特訓開始から三ヶ月後。とある無人島では、決戦の舞台となる「逃走ロワイアル」が幕を開けようとしていた。島の中央には白亜の建物がそびえ立ち、それが逃走ロワイアルの運営本部であることは一目瞭然だった。そこには、このゲームの黒幕・グレゴリウスが潜んでいる。
運営本部の司令室では、グレゴリウスが椅子にふんぞり返り、モニターに映る参加者たちの情報を確認していた。今回の参加者は二十人。全員が一癖も二癖もある実力者揃いだ。
「さて、始めるとするか……」
グレゴリウスは不敵な笑みを浮かべ、キーボードを叩き始める。その指先が動くたび、逃走ロワイアルの開幕が近づいていた。
※
無人島の広場。そこには十六人の参加者たちが、緊張感漂う広場に集結していた。子供の姿はないものの、ホームレス、チャラ男、囚人、不良、貧乏人、引きこもり、――一筋縄ではいかない面々が揃っている。芸能枠の参加者が一人もいないことで、危険度はさらに増していた。
その中に、エリカの姿もあった。彼女は当然のごとく、この過酷なゲームに参戦している。
「さあ、始まります! 正真正銘、最後の逃走ロワイアル! マルテレビから始まり、今やデスゲームへと進化したこの戦い! 今回、どんな結末が待っているのか、ご注目ください!」
司会のユキコが声を張り上げると、視聴者コメント欄は「いよいよか!」「ラストと聞いたがどうなるんだ……」と一気に沸き立つ。今回は無観客試合のため、視聴者は全員テレビ越しに応援するしかなかった。
「おや? サヤカさんたちがいないみたいですね……この大会に来るはずなのに……あっ、来た!」
ユキコがキョロキョロと周囲を見回すと、森の奥からサヤカ、ヒカリ、碧、舞香の四人が姿を現した。彼女たちは鋭い眼差しで広場を見据え、逃走ロワイアルを終わらせる決意を胸に秘めていた。
「やっと来ましたわね。この時を待っていましたわ!」
エリカが楽しげに笑い、左腕を勢いよく振る。サヤカたちとの決着を心から楽しみにしている様子が、その表情から伝わってきた。
「こっちも同じだぜ! アンタとは決着を着けたかったからな!」
サヤカも負けじと応じ、エリカとの対決を心待ちにしていた。彼女が小学生三人を殺した罪は許せず、必ず償わせると誓っていた。
「随分やる気みたいだけど、私たちの目的はこの逃走ロワイアルを終わらせることだからね!」
「私たちも戦う覚悟はできてます。ここで立ち向かわなきゃ、女が廃るわ!」
「その言葉、よく知ってるわね……」
ヒカリが闘志を燃やし、逃走ロワイアルの終焉を宣言。舞香もガッツポーズで覚悟を示す。だが、碧は舞香の言葉に思わず苦笑いを浮かべていた。
ともかく、四人は気合十分。逃走ロワイアルの火蓋が、今、切られようとしていた。
※
無人島近くの港では、ミンリー、隼人、隆の三人が、パソコンで逃走ロワイアルの様子を注視していた。サヤカたちの参加が確認され、あとはスタートの合図を待つばかりだ。
「中継は無事に繋がっています! しかし、あの無人島に逃走ロワイアルの本部があるとは……」
「奴らは人目につかない場所で運営してる。犯罪組織と同じ手口だな」
隆がパソコン画面を見ながら報告するが、無人島に本部があることは想定外だった。一方、隼人は冷静な表情を崩さない。傭兵として数々の敵のアジトを把握してきた彼にとって、この程度は驚くに値しない。
「なるほど。あとは本部の位置も分かったし、警察に連絡しておかないとね。これまでの罪を清算してもらうためにも!」
「ええ。後はサヤカさんたちが上手く生き残れるかですね。今は彼女たちがゲームをクリアすると信じましょう」
ミンリーの提案に隆が頷き、視線を無人島へと移す。サヤカたちなら、どんな困難も乗り越えられると信じていた。
※
無人島の広場では、ユキコが二十人の参加者たちに向け、ルールの説明を始めた。ゲームを一刻も早く始めたいという熱気が、彼女の声に込められている。
「さて、初めての方にもルールをお伝えします! メモは必ず用意してくださいね? ルールは逃走ロワイアル従来ルールで、ハンティングマンから逃げること。自首方法は自主ボックスか、脱出用ボートに乗り込めば成功です! 逃走成功すれば、願いが叶います! 成功すれば、夢のパラダイスが待っています!」
ユキコの説明に、視聴者コメント欄は「マジかよ!」「前回は七人生き残ったけど、今回はどうなる!?」と興奮と緊張の声で溢れかえる。
前回の逃走ロワイアルでは、七人が生き残る前代未聞の結果に。今回は運営も対策を講じているため、そう簡単にはいかないだろう。
「し・か・し……捕まったら即死という過酷な結末が待っています! 生きるか死ぬかは、参加者の行動次第! さらに、ハンティングマンは殺戮マシンにパワーアップ! 簡単には逃げ切れませんよ!」
(ハンティングマンがパワーアップか……だが、今の私たちなら問題ない!)
ユキコの実況に、サヤカは心の中で闘志を燃やす。ハンティングマンの強化は想定済み。こちらも準備を整え、パワーアップを完了していた。だが、エリカと黒幕のグレゴリウスも控えている以上、油断は禁物だ。
「次にステージについて説明します。今回の舞台は無人島ですが、ミッションクリアごとにステージが移動します! 今いる無人島が第一ステージ。第二ステージは本部ビルの中。そしてラストステージは、ゲームマスターがいる玉座の間です!」
視聴者コメント欄は「ゲームマスターの元へ!?」「何か裏がありそうだ!」と疑心暗鬼の声で騒然。玉座の間へ向かうということは、危険人物との直接対決を意味するに違いない。
「さらに……勇気ある者はハンティングマンに反撃するのもOK! 命の保証はありませんが、倒せればゲームが楽になるのは確実! では、皆さん、散開してください!」
ユキコの合図で、サヤカたちはそれぞれの場所へ散らばる。彼女たち四人は一塊となり、離れずに行動する作戦だ。
「あっ、言い忘れましたが……最初からミッションが発動します! その内容は……サバイバルバトル! 人数が15人になるまで、時間無制限で行います!」
「まさか最初からミッションとは……」
「グレゴリウス、さすがに手強いわね……」
ユキコの報告に、サヤカたちは冷や汗を流しながら息を呑む。初っ端からミッションとは予想外だった。グレゴリウスの狡猾さに、改めて警戒心を強める。だが、彼がこの程度で終わるはずがない。さらなる試練が待ち受けていることを、彼女たちは感じ取っていた。
「では、最後となる逃走ロワイアルが今から始まります! このゲームに終止符を打てるのか? それとも永久に続くのか……? 運命の戦い、いざスタート!」
ユキコが右腕を高々と上げると同時に、三体のハンティングマンが無人島に降臨。運命を賭けた逃走ロワイアルが、ついに幕を開けた。