「クラハッ!!」
と、咄嗟に叫んだものの。当のクラハは剣身を砕かれ、もはや武器としては機能しない剣の柄を握ったまま、呆然自失としており。
直後、そんなクラハの顔面を、振り下ろされたエンディニグル・ネガの拳が打ち抜くのだった。
「無駄無駄ァ!この間抜けがァハハハハッ!!」
エンディニグル・ネガの嗤い声と共に、宙に浮いて吹っ飛んだクラハの身体が、無事に原型を留めていた数少ない教会の
「思ったか!?この我に、このエンディニグル・ネガに!多少弱くなったからといって、勝てると本気でそう思ったのかよお!?そんな
と、叫ぶエンディニグル・ネガの周囲の空間が歪み、影のように黒い手が現れ、依然として微動だにしないクラハの元に伸びる。
「度し難し!度し難し度し難し度し難し!!度し難いこと、この上なしッ!!!」
黒い手は倒れたままのクラハの手足を掴んで持ち上げ、宙に掲げ。そして別の黒い手が、彼の首を掴む。
「お、おい!止めろっ!止めやがれっ!!」
その光景を目の当たりにしてしまったラグナが、堪らずにそう叫びながら、その場から駆け出そうとして────
「おっとォラグナ=アルティ=ブレイズ!そこから一歩ッ!ピクリとでも動いてみるがいい。その瞬間、こいつの首を
────が、透かさずエンディニグル・ネガにそう釘を刺され、ラグナは歯痒い思いを抱えながら、その場に踏み止まらざるを得なかった。
「エンディニグル……!」
「ネガを忘れるんじゃあない、このスカタンがッ!……さて、気分はどうだ。ええ?ラグナ=アルティ=ブレイズ?こんな風に、大事で大切な、愛おしい愛おしい自分の男を人質に取られている気分はァ……?」
鋭く睨めるラグナに対して、エンディニグル・ネガは邪悪で反吐が出る
「…………」
どうにか、辛うじてではあったものの。クラハは意識を未だ保っており、彼はラグナのことを見下ろしていた。
──……クラハ。
ラグナにはわかる。クラハの眼差しに込められている、彼の思いが。自分のことなど捨て置いて、どうにかしてでもなんとか、ここから逃げ出して、生き延びてほしい────そんな切実な思いが。
無論、ラグナに逃げる気もなければ、クラハを見捨てるつもりも毛頭ない。後輩の頼みを足蹴にすることに対して心を痛めつつ、ラグナは不退転の決意と覚悟を以て、依然エンディニグル・ネガを鋭く睨みつける。
しかしそれを大して気にすることもなく、エンディニグル・ネガは嘲笑うかのように言う。
「助けたい、かあ?助けたい、よなあ?こいつを助けたいだろう、ラグナ=アルティ=ブレイズ」
「……俺は何すりゃいいんだ。さっさと答えやがれ」
「そっちが指図してんじゃあねえぞッ!!こっちが指図するんだッ!!」
赤黒く血走った目を全開に見開かせ、唾と共にそう叫び散らすエンディニグル・ネガ。その傍らで、慌ててクラハが口を開き────
「逃げ」
────透かさず、また新たに伸びた黒い手により、クラハの口は塞がれた。
「お前はもう喋るな。次喋ったら殺す」
と、エンディニグル・ネガはクラハの顔を覗き込むようにして凝視しながら、淡々と彼にそう告げる。そして再び、更に険しい、確かな怒りが滲む表情を浮かべるラグナの方に向き直る。
「貴様からも頼んでくれないか?なあ。実を言うと我とて殺したくはないのだ。ここで殺してしまうと……まあ、色々と台無しになってしまうからな。そう、色々と」
「……黙っててくれ、クラハ。俺なら大丈夫だから」
エンディニグル・ネガの何か含みがある言葉に引っかかりを覚えながらも、奴にクラハを殺させない為に、ラグナもまた彼に念を押す。
「…………」
口を塞がれたまま、苦虫を噛み潰すような表情で、クラハは渋々小さく頷くのだった。
「よし。これでようやっと本題に移れるというもの……ラグナ=アルティ=ブレイズ。頭に付けているその花飾りを外せ」
「……は?」
「いいから外せってんだよダボがァーッ!
凄絶なまでの憤りを存分に曝け出しながら、エンディニグル・ネガはそう叫び散らし。黒い手の五指がクラハの首に沈み、食い込んだ。
「わ、わかった!外せばいいんだろっ!!」
その様を見せつけられたラグナはそう言いながら、慌てて頭に手をやり、言われた通りに薔薇の花飾りを外す。
「これでいいのか、ああ!?」
そうして、エンディニグル・ネガに向かって今し方外したその花飾りを突き出すラグナ。それを見やり、かの神は口端を吊り上げた。
「外したな?その身に付けているものを、お前は外した。外した、外した外した外した……ハハハハ!」
と、嗤うエンディニグル・ネガのことを訝しげに見つめるラグナ────不意に、また新たに黒い手が現れ、それはクラハへと伸びたかと思えば。彼の右手に触れ、徐に人差し指を掴み、握り。
ボキッ──瞬間、まるで乾いた枝を折ったような、そんな音が教会に響いた。
「ハハハハ!ヒャハハハァッ!」
悪趣味極まり、聴く
口を塞がれていてもわかる、痛みに歪んだクラハの顔と。そしてあり得ない方向に曲がった、彼の右手の人差し指を。
次第にその指が青紫に近く変色し始めた頃────ようやっと、ラグナは目を見開かせ。そして未だに嗤い続けているエンディニグル・ネガに向かって、叫んだ。
「何やってんだッッッ!!!お前ぇえええッッッッ!!!!」
と、当然のように激昂するラグナに対して────
「
────そう、エンディニグル・ネガは平然と言い放つのだった。