サヤカとヒカリはボールを握りしめ、ゴールエリアへ向けて全力疾走していた。背後では他の逃走者たちがボールを奪おうと鋭い視線を投げかけてくる。油断すれば一瞬で終わるこのゲームで、二人は命懸けのスピードを維持していた。
「ゴールエリアまであと少し! 急がないと!」
「くそっ! ハンティングマンをぶっ壊したかったのに、バルタールの野郎が余計な真似を…! ミッション終わったら、全部粉々にしてえ!」
「全部壊したら、ゲームが即終了だよ! そんな過激な事よく考えたわね!」
サヤカの過激な発言に、ヒカリが鋭くツッコミを入れる。観客席からは失笑と同意のざわめきが広がり、視聴者のコメント欄は「壊すのはやめてくれ」「やりすぎw」とツッコミで埋め尽くされていた。今の言動は流石に不適切で、ゲームをぶち壊したら台無しになるのは当然である。
「全部破壊されると、逃走ロワイアルが即終了しますので、ご遠慮ください!」
「チッ!」
ユキコの冷静なアナウンスに、サヤカは舌打ちをしながら指を鳴らす。破壊衝動を抑えきれなかった悔しさが、彼女の顔に滲み出ていた。だが、ハンティングマンは次々と現れる。このゲームで破壊の機会はいくらでもあるのだ。
「悔しいのは分かるけど、ルールは守らないとね!」
「ったく、仕方ねえな……ルールは守るが、終わったら何もかも破壊してやるからな……」
「だから落ち着いて!」
ヒカリの苦笑に、サヤカは渋々頷く。しかしゲームが終わった後にぶち壊そうとしていて、ヒカリがまた鋭いツッコミを入れてしまう。観客たちも失笑と同意のざわめきをするしかなく、サヤカの行動に唖然とするのも無理ないだろう。
その瞬間、目の前にゴールゾーンが現れた。巨大なゴールゲートが、希望の光のように輝いている。
「ゴールゾーンだ! 急ぐわよ!」
「ああ! 誰が邪魔しようが、ゴールしか見ねえ!」
二人はさらに加速し、ゴールゲートへ突き進む。観客の声も、他の逃走者の動きも、すべてが耳から消え、ただゴールだけが視界に焼き付いていた。
そして――二人はゴールゲートを駆け抜けた。ミッションクリアの瞬間、観客席から爆発的な歓声が沸き上がる。
「見事クリア! サヤカとヒカリのコンビが、ファーストミッションを最初に突破!」
ユキコの声が会場に響き、視聴者のコメント欄は「最強コンビ!」「やっぱこの二人!」と賞賛で溢れ返る。観客の熱狂は収まらず、スタジアム全体が揺れるようだった。
「第一ミッションクリア! でも、ここからが本番だよね」
「ああ。次のミッションもすぐ来る。気を抜く暇なんてねえぞ」
ヒカリの真剣な眼差しにサヤカも頷き、二人はミッションエリアに視線を移す。次の展開でどんな敵が現れるのか、そして子供たちが無事に逃げ切れるのか――二人の心には、祈るような願いが宿っていた。
※
ミッションエリアでは、一人の少女が怯えた目で周囲を見回していた。彼女の名は
「ボール…どこ…? 見つからない…」
瑠璃はキョロキョロと辺りを見回す。時間無制限とはいえ、ボールを取られれば即脱落――つまり死だ。彼女の小さな手は、恐怖によって震えていた。
その時、視界の隅で光るものを見つける。エリアの角に、ボールがコロコロと転がっていたのだ。
「あった…!」
瑠璃の顔がパッと明るくなり、ボールへ駆け寄ろうとした瞬間――重々しい機械音が響き渡る。彼女が振り向くと、遠くにハンティングマンの無機質なシルエットが現れ、赤い眼光が瑠璃を捉えた。
「きゃあああ!」
瑠璃は悲鳴を上げ、ボールを諦めて逃げ出した。ハンティングマンの足音が背後で迫る中、ボールは置き去りにされるかと思われた。だが、その瞬間、軍人
(軍人の俺がこんなゲームに参加するとは……だが、生き残るのが任務だ。絶対に死ぬ理由にはいかない!)
