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終焉の始まり(その六)

 動物であれ、植物であれ。とにかく、この世界オヴィーリスに生きとし生ける、如何なる存在モノは。


 皆全員、多少の差異はあれど。ほぼほぼ、同一の魔力を有している。そしてその全てが、別の魔力に変化できるという性質を持ち合わせていた。


 汎用魔法ゼネラル────その名が示す通り、これはその気になりさえすれば誰もが会得でき、誰もが扱える、誰のであっても同じ魔法。広く知られる【強化ブースト】や【放出バースト】もこれに分類される。


 生まれ持った己の、万変の魔力を。まるで多種多様の絵具を塗り込ませた粘土を捏ね繰り回すようにして行使する。それがこの世界で言う魔法の正体。そういった原理と仕組みから成った、技術と手段。


 が、それは汎用魔法に限らず、例えば銀行バンクから金銭を引き出したり、引き入れる際に使われる【次元箱ディメンション】の応用である魔法や。近年、第二セトニ大陸や第四フォディナ大陸で加速的に普及している、個人の魔力に反応して開閉する鍵などにも。それらは採り入れられている。


 ……しかし、どんなことであっても。というものが存在する。そして無論、魔法に於いても。


 固有魔法オリジナル────それは個々の者たちが各々で扱う魔法。同じものは一つとしてない、絶対の唯一無二の、正に汎用魔法とは対極に位置する魔法。世の魔法の常識を覆し、その理から外れ、囚われない魔法群である。


 そもそも先程説明した通り、この世界オヴィーリスに生ける存在モノは皆全て、ほぼほぼ同一で、変幻自在の性質を持った魔力を有している。


 しかし、ごく稀に、未だ僅かではあるのだが────そうではない、そうとは限らない例外がいる。在る。その存在らの魔力は根底から根本的に、全く以て異なっている。それこそ唯一無二で、同じものは一つとしてない。


 但し、それらに限ったことではあるが。それらの魔力は従来の魔力とは違い、であること。故に固有。故に、固有魔法。


 だが不変であるが故に、固有の魔力を持つその存在モノたちは、その都度変質させることで行使する汎用魔法を扱えない。それだけに関わらず一般的ではないが為に、現在流通している魔道具の類も反応しないので、使うこともできない。


 そして良くも悪くも、固有魔法はその全てが余すことなく、個々の才能に左右される。早い話、その地形一帯を丸ごと変えてしまう程の超絶大的な破壊力を有した固有魔法もあれば、どう転がっても使い物にならないだろう固有魔法────所謂、外れというのもある。そしてそれは幾ら努力しようが、どれだけ修練に鍛錬を重ねようが、どうこうなりはしない。どうにもならない。どうしようもない。


 とはいえ、魔物相手には効かず実力が違い過ぎる者にも通用しないが、逆にその条件に当て嵌まらない人間であれば昏睡させ、その上記憶までも奪い取れるものや。汎用魔法ゼネラルである【探知サーチ】では認識できない存在を認識できる────だけに関わらず更に様々な詳しい情報を知ることが可能なものと。汎用魔法は一線を画する魔法ばかりだ。


 これらの事実が指し示す通り、固有魔法オリジナルは常識を覆し、理に囚われない────どんなものであっても、侮れないのだ。


「これでわかったでしょ、君がこうして乗ってていい理由」


「……ええ」


 そこで、クラハとユアの会話は途切れた。二人の間に静寂が流れ、より一層馬車の車輪と地面が擦れ合う音、時折小石を轢く音。それに混じる、風に揺られた木々の騒めき────普段であれば気にも留めない様々な音が、やたら耳に届いてくるようになる。


 そうして暫しの時間が過ぎて────不意に、またしてもユアがその口を開かせた。


「私こういう無言の時間、あまり好きじゃないんだよね」


「……」


「だから何か話そうよ。てか話すね」


「…………」


「えーっと確か三週間、いや四週間前だったかなあ。少なくとも一ヶ月はギリ経ってない。と、思う」


 クラハからの了承を待たず、宣言通り話し始めるユア。そんな彼女を、しかし彼は止めようとはしない。彼にとっては、別に彼女が何か話そうが話さまいが、どうでもいいことなのだから。


「あの時もこうやって旅してたんだー。途中荒野で拾った、と」


 故にクラハはユアの話を聞き流す────






「いやあ新聞で見た時は流石に驚いたよ。まさか本当にあの子が……あの女の子が、だったなんて」






 ────────ことが、許されなかった。

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