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第19話 反撃の狼煙

 サヤカたちはファーストエリアへ突進しながら、残る四体のハンティングマンを殲滅するべく疾走していた。奴らを全て叩き潰さなければ、この血塗られた戦いは終わらない。彼女たちはその確信を胸に、獰猛なハンティングマンへと突き進む。


「二体ずつそれぞれのエリアに潜んでるが、油断は死を招く! 奴らは何を仕掛けてくるか分からないぞ!」

「ご尤もね。私もこの件に関しては同意できない部分もあるし、逃走者の虐殺は見過ごせないからね。やるからには徹底的に行わないと!」


 サヤカは鋭い眼光で前方を睨み、ハンティングマンの狡猾な危険性を仲間たちに叩き込む。ヒカリもまた、冷徹な口調で頷き、徹底抗戦の決意を重ねた。


「確かにそうですね。あんな無惨な光景を見せられたら、こっちも怒りが沸き上がるし」

「何が何でも、このくだらないゲームを終わらせましょう!」


 碧と舞香も拳を握りしめ、激しい闘志を燃やす。このデスゲームを終わらせる覚悟は、彼女たちの心を一つにしていた。その団結力は圧倒的で、どんな絶望的な試練も打ち砕く力を秘めている。


「さてと、無駄話はそこまでだ。さっさとハンティングマンを倒しに行くぞ!」


 サヤカの鋭い号令に全員が一斉に頷き、雷鳴のような勢いで駆け出した。もはや後退などありえない。このデスゲームを終わらせるため、彼女たちは命を賭けて立ち向かう。

 その瞬間、巨大モニターが切り替わり、逃走者の一人が必死で逃げる姿が映し出された。チャラチャラした派手な服に、耳にはキラリと光るピアス。どう考えてもチャラいとしか言えない。


「ここで新たな動きが! 逃走者の一人である三河清太郎みかわきよたろうが、ハンティングマンに追われているぞ! まあ、こんな奴はすぐに捕まって殺されるけどね」

「いや、それはやり過ぎだろ!」


 ユキコの冷酷な実況に、観客席から怒号のようなツッコミが飛び交う。視聴者のコメント欄も「差別だからね!」「確かにチャラチャラしてるけど!」と、騒然とした反応で埋め尽くされていた。


「差別し過ぎだろ……」

「「「ハハハ……」」」


 サヤカは呆れ果てた表情でモニターを一瞥。ヒカリ、碧、舞香は苦笑いを浮かべるしかなかった。差別は許せないが、運営の逆鱗に触れれば何をされるか分からない。彼女たちは唇を噛み、戦場へと意識を戻す。

 その刹那、清太郎が前のめりに転倒。背後からハンティングマンが猛禽のように跳躍し、雷霆の勢いで急降下。清太郎は無慈悲に押し潰され、地面に叩きつけられたまま動かなくなった。即死だった。


「ここで清太郎が脱落! ハンティングマンに押し潰されてしまい、アホな最期を迎えてしまった!」


 ユキコの無情な実況に、観客席は凍りつき、言葉を失う。視聴者のコメント欄も「なんて結末だ……」「これで良いのか……」と、衝撃と虚無感に支配されていた。


「まあ、アイツらしいと言えばアイツらしいが……来たぞ!」


 サヤカが言葉を締めくくろうとした瞬間、鋭い殺気を察知し、左へ身を翻す。そこにはハンティングマンが不気味なシルエットを浮かべ、冷酷なサングラスの奥で彼女たちを獲物としてロックオンしていた。

 サヤカたちは一瞬で戦闘態勢に切り替わり、死線を覚悟する。


「そろそろ来ると思ったわね」

「ええ。やるからには始末しておかないと!」

「これ以上の狼藉は許されませんからね!」


 サヤカとヒカリは格闘技の構えで地を蹴り、碧はロケットランチャーを肩に担ぎ、舞香は巨大な大鎌を振りかざす。ハンティングマンの機械的な眼光を真正面から迎え撃ち、彼女たちは一斉に突進した。


