本部ビル内の薄暗い一角で、逃走者でフリーターの
「み、みんな、逃げて!」
美波が叫ぶが、時すでに遅し。ブラッドナイフは彼女たちを包囲し、鋭い刃が無慈悲に閃く。美波は最後の抵抗としてナイフを振り上げるが、ブラッドナイフの圧倒的な速度と威力の前では無力だった。一瞬にして、美波と仲間たちは血の海に沈み、断末魔の叫びがビル内にこだまする。
「美波選手を含む三人、同時脱落! ブラッドナイフの猛攻、止まりません! 残る逃走者はあとわずか!」
視聴者のコメントは熱狂と恐怖で沸騰。「エリカのブラッドナイフ、チートすぎる!」「こんなのどうやって防ぐんだよ!」「サヤカたち、こいつ倒せるのか!?」と、戦慄と興奮が交錯する。エリカの最悪の脅威を前に、サヤカたちの戦いが注目を集めていた。
※
別のエリアでは、逃走者で工場員の
「よし、このエリアは安全だ……次は――」
耕平が次のルートを考えたその瞬間、ブラッドナイフが背中に突き刺さる。鋭い痛みと共に血が噴き出し、耕平は驚愕の表情を浮かべたまま地面に崩れ落ちる。ブラッドナイフは一撃で命を奪い、静かにその場を去る。
「耕平選手、脱落! ブラッドナイフの精密な追跡、逃れるのは至難の業!」
ユキコの冷酷な声が響き、視聴者のコメントは止まらない。「耕平までやられた!」「ブラッドナイフ、ガチで怖いわ……」「サヤカたちのところにも来るんじゃね?」と、エリカの脅威への恐怖が広がる。
※
次々と逃走者がブラッドナイフの餌食となり、ビル内は血と悲鳴で満たされていく。エリカはモニター越しにその惨劇を眺め、満足げに唇を歪める。
「ふふっ、雑魚はこれで片付きましたわね。さて、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香……あなたたちには特別な舞台を用意してあげましょう」
彼女の声は氷のように冷たく、しかしどこか楽しげだ。ブラッドナイフは任務を終え、彼女の元に戻る。その刃は血で濡れ、赤いオーラが不気味に輝いていた。
※
サヤカたちはビル内を突き進みながら、逃走者たちが次々と倒された事実を確認する。エリカの残虐非道な行為に、誰もが怒りを抑えきれなかった。
「あの野郎……! 何処から何処まで倒しまくれば気が済むんだ!」
サヤカは怒りに震え、エリカを倒すべく前へ進もうとする。だが、ヒカリが背後からサヤカを抱き締め、優しく顎を撫で始めた。
「ほらほら、落ち着いて。カッカしたら駄目よ」
「や、止め……フニャ〜……」
ヒカリが笑顔で顎を撫で続けると、サヤカはフニャフニャになり、地面に膝をつく。黒猫族の獣人であるサヤカは、顎を撫でられると弱ってしまう特有の癖がある。仕方のないことだが、仲間には意外な一面だった。
(サヤカにこんな一面があるなんて……)
(初めて見た……)
ヒカリとサヤカのやり取りを見ていた碧と舞香は、驚きでポカンとしていた。サヤカのこんな姿は想像もしていなかっただろう。
だが、どこからか響く足音に、サヤカたちは一瞬で警戒態勢に入る。エリカが来る可能性もある。油断は禁物だ。
「何者だ!」
サヤカが叫んだ途端、一人の女性が姿を現す。ボサボサの髪、赤いジャージ、開いた上着の下に白いTシャツ、腹をボリボリ掻きながら現れた。
「あれ? あなたって、逃走者の……」
「
千恵と名乗った女性は、一礼する。意外と礼儀正しいが、引きこもりという背景は驚きだ。
「それにしても……引きこもりがなんでこの大会に?」
「引きこもりになったのは……まあ、色々あってね。昔はゲームばっかやってて、現実が面倒になっちゃってさ。外に出るのも億劫で、ずっと部屋に閉じこもってたんだよね」
千恵はボサボサの髪をかき、気だるげに語る。ヨレヨレの赤ジャージとシミだらけのTシャツは、この過酷な逃走ロワイアルを生き延びたとは思えない雰囲気だ。
「で、なんでこの大会に?」
「んー……正直、最初は金目当てだったんだよね。賞金ってデカいじゃん? 引きこもりでも、なんかこう、人生変えたいって思ってさ。ネットで募集見て、勢いでエントリーしちゃった」
サヤカが鋭い目で千恵を見つめるが、彼女は肩をすくめる。人生を変えるために参加するとは、勇気ある行動だ。
「でも、始まったらマジでヤバくて。ブラッドナイフに追われて、仲間はみんなやられちゃって……私、運だけでここまで生き残ったんだ」
千恵の言葉に、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香は顔を見合わせる。気だるい口調とは裏腹に、ブラッドナイフから逃げ切ったのは驚異的だ。生き残っている逃走者は、すでに一握りしかいない。
「運だけって……いや、めっちゃすごくない?」
「でしょ? 自分でもビックリだよ。隠れるのだけは得意だからさ、物陰とかエアダクトとか使って逃げまくった。けど、あのナイフが厄介だからね……」
碧が目を丸くすると、千恵は少し得意げに笑う。だが、ブラッドナイフの恐怖は消えず、不安が残るのも無理はない。
「エリカを倒すには、まずあのブラッドナイフをどうにかしないと。でも、その前に……ハンティングマンを潰す方が先決だ」
「ハンティングマンか……あいつらも厄介だよね。ゴツい装備でガンガン攻めてくるし」
サヤカの意見に、舞香が腕を組んで唸りながら同意。エリカだけでなく、ハンティングマンも強敵だ。彼を倒さなければ、この殺戮のロワイアルは終わらない。
するとヒカリがサヤカの肩を叩き、ニッコリ笑う。
「ま、でもサヤカならなんとかなるでしょ? 黒猫族のスピードと反射神経、めっちゃ頼りになるんだから!」
「う、うるさいって! さっきの顎のことは忘れろよ!」
サヤカは顔を赤らめ、ヒカリを軽く睨む。顎を触られたことは根に持っているようだ。彼女はすぐに気を取り直し、千恵に向き直る。
「千恵、あんた、隠れるの得意なんだろ? だったら、私たちの作戦に役立つかもしれない。一緒に来るか?」
サヤカの勧誘に、千恵は一瞬目を伏せて考え込むが、やがて小さく頷く。決心は固まったようだ。
「うん、いいよ。どうせ一人じゃもう限界だし。エリカを倒すなら、私もその一助になりたいかな」
「決まりだな。じゃあ、まずはハンティングマンを潰しに行くぞ。奴はモニターで見たところ、ビルの西棟に一体だけいる事が分かった。奴を終わらせに向かうぞ!」
「「「おう!」」」
サヤカの宣言と共に、ヒカリ、碧、舞香、千恵の四人が拳を上げ、声を揃える。視聴者のコメントはさらに過熱し、「新キャラ、千恵キター!」「引きこもりがブラッドナイフから逃げ切るってマジすげえ!」「サヤカたちのチーム、強そう! ハンティングマンどうなるんだ!?」と興奮の声が飛び交う。
千恵を仲間に加えたサヤカたちは、ハンティングマンのいる西棟へ向かった。ビル内の空気はますます重く、血と緊張に満ちていた。