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第9話 マーダークラウンの危険な香り

 第2ミッションの開始を告げるアナウンスが響き、16人の逃走者たちは一斉に逃げ惑う。追跡者はマーダークラウン5体とハンティングマン1体、合計6体。油断すれば即座に命を奪われる危険な存在だ。


「なるほどな……全て倒せば問題ないみたいだな」

「いや、全て倒したらゲームが終わるから!」

「そうそう! それにマーダークラウンは私たちに襲い掛かる事はないからね。私たちを危険人物だと認識しているし……」


 サヤカが腕を鳴らしながら好戦的な笑みを浮かべると、ヒカリが鋭いツッコミを入れる。碧も頷いて同意したその瞬間、どこからか甲高い悲鳴が響き渡った。


「おっと! 何処からか悲鳴が! その様子の映像が映されます!」


 ユキコの熱い実況とともに、会場の大画面モニターが切り替わる。映し出されたのは、小学生の雨宮恵、子役の常磐奏、炭山剛の3人。縄でぐるぐる巻きにされ、身動きが取れない様子だ。


『助けて! 縛られているから動けない!』

『身体がいう事を聞けない! どうなっているの!?』

『助けてくれー!』


 小学生たちが恐怖に震える中、ピエロのような不気味な機械人間――マーダークラウンが姿を現す。一輪車に乗り、悪趣味な笑みを浮かべたその姿は、まるで悪夢のサーカスから抜け出した亡魂のようだ。


「マーダークラウン降臨! おや?その先に誰かいます!」


 ユキコの実況が響く中、画面に映ったのはエリカ。彼女は涼しげな表情で立ち、右手を突き出すと、紫色の光がその掌から溢れ出す。魔術の詠唱が始まった。


『では、そろそろ頃合いですわ。私の魔術をお見せしましょう』

「あっ! あれは上流階級の!」


 碧がモニターに映るエリカを見て叫んだ直後、エリカは両手から光の球体を生成。マーダークラウンと縛られた小学生たちへ、迷いなく狙いを定める。


「シャインジャッジキャノン!」


 光の球が猛烈な勢いで発射され、小学生たちに直撃。次の瞬間、轟音とともに広範囲の爆発が巻き起こり、マーダークラウンと3人を飲み込んだ。爆炎が収まると、黒焦げの遺体とロボットの残骸が無残に散らばっていた。


「なんという事でしょう! 恵、奏、剛の小学生三人が、マーダークラウンと共に死亡が確定! 始末したのは上流流階級のエリカ! これで子供たちは全滅だー!」


 ユキコの実況に、観客席から悲鳴と嘆きの声が沸き上がる。視聴者のコメント欄も「そんな事って……」「なんて奴だ!」と怒りと悲しみの声で埋め尽くされていた。

 ヒカリと碧はモニターの凄惨な光景に言葉を失い、サヤカは拳を握りしめ、憤怒の眼差しで画面を睨みつける。罪のない子供たちを巻き添えにするその行為は、まさに外道そのものだ。


「あの野郎! 子供を巻き込んでマーダークラウンをぶっ壊しやがった!」

「いくら何でも酷すぎるとしか言えないし、これで芸能界枠で残っているのは私だけとなったわ……」

「あの上流階級、いったい何を考えているのかしら……」


 サヤカは怒りに震え、エリカの非道な行動に憤る。罪のない者を殺すのは許せないが、子供を犠牲にするなど言語道断だ。悪魔そのものとしか言いようがない。

 ヒカリと碧も真剣な表情でエリカの行動に疑問を抱く。子役3人が死に、芸能界枠で残ったのはヒカリただ一人となってしまった。


「けど、マーダークラウンはあと四体いるわ! それまで私たちで倒さないと!」

「ああ! 犠牲者が何人出ようとも、私たちは絶対に生き残る! そして、バルタールをぶっ殺す!」


 サヤカの力強い宣言に、ヒカリと碧も力強く頷く。その時、金属の足音が近づいてくる。ハンティングマンより速いそのリズム――現れたのはマーダークラウンだ。


「来たか……マーダークラウン!」


 一輪車に乗り、両手に長い棒を握ったピエロが、サヤカたちを仕留めるべく迫る。その姿はまさに不気味で、近づけば殺される恐れがあるだろう。


「マーダークラウンはサーカスの技を使うぞ! 見た目で判断したら痛い目に遭うからな!」

「忠告ありがとね!」


 サヤカの警告に、ヒカリは笑顔で応じ、格闘態勢に入る。マーダークラウンは棒をジャグリングボールに持ち替え、次々と投擲。ボールは地面に当たるたび爆発を起こし、触れれば即死の威力だ。


