サヤカたち五人は、千恵を加えた新たなチームとして、ビルの西棟に向かって慎重に進み始めた。薄暗い廊下に響く足音を殺し、千恵の隠密スキルが敵の監視網を巧妙にすり抜ける。彼女はエアダクトの隙間や狭い通路をまるで影のように滑り抜け、チームを安全なルートへと導く。その動きはまるで忍者の如く、チームにとってまさに不可欠な存在だった。
「ここ、監視カメラあるよ。ちょっと待って、ループさせてくる」
千恵はポケットから取り出した小型デバイスを素早く操作し、カメラの映像をハッキング。ディスプレイに映る赤い警告灯が一瞬で緑に変わる。碧と舞香は、その鮮やかな手腕に目を丸くした。
「引きこもりって言っても、こういうの得意なんだね……」
「まあ、ネットで色々覚えたからさ。ハッキングとか、ゲームの攻略とかね」
碧の呟きに、千恵はニヤリと笑みを浮かべる。彼女の自信に満ちた表情は、引きこもりを侮る者には痛い代償を払わせるだろう。一方、サヤカは鋭い視線で前方を見据え、ヒカリと小声で作戦を練っていた。
「ハンティングマンは装備が重い分、動きは鈍い。あいつらの武器を無力化できれば、私たちのスピードで圧倒できる」
「了解! じゃあ、私と舞香で陽動して、サヤカと碧で急襲ね。千恵は後方からサポートでいい?」
ヒカリの提案に全員が頷き、緊張感が高まる中、金属の軋む重い足音が響き始めた。彼女たちは一瞬で戦闘態勢へ。現れたのは、禍々しい装甲に身を包んだハンティングマンだ。
「ハンティングマンが来たけど……数多くない?」
舞香の呟きと同時に、暗闇から次々とハンティングマンが姿を現す。その数、実に十体。赤く光る光学センサーが無機質に彼女たちを捉え、予想外の増援にチームの空気が一瞬凍りつく。
「言い忘れましたが、ハンティングマンは第二ミッションに入ってから、数を増やしてしまいました。ゲームマスターがあなたたちの行為を見過ごせないので」
「そういう事か……だったら、戦うしか無いな! まとめて倒してやる!」
ユキコの冷静な実況を聞き、サヤカは拳を握り締め、仲間と共に一斉にハンティングマンへと突進。視聴者コメントは熱狂に沸き、「サヤカたちの作戦、成功するのか!?」「千恵のハッキング、マジで使える!」「ハンティングマンvsサヤカチーム、激アツ展開!」と、戦いの行方に期待と緊張が渦巻いていた。
「ここは私に任せて!」
千恵は電光石火の速さでデバイスを構え、ハンティングマンの制御システムにハッキングを仕掛ける。彼女の指がキーを叩くたび、画面に無数のコードが流れ、ハンティングマンたちの動きが突如硬直。赤い光学センサーがチカチカと点滅し、攻撃態勢が完全に崩れる。
「ハンティングマンは動きを封じたよ! 今がチャンス!」
「よし! ここはコイツで! ロケットランチャー、発射!」
千恵の合図と同時に、碧は肩に担いだロケットランチャーを構える。ズシンと重い反動と共に、轟音を立ててロケット弾が発射。炎の尾を引きながらハンティングマンに直撃し、爆風がビル内に響き渡る。
七体のハンティングマンが装甲を粉々に砕かれ、火花と煙を上げながら倒れ込む。爆発の衝撃で天井の照明が揺れ、破片が床に散乱する。
「残るは三体。ここはプロレス技で!」
舞香は獲物を狙う豹のように駆け出し、ハンティングマンの重いパンチを紙一重でかわす。金属の拳が空を切り、床に火花が散る中、彼女は一瞬で敵の背後に回り込む。両腕でハンティングマンの腰をガッチリと抱え、全身の力を込めて後方へ反り返る。ジャーマンスープレックスが炸裂し、ハンティングマンの頭部がコンクリートに激突。衝撃音が反響し、装甲がひび割れる。
「ジャーマンスープレックス炸裂! ハンティングマンの脳天が地面に直撃!」
ユキコの興奮した実況が響き、視聴者コメントは「ナイスジャーマン!」「やったぜ!」と大盛り上がり。舞香の鮮やかな一撃に、希望の光がチームに灯る。
