サヤカとヒカリの二人は、二体のハンティングマンを倒しにシティゾーンを駆け出していた。ハンティングマンを全て倒せば逃走ロワイアルが終わるが、多くはやり過ぎだから止めた方が良いと判断している。このお陰でゲームがぶち壊されたら、観客だけでなく逃走者たちからも不安の声が上がるのだ。
「ハンティングマンは残り二体だが、なんで全部倒したら駄目なんだ?」
「逃走ロワイアルが早く終わるからね。そうなると視聴者や観客にも迷惑が掛かるし、あなたの行動はやり過ぎな部分があるから」
サヤカは疑問に思う事をヒカリに質問し、その内容に苦笑いしながら返していく。
逃走ロワイアルが早く終われば、ここにいる皆が生存する結果になる。しかし中には興冷めと感じてしまい、何をするのか分からない連中もいる。それを考えるとハンティングマンを倒しても良いが、せめて一体ぐらいは残す必要があるのだ。
「仕方がないか……じゃあ、ハンティングマンは一体残すか」
「その方が無難だし、ゲームも楽になるからね」
ヒカリの説得に対し、サヤカはため息をつきながらも承諾する。その様子を見たヒカリは納得の表情をしつつ、安堵しながらの満面の笑顔を見せる。
すると何処からか機械の足音が聞こえ、サヤカとヒカリは真剣な表情をしながら戦闘態勢に入る。今の足音こそ、奴しかいない。
「来るぞ。準備は良いか?」
「ええ。覚悟はできているから!」
サヤカの質問に対し、ヒカリは格闘技の構えに入りながら戦闘態勢に入る。二人が身構えたと同時にハンティングマンが姿を現し、駆け出さずに戦闘態勢に入る。左手は刀の刃へと変化していて、明らかに危険人物の二人を殺そうとしていた。
「いきなりハンティングマンが戦闘態勢に! どうやらサヤカとヒカリが危険人物である為、ハンティングマンは戦闘態勢に入って殺そうと動き出しました。こうなると戦うしか道はありません!」
「私も含まれているの!? 普通のタレントなのに……」
ユキコの実況を聞いたヒカリは、退屈座りをしながら隅っこでいじけてしまう。ヒカリは元はと言えば一般タレントなのに、サヤカと同行していることで、危険人物扱いにされてしまった。落ち込んでしまうのも無理はない。
「落ち込むなよ。全てアイツにぶつけてやれ」
「誰のせいだと思っているのよ!」
サヤカはヒカリの肩を叩きながら慰めるが、彼女は涙目でツッコミを入れる。観客たちも唖然としながら見つめていて、視聴者のコメント欄も「可哀想……」「なんでこうなるの?」の同情のコメントが寄せられていた。
「ともかく……奴を倒さなければ犠牲者が出るからな。やるからには全力で倒すのみだ!」
サヤカは素早く駆け出し、目の前にいるハンティングマンに向かって駆け出していく。ハンティングマンも左手を刃に変えながら、目の前の敵に向かって素早く走り出した。
「今回二度目! ハンティングマンはソードモードで挑みます! 因みにハンティングマンはガンモード、サイコモード、ファイトモード、ソードモードの四形態となっていますが、それを相手にサヤカはどう立ち向かうのか?」
ユキコの実況が響き渡る中、ハンティングマンは左手の刃を振り回しながら、サヤカに攻撃を仕掛ける。彼の剣さばきは一般並みで、近付いたら斬られてしまう可能性が高い。
「それならこいつで終わらせてやる!」
サヤカは足に炎を纏いながら、蹴りの威力を高めていく。そのままハンティングマンの攻撃を回避したと同時に、強烈な蹴りを敵の胴体に当てようとしていた。
「フレイムキック!」
サヤカの華麗な炎の蹴りが、ハンティングマンの胴体に炸裂。金属の軋む音とともに、その体が地面に崩れ落ちる。火花を散らしながら動かなくなったハンティングマンを見て、観客席からは大歓声が沸き上がり、ユキコの実況が一層熱を帯びる。