隼人は心の中で誓い、ゴールゲートへ向けて走り出す。彼の目は戦場のような覚悟に満ちていて、何が何でも生き残ると決意を固めていた。
※
瑠璃はハンティングマンに追い詰められ、必死に逃げ続けていた。だが、子供の小さな歩幅では、機械の冷酷な追跡者を振り切るのは至難の業だ。距離はみるみる縮まり、捕まるのは時間の問題だった。
「狙われたのは紫藤瑠璃! 人気子役が絶体絶命の危機! 果たして逃げ切れる事はできるのか!?」
「瑠璃ちゃん、逃げて!」
「死なないでくれ!」
「…成長を見たいだけなんだ!」
「いや、最後ヤバいやつ混ざってるぞ!」
ユキコの実況に、観客席からは瑠璃への声援が響く。視聴者のコメント欄も「瑠璃ちゃん頑張れ!」「子供をこんなゲームに出すな!」と、エールと主催者への怒りで溢れていた。一部不適切なコメントもあったが、誰もが瑠璃の生存を願っていた。
瑠璃とハンティングマンの距離はあと2メートル。彼女は咄嗟に曲がり角を左に飛び込み、物陰に身を隠す。ハンティングマンは一瞬立ち止まり、周囲をスキャンするが、瑠璃の姿を見失い、そのまま通り過ぎていった。
「逃げ切り成功! 危なかった……! 一時はどうなるかと思いました……」
ユキコの安堵の声に、観客も一斉に息をつく。コメント欄も「よかった…」「心臓止まるかと思った」と安堵の声で埋まる。
「助かった……え、これってもしかして……?」
瑠璃が震える声で呟いた瞬間、地面にボールを見つける。彼女は素早くボールを掴み、ゴールゲートへ向けて全速力で駆け出した。
「瑠璃がボールを確保! そのままゴールへ向かい出す!」
ユキコの興奮の実況に、観客席は再び熱狂。誰もが瑠璃の小さな背中に声援を送る。だが、その希望は一瞬で暗転する。ハンティングマンが再び瑠璃を捕捉し、猛スピードで追いかけてきたのだ。
「最悪! ハンティングマンが再接近! ゴールまであと少しなのに、どうしてこうなった!?」
ユキコの声に、観客席から悲鳴が上がる。コメント欄も「逃げてくれ!」「頼む、間に合って!」と緊迫した声で溢れる。ゴールゲートは目の前。だが、ハンティングマンの冷たい手が、瑠璃の背後に迫っていた。
(もう少し……! もう少し……! こんなところで死にたくない……!)
瑠璃は心の中で決意しながら歯を食いしばり、ゴールゲートへ飛び込む。だが――その瞬間、ハンティングマンの左手が彼女の肩を掴んだ。
「あ……」
瑠璃が真っ青な顔の状態で振り返った刹那、ハンティングマンの右手中指から光線が放たれる。光線は彼女の頭を貫き、瑠璃は前のめりに倒れた。地面に広がる血だまり。彼女は即死だった。
「紫藤瑠璃、脱落! あと数センチでゴールだった…! しかし、無情にもハンティングマンに捕まり、死亡という最悪の結末! これが逃走ロワイアルの恐ろしさだ!」
ユキコの声が響く中、観客席は悲鳴と慟哭に包まれる。視聴者のコメント欄も「嘘だろ…」「瑠璃ちゃん…」と悲しみとショックで埋め尽くされる。誰もが彼女の生存を願ったが、現実はあまりにも残酷だった。
残る逃走者は18名。脱落者2名。ファーストミッションクリアは残り13名。逃走ロワイアルの絶望的な展開は、まだ始まったばかりだ。