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第10話 マーダークラウンの正体

 サヤカ、ヒカリ、碧の三人は、残るマーダークラウンを殲滅すべく、シティゾーンを疾走していた。残る敵は3体。だが、そのどれもが一瞬の隙を突く狡猾な殺戮マシンだ。暗闇に潜む奇襲の気配が、背筋を凍らせる。


「マーダークラウンは後3体。何れにしても要注意ね」

「ええ。早く奴らをどうにかしない限り、止められる事は不可能です」


 ヒカリの声が鋭く響き、地下室の静寂を切り裂いた。碧が冷静に応じ、鋭い視線で周囲の影を捉えていく。二人は既に戦う覚悟を決めていて、心配する必要はないみたいだ。

 だが、サヤカの胸には暗い予感が渦巻いていた。マーダークラウンの不気味な動き、金属の軋む音――どこか遠い記憶を呼び起こす。彼女は無意識に眉を寄せ、過去の断片を追いかける。


「どうしたの? 何か悩んでいるみたいだけど」

「何かあったのなら教えてくれない?」


 ヒカリがサヤカの異変を察して足を止め、碧も真剣な眼差しをしながら、サヤカに対して静かに尋ねる。

 二人に声をかけられたサヤカは立ち止まり、冷たい風に髪を揺らされながら、記憶の底を探った。


「あのマーダークラウンについてだが……ある事を思い出した」

「えっ? 何かマーダークラウンについて分かる事があるの?」

「まさかあなた、戦っていた事があるんじゃ……」  


 ヒカリと碧の声が重なり、緊張が空気を締め付ける。観客席がざわめき、視聴者コメントが一気に加速。「何かあったのか?」「サヤカ、もしかしてあのロボを知っているのか?」と、興奮と疑惑の声が飛び交う。

 サヤカは目を閉じ、深く息を吐く。そして、決意を込めた声で告げた。


「マーダークラウンは……私の世界「ハルヴァス」にあるモンスターを元に作られた物だ!」  

「「「ええっ!?」」」  


 その瞬間、ヒカリと碧の顔が凍りつき、観客席から衝撃の叫びが轟いた。視聴者コメントも「マジなのか!?」「異世界は八犬士で知っているけど、このゲームもあるとは……」と、驚愕の声で埋め尽くされる。


「まさかの展開! マーダークラウンは異世界「ハルヴァス」にあるモンスターを元に作られていた! そのモンスターは何なのか気になります!」


 実況のユキコが声を張り上げ、会場は熱狂の渦に飲み込まれた。観客のどよめきが、地下室の闇に反響する。


「そのモンスターは?」


 ヒカリが震える声で尋ねると、サヤカは冷や汗を滲ませながら答えた。


「ダーククラウン。闇の道化師だ」

「闇の道化師か……確かにイメージ通りには合っているわね……」  


 碧が唇を噛み、納得と警戒の表情を浮かべる。

 ダーククラウンはハルヴァスのモンスターの一種。サーカスの道具で人を惑わし、笑顔の裏で殺戮を企む。油断した瞬間、鋭い刃が喉を裂く。奇襲を得意とする、狡猾で危険な存在だ。


「恐らくバルタールだけど、私と同じハルヴァス出身だと思う。マーダークラウンもダーククラウンのデータを取り込んで、製造していたに違いないからな」

「なるほど……あのマーダークラウンの元がダーククラウンだとしたら、ますますバルタールがハルヴァス出身だという事が明らかになるわね……」  


 サヤカの言葉に碧が鋭く反応し、彼女の推測に観客席が再びどよめく。視聴者コメントが「バルタールって何者!?」「ハルヴァスの闇、ヤバすぎる!」と加速し、緊迫感が会場を包んだ。


「ともかくマーダークラウンを見つけ次第、徹底的に破壊しないと!」

「そのつもりだ! すぐに向かうぞ!」  


 サヤカの叫びに、ヒカリと碧が力強く頷く。三人が再び走り出そうとした――その刹那。



「ひゃああああああ!!」  



 甲高い悲鳴が廃墟の闇を切り裂いた。三人が振り返ると、高校生の舞香がマーダークラウンに追われ、必死に逃げ惑っていた。金属の爪が空を切り、地面を削る不気味な音が響く。舞香の顔は恐怖で歪み、追いつかれるのは秒読みだった。