「なんという戦い! サヤカ、圧倒的なスピードとテクニックでハンティングマンを撃破! これでハンティングマンは残り一体! 逃走ロワイアルはますます白熱してきました!」
視聴者のコメント欄も「サヤカかっこよすぎ!」「あの動きヤバい!」と興奮の声で埋め尽くされる。ヒカリは目を輝かせ、落ち込んでいた表情から一転、サヤカに駆け寄ってハイタッチを求める。
「サヤカ、めっちゃすごかったよ! あの蹴り、どこで覚えたの!?」
「毎日鍛えてるからな。残りは一体となったが、気を抜くなよ!」
「分かったわ!」
二人が勝利の余韻に浸る中、突然、軽やかな足音が近づいてくる。彼女たちが振り向くと、そこには保育士の碧が息を切らしながら立っていた。彼女の目は真剣そのもので、どこか決意に満ちている。
「サヤカさん、ヒカリさん! 私も……私も仲間に入れてください! 一人じゃ怖いけど、あなたたちとなら戦える気がするんです!」
サヤカとヒカリは一瞬顔を見合わせ、驚きを隠せない。まさか碧の口からそんな事を言えるとは、想定外であるからだ。
碧は普段、穏やかで子供たちに慕われる優しい保育士だ。そんな彼女が逃走ロワイアルの戦場に飛び込むなんて、想像もしていなかった。参加した理由については不明だが、何かの事情があるだろう。
「碧、気持ちは嬉しいけど……ここ、かなり危険だよ? 本当にいいの?」
「うん、覚悟はできてる! 子供たちを守るためにも、私、強くなりたいの!」
ヒカリが慎重に尋ねるが、碧は拳を握って力強く答える。その意思はまさに鋼の如くであり、誰が何を言おうとも止められないのだ。
サヤカはそんな碧を見て、ニヤリと笑う。
「へえ、なかなか気合い入ってるじゃん。いいよ、仲間に入れてあげる! でも、私のせいで危険人物扱いされても文句言わないでね?」
「そ、それはちょっと……」
碧が苦笑いする中、ヒカリが肩を叩いてフォローする。彼女もサヤカのお陰で危険人物となった以上、素直に受け入れるしかないと判断している。
「仕方がないわよ。私も巻き込まれた以上、やるしか無いからね。さっ、すぐにこの場所から移動しましょう!」
ヒカリのフォローに碧は苦笑いしながらも頷き、彼女たちはその場から移動し始める。同時にハンティングマンは火花を散らしながら爆発してしまい、跡にはネジ一本しか残っていなかった。
※
その頃、逃走ロワイアルの管制室では、バルタールが苛立たしげにモニターを睨みつけていた。ハンティングマンがまたしても倒されたことに、彼のプライドは傷ついている。
「チッ、サヤカめ……予想以上に厄介な女だな。だが、これで終わりじゃないぞ」
バルタールはキーボードを叩き、次のミッションのデータを素早く入力していく。モニターには「新ミッション:追跡の罠」と表示され、複雑なマップと新たな仕掛けが映し出される。
ハンティングマンが一体となった今、ゲームはさらに過酷な展開を迎えようとしていた。
「ふん、逃走ロワイアルはまだ終わらん。サヤカ、ヒカリ、そして碧……お前たちに地獄を見せてやる!」
管制室の冷たい光の中で、バルタールの口元に不敵な笑みが浮かぶ。これ以上逃走ロワイアルをぶち壊さない為だけでなく、危険人物の三人を始末する為に……。
※
一方、サヤカたちは碧を加えた三人で、シティゾーンの奥深くへと進んでいく。残るハンティングマン、そしてバルタールが仕掛ける新たなミッションが、彼女たちを待ち受けていた。
「バルタールは新たなミッションを発動させ、私たちを倒そうとしている。こうなるとそのミッションをクリアするしか無いな」
「そうね。何れにしても戦いは避けられない。何が何でもクリアしないと!」
「これ以上奴らの好きにさせない為にも、頑張りましょう!」
三人の足音がシティゾーンに響き、逃走ロワイアルは新たな局面へと突入していく。観客席の熱気、視聴者のコメント、そして管制室の暗躍――全てが交錯する中、第二ミッションの開始時刻が刻々と迫っていた。