な循環を何度も繰り返す血流により。全身に張り巡らされた血管という血管の全てが、破裂寸前にまで膨張していることで。今やロンベルの肌は赤黒く変色しており、また体温が異常なまでに高まっているのか、彼の周囲の景色は陽炎のそれと同じように歪み、揺らめいており。そして驚くべきことに彼の身体からは、蒸気が立ち昇っていた。
体温の異常上昇に伴う、凄まじい発汗により。文字通り、ロンベルの身体から滝のように汗が流れ出し、地面に滴り落ちると。接触する瞬間、焼けたような音を立てると共に、彼の汗は弾け散った。
揺らぐ蜃気楼を纏いながら、全身を包んでも尚有り余り、絶えず滾って仕方がないその魔力を。他の
「
ほんの僅か、微塵たりとて、一切合切残さず。注ぎ、全集中させた。
ボゴンッ──そうして更に倍以上に膨張し、脅威の巨大化を果たすロンベルの右拳。彼はそれを重々しく振り上げ、クラハに告げる。
「
そしてロンベルは、振り上げたその右拳で以て。今まで逃げ出す時間、瞬間は幾らでもあったというのに。その場から一歩も動かず、ロンベルの眼前から退かず。依然として
思い切り、力の在るが
クラハの右頬に、ロンベルの
そしてクラハの右頬から突き抜けたロンベルの拳打の衝撃が、離れた壁にも伝わり。中心に大穴を穿ち、その周囲を深く陥没させ、全体に亀裂を縦横無尽に走らせた。
……もはやそれは、拳で人を殴った、その余波という範疇を多大に超えており。そしてその到底受け入れ難く、呑み込み難い事実は当然口伝などでは信じられず。例え目の前で見せつけられたとしても、それでも多くの人々はその現実を理解することを拒んでしまうだろう。
何せただの肉体、ただの拳の一発が。下手な魔法を凌駕してしまったのだから──────────
「…………」
──────────そして、最後まで何もせず。魔法に頼ることも、防御もしないで。その人体が放つにはあまりにも度を越した威力の一撃を受けたが。
クラハの頭部は形も歪まず、無事に残って、首とも確と繋がっていた。
「……がっ、な……っ!」
そんなあり得ない、あるべくもない、あってはならない現実に直面したロンベルは。クラハの右頬を殴りつけたその姿勢のまま、驚愕に目を見開き絶句するに他なく。
少し遅れて、クラハの口端から血が流れ、伝い。そうして彼が呟く。
「……今のは効きました」
と、呟くや否や。クラハもまた己の拳を握り締め、力を込め。
「【
そう言い終えると同時に。固まって動けないでいたロンベルの、無防備に晒されている────訳ではなく。過剰に盛り上がり、異常なまでに隆起した筋肉によって覆われ、素手はおろか剣の刃すらも通さぬ守りを得ている、彼の鳩尾に。
ズドッ──クラハの拳が、深々と突き刺さった。