「次は私が行くわ!」
ヒカリは残る二体のうち一体に狙いを定め、軽やかなステップで距離を詰める。ハンティングマンの重装備が発する鈍い金属音が響く中、彼女は一気に跳躍。空中で体を螺旋のように捻り、右足を鞭のようにしならせる。
「スパイラル・インパクト!」
回転回し蹴りがハンティングマンの頭部を正確に捉え、装甲がグシャリとひしゃげる。火花が飛び散り、衝撃でハンティングマンは膝から崩れ落ちる。
ヒカリのキックは、鍛え抜かれた脚力で強化された一撃。彼女の動きはまるで嵐のように迅速で、視聴者コメントは「ヒカリのキック、マジでヤバい!」「あのスピード、反則級!」と熱狂に包まれる。ユキコの実況も場をさらに盛り上げる。
「最後は私が締める! 行くぞ!」
残るは最後の一体。サヤカが静かに前に出る。彼女の目は鋭く、ハンティングマンのわずかな動きすら見逃さない。敵の光学センサーが彼女を捉えるが、既に遅い。
サヤカは地面を強く蹴り、爆発的な跳躍力でハンティングマンの頭上高く舞い上がる。空中で体をひねり、両足を揃えて一直線に突き出す。その姿はまるで飛来するミサイルのようだ。
「ミサイル・ストライク!」
強烈なミサイルキックがハンティングマンの胸部装甲を直撃。轟音と共に装甲が粉々に砕け、内部回路が火花を散らしながら露出。ハンティングマンは膝をつき、ガクンと倒れ込む。
直後、十体のハンティングマンが一斉に自爆。爆発の閃光がビル内を照らし、大量のネジと破片が床に散乱する。これでハンティングマンは全滅だ。
「サヤカのミサイルキック、決まった! これぞリーダーの貫禄! これでハンティングマンは全滅となり、恐怖に怯える事は無くなった!」
ユキコの声が響き、視聴者コメントは「サヤカ無敵!」「あの跳躍力、チートだろ!」と大熱狂。チームの息の合った連携と圧倒的な戦闘力が、十体のハンティングマンを壊滅させた瞬間だった。
だが、勝利の余韻に浸る暇はない。サヤカたちは息を整え、互いに視線を交わす。緊張感が再び高まる。
「ハンティングマンは片付けたけど、次はエリカだよ。恐らく何処かの部屋で待ち構えているから」
「何れにしても手強い事に間違いがないか……どうなるのか気になるけど、今は彼女を倒す事に集中しないと!」
千恵の忠告に、碧は真剣な表情でガッツポーズ。エリカとの戦いは避けられない運命だ。舞香とヒカリも頷き、覚悟を決める。それを見たサヤカは頷いたと同時に、冷静に指示を出す。
「エリカは単独行動が得意だ。恐らく、ブラッドナイフなどの罠を仕掛けてくるだろう。千恵は監視システムの掌握を続けてくれ。ヒカリと舞香は左右から牽制、碧は遠距離から援護。私が正面から仕掛けて倒すのみだ!」
「了解。何れにしても油断はできないからね」
「援護は任せて!」
「そうと決まれば早速倒しに行かないと!」
「さっ、早く急ぎましょう!」
サヤカたちはエリカが潜む最上階へ向けてエレベーターに乗り込む。扉が閉まる瞬間、ユキコの声がスピーカーから響き渡る。
「さあ、視聴者の皆さん! サヤカチームvsエリカ、世紀の対決が始まる! エリカの狡猾な戦術を、サヤカたちはどう打ち破るのか!?」
視聴者コメントは「頑張れサヤカ!」「エリカを止めろ!」と応援の嵐。サヤカとエリカの因縁の結末は、戦いの先でしか見えない。
※
一方、港にいるミンリーたちは、配信を見ながら待機していた。逃走ロワイアルは後半戦に突入したが、警察や軍の到着が遅れている。
「それにしても遅いな……おっ、ようやく来たか!」
隼人が音のした方を見ると、巨大な船が港に姿を現す。甲板には警察や軍隊が勢揃いし、逃走ロワイアルを終わらせるべく準備万端だ。
「お待たせしました! 何時でも準備万端です!」
「すまないな。よし、俺たちも行くぞ!」
警官の合図と共に、隼人、隆、ミンリーは船に向かう。逃走ロワイアルを終わらせ、首謀者グレゴリウスを逮捕するために――。