『
第一大陸は当然として、他の各大陸からも
そうして彼らや彼女らは皆、各々が持ち寄った自慢の品々────例えば世界最高峰の絵画や、この世で最も希少な宝石に、重大な史実を書き記した書物だったり。
とにかく多種多様な数々の物品を制限なく
故に『出品祭』。ある者は己が人生の為に、またある者は一時の娯楽の為に。そういった人々の様々な理由が複雑に入り混じり、絡み合いながら。
そうして年に一度きりの、競売の大祭は。今日この日、満を持して開催される。
「うわぁ……人が沢山、いっぱい」
オールティアの街道。普段から通うその道は今、人で溢れ返り、人がごった返していた。
初めて目にするその光景────否、記憶を失う前にも見たことはあるのかもしれないが。とにかく、メルネから話には聞かされていたものの、こうして実際に目の当たりにすると。ラグナはただただ圧倒され、呆気に取られる他になかった。
「『
普段も普段で人通りが盛んで、如何なる日であっても活気が満ち溢れているが。しかし、今日ばかりは訳が違う。それは比較にもならない。何ならちょっとした恐怖すら込み上げてきそうである。
──あの中を歩くのは、ちょっと勇気いるよ……。
遠巻きにそれらを眺めつつ、ラグナは戦々恐々とした思いを胸中に抱きながらも。
「……よし」
少ししてから意を決し、そうしてラグナはその場から歩き出した。
──…………私、今日大丈夫なのかなぁ……?
という、一抹の不安に後ろ髪を引かれながらも。
その拭えぬラグナの不安の原因は、昨日の出来事にあった。
「それじゃあお気をつけて、行ってらっしゃい」
と、花が咲いたような可憐な笑顔で。若手の
「……はぁ」
今し方浮かべていた笑顔を崩し、物憂げに嘆息するのであった。
──昨日からクラハさんの家で生活し始めたけど……。
『メルネ。私、少しの間あの家で……クラハさんの家で生活してみたいです』
そうすれば何か、手掛かりのような。或いは、切っ掛けのような。そういったものが、わかるかもしれない。掴めるかもしれないと思ったから、そう提案したというのに。
未だ、ラグナは
──頭に浮かんでくるのは知らない
そのことに言い表すことのできない、もやもやとした、やるせない
ギィイイイ──徐に『
──え、な、何……?
と、手を止め当惑するラグナ。広間にいた他の
数人の男たちは左右に分かれ、互いに向かい合うようにしてその場に立ち。そして扉に一番近いにいた者は、扉を開放させたままにしている。
一体何事かと誰もが思っていた、その時────足音が聞こえてきた。
「お、おい……」
「え?えっ、嘘?」
「……マジかよ……」
その足音を伴いながら、『大翼の不死鳥』の広間へと踏み込んで来たその人物を目の当たりにした、この場にいる殆どの者が。信じられないといったような様子で騒めき立ち、口々に呟く。
そんなことや注がれる視線を意に介することなく、その人物は真っ直ぐに歩き続け。
「……い、いらっしゃいませ。えっと、その……本日はどういったご用件で……?」
そうして、ラグナが立つ
若干戸惑い気味に、この場合どういった対応をすればいいのかわからず、それでもわからないなりに言葉を選んで口に出したラグナを。
その人物────外見からして四十代前後だろう、初老の男性は。ゆっくりと、上から下まで眺め。
「なるほど。やはり、私の目に狂いはなかったということだな」
と、妙に深い声音でそう呟くのだった。
「……は、はい……?」
何の前触れもなく唐突にそんなことを、それも見ず知らずの老人からかけられたラグナは。当然、困惑に満ちた声を堪らず漏らすのであった。
「さて。お嬢さん……いや、《SS》
「え、あ……そ、その」
老人────ロデルト=ギーン=レヴォルツィにそう言い詰められ。未だ困惑から抜け出せないでいるラグナはあたふたとしてしまい、対応に窮してしまう。
──ど、どうしよう。とりあえずこの人の言う通り、グィンさん呼べばいいの……!?
と、混乱に陥りながらも、ラグナが必死に思考を働かせていた、その時。
「いやいや、お久しぶりです。ロデルト
という挨拶と共に、受付嬢らの休憩室やGMの執務室に続く扉が開かれ、その奥からグィンが現れたのだった。
「グ、グィンさん……!」
「ありがとうラグナ、ここからは私が対応するよ。……それで、ロデルト公。遠路遥々こんなところに、それも貴方自らお越しになるとは。本日はどういったご用向きで?」
傍らでグィンの言葉を聞いて、ラグナはゆっくりと理解する。
──ロデルト公……公ってつまり、この人貴族様で、その中でも凄い貴族様ってこと……!?
つい今し方まで話していた相手が、予想だにせず想像もし得ない程の大物であったことを知り。どうりで
──……あれ、私大丈夫かな?ちゃんと対応できてなかったけど大丈夫かな!?大丈夫じゃないよね?!
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……」
と、先程の粗相を振り返り、自らに課せられるのではないかという酷な処遇について考えてしまい、堪らず顔面蒼白となってしまうラグナを他所に。
「それは薄々、君も察しがついているのではないかね?」
「……ええ、まあ。恐れながら」
グィンとロデルト、二人の男は言葉を交わす。それから数秒の沈黙が過ぎた後、先に再び口を開いたのはグィンの方であった。
「ロデルト公。このような場所で立ち話もなんでしょう、奥の来賓室にでも」
「ああ。君の厚意を受け取ることにしよう」
そう答えたロデルトは、徐にラグナの方に顔を向けた。
「ラグナ殿。君も同席してもらいたいのだが、よろしいかね?」
そして固まるラグナに、ロデルトがそう言うのだった。