黒き獣。神を喰らう
彼の獣の威容、
大熊のように
その
円環
全てを以て総てを記す。
「『黒黙示録』ですか」
四方を囲む純白の壁。ステンドグラスが嵌め込まれた窓。そして祭壇であるべき場所に、些か巨大過ぎるであろう玉座────故に、玉座の間。
「当たり。流石はアエリオ君、
その玉座の巨大さに劣らないほどの、美麗なステンドグラスを背に。そこに座る一人の者は楽しげに、そして愉しげに言う。
随分と凝った意匠が施された、祭服。見た目からしてだいぶ重そうなそれを着る、
「まあ別に、特には関係ないの事だけれどね。『黒黙示録』と今する話は。そう、赤裸々に語ってしまうと、ただの前準備みたいなものなのさ。こっちもぶっつけ本番というのは、できれば遠慮したいからね」
一見して男のように見えれば、女のようにも見えるその
「そうですか」
そんな
少年か少女か。青年か淑女か。年若くも見えれば、年老いているようにも見える玉座の者は。やはりこの世ならざる
「パパっと色々考えたものの、やっぱり単刀直入が一番だねパパっと色々。という訳でアエリオ君、近々無数にある内一つの荒野が
「そうですか」
荒野が吹き飛ぶ────それは
だがしかし、玉座の者が言うと────何故か、これといった根拠などないというのに、到底無視できない説得力がある。必ずそうなるのだという、運命の一言に聞こえてならない。
そしてそれは青年────アエリオ=ルオットにとっては
故にだからこその、実に淡白な反応。無論玉座の者にとっても、別に初めてという訳ではない。
「うん。だから君には見届けてほしいんだ。次いでにね。折角だしね」
「わかりました」
「ありがとう。話はこれで終わり。もう下がっていいよ」
「御意。全ては御心の為に」
そうして二人の会話は、まるでこうなると元より定められていたかのように、何の支障もなく終わり。深紅の
「……あぁ、アエリオ君。一つ訊くけども」
遠去かるアエリオの背中を眺めていた玉座の者は、徐に口を開き、彼を呼び止める。
「今日、君は
と、訊ねた玉座の者に対して。立ち止まり、振り返ったアエリオは数秒の沈黙を挟んでから。
「はい」
そう、彼は短く答えるのだった。
「うん、わかった。ならきっと、そういう事かな」
「……では、失礼します」
何やら意味深な発言に、しかし気にかける様子を見せる事なく、そう言って、再び歩き出すアエリオ。玉座の者も今度は止めようとはせず、彼がこの玉座の間から去るのを見届けて。
「さて」
そうして、改めて玉座の者は
「君は一体誰だい?」
そして、訊ねた。
玉座の間に数秒の静寂が流れ────
「あれー?おかしい、おっかしいなあ?そっちの
────玉座の者とアエリオの会話を側から聞き、玉座の者と同じように、ここから立ち去る彼の背中を見届けた
「その明らかに普通じゃない雰囲気といい、存在といい……やっぱりそっか。そうなんだ。
続けてそう言って、勝手に納得した様子で呟く少女。そんな彼女に対して、玉座の者が言う。
「うん。まあ、そうなんだろうね。こっちとそっち、お互い
「……まあ、別にいっか。第一、敵と敵がこうして邂逅したんだから、名乗りの一つくらいは済ませるのが
と、言ってから。少女は目と口を閉じ、玉座の者と正面から向かい合い。
「
そうして先ずは口を開いてそう言って────
「
────閉ざしたその瞳を確と見開かせて、はっきりとそう口にするのだった。
「……ゼロの神使」
「そそ。てな訳で、私はそろそろ
と、言い終えるや否や。少女はぷらぷらと軽く手を振る。
「なるほど」
そうして
「実に何とも、本当に……報われない」
そして背後に佇む、黒い鎧を見やるのだった。