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第23話 特訓の始まり

 逃走ロワイアルから一週間後、新宿のオープンカフェに、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香の四人が集まっていた。テーブルの上にはコーヒーやデザートが並び、彼女たちは近況を語り合っていた。どの顔も真剣そのものだ。


「じゃあ、近況報告からね。私とサヤカ、共同生活を始めたんだけど、彼女、家事がめっちゃ上手なの! 洗濯はバッチリ、掃除はピカピカ。ほんと、一緒に暮らして正解だったわ」


 ヒカリが明るく語ると、碧と舞香は驚いたように目を丸くし、揃って頷いた。サヤカがこんなにも家事上手だなんて、想像もしていなかったのだろう。意外な一面に、驚きを隠せない様子だ。


「まあ、道場での修行時代に、師範から家事全般を叩き込まれたからな。世話になるなら、全力で支えないとな」


 サヤカが照れくさそうに笑うと、ヒカリも柔らかく頷く。碧と舞香は羨ましそうな視線を向ける。家事スキルの高さもさることながら、ヒカリとサヤカの親密な関係に、羨望の気持ちが湧くのも無理はない。


「次は私ね。私は保育園に復帰したんだけど……なぜか子供たちが私を怖がって避けるの。園長先生に聞いたら、逃走ロワイアルでの私の姿をテレビで見た人が多くて、子供たちがその強さにビビっちゃったみたいで……」

「まさか……クビに!?」  


 碧の言葉に、ヒカリが瞬時に反応し、驚きの声を上げる。サヤカと舞香も碧に視線を向け、彼女は小さく頷いて答えた。  


「うん。おかげで今は無職。アルバイトでも始めようかと……」

「そうだったのね……舞香はどう?」  


 ヒカリは碧の話に神妙な顔で頷いた後、舞香に視線を移す。女子高生として学園生活を送る舞香の近況が、気になるところだ。  


「私の学校じゃ、逃走ロワイアルの話で持ちきり。みんな私を『期待の星』って呼んでいます。でも、あのロワイアル、ほとんどの人が見たくないって思っている事が判明しました。早く終わらせてほしいって声が多い以上、戦うしかありません」

「なるほど……とにかく、強くなるために特訓が必要だな。問題は、どこで特訓するかだけど……」 


 舞香の言葉に、サヤカは真剣な表情で頷き、特訓の必要性を口にする。しかし、特訓場所をどこにするかは、すぐには決まらない悩みの種だ。

 碧と舞香も思案に暮れる中、ヒカリが突然閃いたように目を輝かせ、皆に提案した。  


「ねえ、零夜君たちに頼んでみたら? 私、彼の指導でどんどん強くなってるし、みんなもそこで修行すれば絶対強くなれるよ!」  


 ヒカリの笑顔に、自信が溢れている。彼女は大晦日の逃走ロワイアル以降、零夜の指導のもとで日々成長を続けている。今では多様な格闘技を習得し、一撃で相手を倒せるほどの力を身につけていた。

 サヤカたちはその言葉に納得し、揃って頷く。零夜たちの指導を受ければ、黒幕のグレゴリウスを倒すことさえ可能かもしれない。このチャンスを逃す手はない。  


「なら、善は急げ! さっそくそこへ行って、強くなろう!」

「私も今の自分を変えるために、全力で頑張る!」

「私も負けませんよ!」  


 サヤカたちは決意を固め、零夜たちの元へ向かうことを決めた。ここで足踏みすれば、グレゴリウスを倒すどころか、エリカに返り討ちにされる可能性すらある。


「よし、決定! 明日、お台場に行って、そこで修行を始めるよ!」

「お台場? 零夜たちの家ってそこにあるのか?」


 ヒカリの提案に、サヤカが首をかしげて尋ねる。八犬士がお台場に住んでいるなんて初耳で、誰もが疑問を抱くのも無理はない。 


「うん、行けば分かるから! その時を楽しみにしていてね!」


 ヒカリはウィンクをしながら笑顔を見せるが、サヤカたちはなおも不思議そうに首をかしげる。零夜たちの住まいがどんな場所なのか、気になって仕方ない様子だ。

 やがてウェイターが運んできた料理がテーブルに並び、彼女たちは食事を楽しみながら、和気あいあいと会話を続けた。  


 ※


「こ、これが……八犬士の……!」

「いくらなんでも凄すぎる……!」

「こんな巨大な屋敷に住んでるなんて……!」 


 翌日、お台場にある零夜たちの屋敷に到着したサヤカ、碧、舞香は、目の前の光景に言葉を失った。宮殿のような壮麗な邸宅がそびえ立ち、そのスケールに圧倒されるのも無理はない。


「私も初めて来たときはビックリしたよ。さ、挨拶しなきゃ!」


 ヒカリは苦笑いを浮かべながら、インターホンを押そうと門に近づく。すると、扉が自動で開き、中から一人の青年が姿を現した。東零夜――ブレイブエイトのリーダーで、ヒカリの想い人だ。  


「ヒカリさん、待ってました。彼女たちが新しい仲間?」

「うん、この三人よ」


 ヒカリはサヤカたちを指差し、零夜に紹介する。初対面の彼女たちは、彼に対して自己紹介を始める。


「初めまして。元保育士の霧原碧です」

「女子高生の黒川舞香です」

「サヤカだ。ハルヴァス出身だけど、事情があって地球に連れてこられた。今はヒカリの家に居候してる」  


 三人の紹介に、零夜は落ち着いた表情で頷く。ハルヴァス出身のサヤカにも驚かないのは、彼自身が倫子や日和とともにハルヴァスを訪れた経験があるからだ。だからこそ、地球でハルヴァス出身者と出会っても、動じることなく自然に対応できる。  


「俺は東零夜。ブレイブエイトのリーダーを務めています。仲間たちは今、地下のトレーニングルームにいますので。では、どうぞ」


 零夜は一行を屋敷内に招き入れ、地下へと続く道を進み始めた。こうして、サヤカたちの特訓の第一歩が踏み出された。  


 ※


 一行が地下室に到着すると、そこには「トレーニングルーム」と記された巨大な扉が待ち構えていた。零夜たちが日々鍛錬を重ね、最強の力を維持している場所だ。


「この先がトレーニングルーム?」

「その通り。じゃ、開けるぞ!」


 零夜が扉に触れると、自動でスライドし、広大な空間が現れる。そこには数々のトレーニング機器が並び、零夜の仲間たち――倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、トワ、エイリーン、ベル、カルア、メイル、ヤツフサ、ギャルモデルのりんちゃむ、日和のアイドル仲間である八重樫椿やえがしつばきが揃っていた。


「ヒカリさん、遅刻ですよ!」

「ごめんね。仲間を連れてきたから」


 椿の軽いツッコミに、ヒカリは苦笑いで応じる。サヤカたちを紹介しようとしたその瞬間、彼女はアイリンを見てピクリと反応した。


「あっ! お前、アイリン!?」

「ん? サヤカじゃない! アンタも来てたの!?」 


 サヤカとアイリンが互いを指差し、驚きの声を上げる。その様子に、ヒカリたちは訝しげな視線を向けてきた。


「知り合いなの?」

「ああ……アイツとは同じ道場の出身だ。けど、因縁のライバルでもあるからな……」

「「「ええっ!?」」」


 サヤカの衝撃の告白に、アイリンを除く全員が目を丸くした。驚愕の空気が、トレーニングルームに響き渡ったのだった。  

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