「今だ! 奴がボールを投げ直す瞬間を狙え!」


 サヤカの叫びに、ヒカリと碧が視線を交わし、一気に動く。チャンスが来た以上、攻めるなら今だ。


「私が何もできない人だと思ったら、大間違いよ!」


 碧がエプロンのポケットから小型スモークボムを取り出し、投擲。煙がマーダークラウンの視界を覆い、ジャグリングの動きが乱れる。ボールが地面に落ち、爆発音が響き渡る。


「ナイス援護、碧!」


 ヒカリは煙を突き抜け、マーダークラウンの目前へ。跳び上がり、零夜から学んだプロレスの技を繰り出す準備を整える。その瞬間、過去の記憶がフラッシュバックした。


 ※


 あれはマルテレビの大晦日逃走ロワイアルから数日後。お台場にある屋敷の地下練習場で、ヒカリは零夜の指導のもと、リングで汗を流していた。彼女はもしもの時にプロレスを学びたいと決意し、彼に頼み込んで今に至るのだ。


「ヒカリさん、プロレスはただの力じゃありません。相手の動きを読み、完璧なタイミングで仕掛けます」


 零夜はそう言いながら、強烈なドロップキックをヒカリに見せる。その蹴りでターゲットは勢いよく飛ばされ、リング外に落ちてしまったのだ。


「凄い! 私も頑張らないと!」


 この光景を見たヒカリは目を輝かせ、「絶対モノにする!」と心から誓う。そこから彼女は本気でプロレス練習に取り組み、様々な技を取得する事が出来たのだ。


 ※


(私は零夜君の隣に立つ為、練習を欠かさずしている。だからこそ、諦めないんだから!)


 現在に戻り、ヒカリはマーダークラウンの正面に立つ。一瞬の隙を見逃さず、跳び上がり、身体を回転させ、ピエロの顔面に強烈なドロップキックを叩き込む。


「喰らいなさい!」


 金属が軋む音とともに、マーダークラウンが後方へ倒れ、ジャグリングボールが無秩序に散乱。ドロップキックは見事に成功した。


「よし、大成功!」


 ヒカリが着地し、笑顔で拳を握る。すかさずサヤカが倒れたマーダークラウンに飛び乗り、胸部に渾身の一撃を叩き込む。


「これで終わりだ! ブレイクナックル!」


 強烈なパンチで内部回路が破壊され、マグロスが火花を散らして停止。サヤカが離れた途端、マーダークラウンは大爆発を起こして塵となってしまった。


「マーダークラウン撃破! サヤカ、ヒカリ、碧のトリオが圧倒的! 残りはあと3体だ!」


 ユキコの実況に観客の歓声が沸き、視聴者からも「流石は最強トリオ!」「碧ちゃん、可愛い!」と称賛のコメントが寄せられている。今後も三人の活躍を期待している声が続出する為、必ず生き残らなくてはならないのだ。


「残りはあと3体。けど、ハンティングマンに注意しないとな!」

「今後何があろうとも、私たちは負けられないから!」

「このゲームを終わらせるためにも!」


 サヤカ、ヒカリ、碧の三人は、必ずこのゲームを終わらせる事を決意。彼女たちの絆が揺らがぬ限りは、止まる事は二度とないだろう。


 ※


 一方、エリカは普通にシティゾーンの街並みを歩きながら、余裕の表情をしていた。しかし、彼女が何故子供たちに対し、冷酷な行動をしたのかは気になる。

 逃走ロワイアルの残り時間はあと1時間10分で、残り人数は13人。戦いも後半戦に突入しようとしていたのだった。

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