最後となる逃走ロワイアルが始まりを告げられ、逃走者たちはハンティングマンに見つからない様にしなければならない。大きな木などの物陰に隠れたり、洞穴などの安全なところに避難したりする必要があるのだ。
しかしサヤカたちはハンティングマンを全て倒し、この逃走ロワイアルを終わらせようとしている。自殺行為かも知れないが、そうすれば戦いが早く終わるからだ。
※
夜の無人島は静寂に包まれていたが、遠くで響く爆音と雷鳴がその均衡を破る。地面は湿り、足元で砕けた枝がバキバキと音を立てる。空気は重く、血と鉄の匂いが漂う。サヤカたちは息を潜め、戦場を見据える。彼女たちの目は、決意と覚悟に燃えていた。
「放たれたハンティングマンは三体。だが、奴らを倒せば、この逃走ロワイアルは終わりを告げられる」
サヤカの声は低く、しかし力強い。彼女の言葉は仲間たちに火をつけるので、この言葉が無ければ今の状態になる事はなかったのは当然である。
「何が何でもこの大会をぶち壊す。やるからには本気で行かないとね!」
ヒカリが拳を握りしめ、鋭い眼光で応える。碧と舞香もまた、真剣な表情で頷く。彼女たちの背後では、風が唸り、木々の葉が不気味に揺れる。
スタート時に放出されたハンティングマンを全て倒せば、逃走ロワイアルは終わりを告げる。しかしグレゴリウスはそう簡単にはいかない。彼はさらなる対策を仕掛けていて、逃走者たちを容赦なく追い詰めていくだろう。
「まずは左方面だ。いきなり出てくる可能性もあるからな……」
サヤカが左の闇を睨みつけ、慎重に進もうとするその刹那――重々しい機械の足音が地面を震わせ、闇の中から迫ってくる。金属が擦れる不快な音が空気を切り裂き、サヤカたちの心臓を締め付ける。ハンティングマンだ。
「ついに来たか……戦闘態勢用意!」
サヤカの鋭い号令が響き、仲間たちは一瞬で臨戦態勢に。ヒカリは格闘技の構えを取り、膝を軽く曲げ、爆発的な動きに備える。碧はロケットランチャーを肩に担ぎ、照準を定める。舞香は大鎌を両手で握り、刃が月光を浴びて冷たく光る。
ハンティングマンが姿を現す――黒い装甲に覆われた巨体、サングラスに隠された瞳は赤く輝き、獲物を逃さぬ殺意を放つ。その動きは機械的だが、どこか獰猛で、まるで生き物のごとくサヤカたちに襲い掛かってきた。
「相手は今までよりは違う! だが、私たちの敵ではないからな!」
サヤカが叫び、地面を蹴る。彼女の身体は矢のようにハンティングマンへ突進。風を切り裂く勢いで放たれた回し蹴りが、ハンティングマンの頭部を直撃。金属音が夜の森に響き、火花が飛び散る。
ハンティングマンは衝撃でよろめき、地面を抉りながら数メートル後退。だが、その体はすぐに動きを止め、ゆっくりと立ち上がる。人間の様な機械の身体には、わずかなダメージがあるのみ。サヤカの攻撃は効いたが、倒すには程遠い。
「ここは鋭い一撃を喰らわさなければ、倒れる事は不可能だな」
サヤカが冷静に分析し、敵を睨みつける。ハンティングマンのサングラスが一瞬光り、内部でデータが高速で処理されているのがわかる。前回の大会のデータを基に、彼女たちの動きを完全に解析しているのだ。
「それなら私に任せて!」
ヒカリが叫び、電光石火の速さで動く。彼女はハンティングマンの死角を突き、背後に回り込む。その動きはまるで風のよう――敵の反応が追いつく前に、ヒカリは両腕でハンティングマンの腰をガッチリとクラッチ。次の瞬間、彼女の全身が爆発的な力を放ち、敵を宙に放り投げる。
「これでも喰らいなさい! ジャーマンスープレックス!」
ヒカリの叫びが戦場に轟く。ハンティングマンは地面に叩きつけられ、首の機械骨格が砕ける音が響く。 衝撃で地面が陥没し、土煙が舞い上がった。ハンティングマンは一瞬動きを止め、内部から火花が散る。そして―― 盛大な爆発が夜を切り裂き、炎と黒煙が周囲を包む。その爆発の跡には、一本のネジだけが転がっていた。