「まずは私が! 発射!」


 碧がロケットランチャーをぶっ放すと、轟音とともにロケット弾がハンティングマンに直撃。爆炎が天を焦がし、衝撃波が地面を抉る。ハンティングマンは爆風に飲み込まれ、前のめりに崩れ落ち、動かなくなった。次の瞬間、自爆装置が作動し、鉄屑と化した残骸から一本のネジだけが転がった。


「あら? 一撃で倒しちゃった」

「威力強過ぎましたね……」


 碧は呆気にとられた表情で立ち尽くし、舞香は苦笑いを浮かべる。一撃必殺の威力は予想を遥かに超え、彼女たち自身がその破壊力に圧倒されていた。


「な……な……なんと一撃必殺! 碧がハンティングマンをロケットランチャーで撃破! まさかここまで成長したとは想定外だ!」


 ユキコの興奮した実況に、観客席は熱狂の渦に包まれる。視聴者のコメント欄も「まさかここまで成長するとは!」「流石は保育士!」と、碧の快挙を讃える声で溢れかえった。


「こうなると保育士辞めないと行けないかもね……もう一線超えちゃったし……」

「私も同じかも知れませんが、やるからには最後までやりましょう!」


 碧は未来への不安がよぎり、俯いてしまう。こんな殺戮者の姿を保育園の子どもたちに見られたら、誰も近づきたがらないだろう。舞香も一瞬同じ思いに沈むが、すぐに顔を上げ、揺るぎない決意を瞳に宿す。このゲームを終わらせる責任を放棄するわけにはいかない。


「残りは三体。次が来たぞ!」


 サヤカの鋭い叫びに続き、新たなハンティングマンが闇から姿を現す。碧のロケットランチャーの爆発に反応し、彼女たちを屠るべく襲い掛かってきた。金属の軋む音が戦場に響き、殺意が空気を切り裂く。


「ここは私が行くわ! 碧さんが活躍した以上、私もやる!」


 舞香が大鎌を構え、鬼気迫る表情で前を向く。地を蹴り、風を切り裂く勢いで突進。強烈な一撃を放つ瞬間、彼女の全身から迸る闘気が戦場を震わせた。


斬空ざんくう!」


 大鎌が閃光のように横一閃。空気を切り裂く斬撃がハンティングマンを真っ二つに両断し、上半身と下半身が血飛沫もなく分断される。爆散した残骸は瞬時に消滅し、地面にはネジ一本だけが虚しく転がった。


「今度は舞香がハンティングマンを撃破! これで残るハンティングマンは二人となったが、その快進撃は止まる事はない! ここからが反撃の始まりだ!」


 ユキコの熱狂的な実況に、観客席は興奮の坩堝と化す。視聴者のコメント欄も「舞香、凄いぞ!」「流石は最強女子高生!」と、称賛の嵐が巻き起こった。


「最強は余計だけどね……サヤカ、残るはファーストエリアの二体だけど、やるからには倒しに向かいましょう!」

「言われなくてもそのつもりだ! すぐに向かうぞ!」


 舞香の言葉に、サヤカはウィンクとグッドサインで応え、仲間たちを鼓舞する。彼女たちはファーストエリアへ突き進み、残るハンティングマンを殲滅すべく疾走した。その姿はまさに英雄の如く、だがその名が歴史に刻まれるのはいつの日か。


 ※


 一方、管制室ではハンティングマンが次々と葬られる光景に、バルタールの怒りは爆発寸前だった。自らが作り上げた逃走ロワイアルが、四人の女たちによって粉砕されていく。もはや我慢の限界を超えていた。


「やってくれるな……こうなったら、全てのハンティングマンを導入して、奴らを始末してくれる! 彼女たちを始末しなければ、気が済まん!」


 バルタールは椅子を蹴り飛ばし、怒号とともにハンティングマン放出プログラムを起動。管制室を飛び出し、逃走ロワイアルの戦場へと自ら向かう。その背中には狂気と執念が渦巻いていた。

 その直後、管制室に忍び寄る影があった。彼女は脱出に成功したミンリー。逃走ロワイアルの闇を暴くため、単身でこの牙城に乗り込んできたのだ。


「さてと……」


 ミンリーは周囲に誰もいないことを確認し、静かに管制室へ足を踏み入れる。逃走ロワイアルは今、新たな嵐の幕開けを迎えようとしていた。

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