「大変! あの子、マーダークラウンに追いかけられているわ!」


 碧が叫び、ヒカリが即座に反応。今までサヤカが活躍していた以上、自分が助ける必要があると感じているのだ。


「ここは私に任せて!」  


 ヒカリは風を切り裂く速さで駆け出し、零夜の訓練で鍛えた脚力が地面を蹴る。マーダークラウンの背後へ一気に迫ると、彼女は高く跳躍する。


「いい加減に彼女から離れなさい! はっ!」


 空中で身体を捻り、右足に全力を込める。ヒカリの周囲に渦巻く風が唸りを上げ、竜巻と化した。


「トルネードストライク!」  


 轟音と共に、急降下の回転蹴りがマーダークラウンの後頭部を直撃。火花が散り、装甲が砕ける甲高い音が響く。マーダークラウンは前のめりに倒れ、地面に叩きつけられた。


「今の内に!」

「はい!」  


 ヒカリは舞香の手を掴み、一気にその場から離脱。直後、マーダークラウンが爆発し、炎と煙がシティゾーンを包んだ。煙が晴れると、残骸は一本のネジだけとなっていた。  


「なんとヒカリがマーダークラウンを撃破! 新たなヒーローはサヤカだけではなく、ヒカリもその一人である事が判明! 流石は逃走ロワイアルの経験者だ!」


 ユキコの実況に、観客席は大歓声で沸き返った。視聴者コメントも「ヒカリは神!」「女神様、バンザイ!」と、称賛の嵐が巻き起こる。  

 ヒカリは苦笑いを浮かべつつ、震える舞香に優しく声をかけた。


「大丈夫、怪我はない?」

「は、はい! 本当にありがとうございます……!」


 ヒカリの声は、戦場の緊張を溶かすような温かさに満ちている。舞香は涙目で頷き、ヒカリの笑顔に救われたように息をついた。  

 その時、サヤカと碧が駆けつける。


「ヒカリ、無事か!? 舞香も大丈夫か?」

「怪我はない?」


 サヤカの声は鋭く、周囲を警戒する目が光る。碧も舞香の肩に手を置き、彼女に対して心配そうに尋ねた。  


「二人とも、タイミングバッチリね。マーダークラウンは片付けたわ」


 ヒカリが軽く肩をすくめると、サヤカと碧は安堵の息を吐く。あのまま間に合わなかったら、どうなっていたのか分からないだろう。


「よし、じゃあ次のマーダークラウンを追うぞ! 残りは二体、絶対に倒してやる!」


 サヤカが拳を握り、決意を新たに叫ぶ。三人が動き出そうとした――その瞬間。  



「待ってください!」  



 舞香の叫びが、三人の足を止めた。彼女の声には、恐怖を振り切った強い意志が宿っていた。  


「どうしたの、舞香?」


 ヒカリが振り返り、驚いた顔で尋ねる。サヤカと碧も黙って舞香を見つめた。  

 舞香は震える拳を握り、深呼吸を一つ。決意の炎を瞳に宿し、三人を真っ直ぐ見据えた。


「私も……一緒に戦いたいです! さっきは助けられたけど、ただ逃げるだけじゃダメだと思うんです。私にもできることがあるはず! だから、仲間に入れてください!」  


 その言葉に、三人は一瞬言葉を失った。だが、ヒカリがすぐに柔らかな笑みを浮かべ、舞香に歩み寄る。彼女の手が舞香の頭を優しく撫でた。


「へえ、なかなか気合い入ってるじゃない。勿論仲間として歓迎するわ」  

「お前がその決意をしたのなら、しっかりついてきな。マーダークラウン、ハンティングマンは甘くないぞ」 

「私も賛成よ。舞香、あなたのその気持ち、きっと力になるわ」


 ヒカリは勿論承諾。サヤカは厳しい口調ながら、信頼の光を目に宿す。 碧が穏やかに微笑み、舞香の肩にそっと手を置いた。  


「ありがとう、みんな……! 絶対に後悔させないから!」


 舞香は涙をこらえ、力強く頷く。観客席から割れんばかりの歓声が上がり、視聴者コメントが「舞香、めっちゃカッコいい!」「四人の活躍、絶対神回になる!」「マーダークラウン、覚悟しな!」と溢れ返った。


「なんという展開だ! 高校生の舞香が新たにチームに加わり、四人での戦いが始まる! この絆、絶対に見逃せない!」


 ユキコの興奮した実況が会場をさらに盛り上げる。これで逃走ロワイアルは光と闇の戦いに移ろうとしていて、誰もが彼女たちの勝利を願っているのだ。


「よし、舞香も仲間になったことだし、残りの二体を一気に片付けるぞ!」

「「「おう!」」」  


 サヤカが先頭に立ち、決意の表情をしながら叫ぶ。ヒカリ、碧、舞香が後に続き、四人の足音が地下室に響き合う。マーダークラウンとハンティングマンの脅威が迫る中、彼女たちの絆は闇を切り裂く希望の刃となり、戦場を駆け抜けた。

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