「よっし!」
ヒカリは息を整えながらガッツポーズ。勝利の確信が彼女の顔に浮かんでいた。
「お見事! 最初にハンティングマンを撃破したのは、橘ヒカリ! 見事サヤカの攻撃から、自身と繋がる連携技を繰り出した! 最強コンビは伊達ではない! 実に見事です!」
ユキコの実況が戦場に響き、視聴者コメント欄は熱狂に沸く。「ナイス連携!」「やっぱり最強コンビだよ!」――画面の向こうでは、称賛の声が雪崩のように押し寄せる。サヤカたちの戦いは、視聴者の心を掴んで離さない。
「まさかここまで人気となるとはな……」
サヤカは苦笑いしながら頬を掻く。孤独な旅を続けてきた彼女にとって、仲間とファンに囲まれるこの状況は照れ臭い。だが、その目はすぐに鋭さを取り戻す。
「ええ。けど、油断はならないからね。次のハンティングマンを倒しに向かいましょう!」
ヒカリの言葉に、碧と舞香も力強く頷く。彼女たちは次の獲物を求めて動き出す。視聴者の期待を背負い、逃走ロワイアルを終わらせる決意を胸に。
※
「やはりやってくれましたね……」
一方、エリカは林の奥で静かに呟いていた。彼女のポーカーフェイスは崩れないが、瞳の奥には苛立ちが滲んでいた。
サヤカたちの活躍が、彼女の計画を次々と打ち砕く。ハンティングマンが倒されたことで、彼女の望むストーリーは瓦解しつつある。
「まあ、彼女たちは後で倒すとして……今は参加者を減らしましょう……」
エリカの声は冷たく、両手を合わせると、地面に血のような赤い魔法陣が広がる。すると地面が震え、無数のナイフが姿を現す。刃は血に染まり、禍々しいオーラを放っている。まるで生きているかのように震え、標的を求めて蠢いていた。
「ブラッドナイフキャノン!」
エリカの叫びとともに、ナイフが空を切り裂き、逃走者たちへ向けて放たれる。その速度は音速を超え、鋭い刃は空気すら切り裂く。彼女の目的は明確――参加者を一人残らず始末し、逃走ロワイアルを自分の思うままに操ることだ。
※
一方、大きな木の下では、逃走者の一人である
「このまま無事に逃げ切れば……」
光男の呟きは希望に満ちていたが、突然の危機感に空を見上げる。そこには血のナイフが、無数に降り注いでいた。刃はまるで意思を持ったかのように彼を追い、死の恐怖が光男の心を締め付ける。
「何だよ! 何だこのナイフは! 誰か助けてくれ!」
光男は全速力で逃げるが、ナイフは執拗に追う。その速度は人間の限界を超え、木々を薙ぎ倒しながら迫る。サヤカたちの助けが必要だが、彼女たちの居場所はわからない。絶望が光男を飲み込む。
「恐怖のナイフが襲い掛かってくる! 運営はこんなのを用意していないとの事ですが……あっ、只今入りました情報によりますと、なんとエリカが参加者たちを始末する為、次々とナイフを召喚したとの事! どうやらミッションを終わらせるのが目的です!」
ユキコの実況が響き、視聴者からは怒りと驚きの声が殺到。「なんて奴だ!」「参加者まで巻き込むな!」――コメント欄は憤慨で埋め尽くされる。だが、エリカにはそんな声など届かない。
ナイフが光男に追いつくと同時に、鋭い刃が彼の身体を貫き、血が地面を染める。光男は前のめりに倒れ、動かなくなる。即死だった。
「なんて事だ! エリカのナイフによって第一の犠牲者が! 梅村光男、ここで無念の死を遂げられた! これで残るは19人だ!」
ユキコの声が戦場に響き、視聴者コメントは混乱と驚愕で埋め尽くされる。「やっちまったか!」「逃走ロワイアル、異常すぎるぞ!」と、ざわつく声が続出。誰もが驚きを隠せないのも無理はない。
港にいるミンリー、隆、隼人もその光景に言葉を失い、冷や汗が頬を伝っていた。
(あの女、過去に一体何があったのか気になるな……後で調べる必要があるな)
隼人はエリカの行動に疑念を抱き、彼女の過去を調べることを決意する。エリカがいる限り、逃走ロワイアルは終わらない。彼はそう確信していた。