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第36話 グレゴリウスの恐怖

 グレゴリウスとの戦いは、まるで天地がひっくり返るような壮絶な一進一退の攻防だった。拳と拳がぶつかる度に、激しい火花が散りまくっていた。

 サヤカ、ヒカリ、舞香の三人が最前線で死闘を繰り広げ、碧は遠距離からロケットランチャーで援護射撃を放ち、千恵はグレゴリウスの秘密を暴くべくデバイスを駆使して解析に没頭している。


「グレゴリウスについて分かっている事はある?」

「過去については分かっているけど、弱点については時間が掛かるみたい」


 碧の鋭い声に、千恵はデバイスを高速で操作しながら答える。画面には膨大なデータが流れ、グレゴリウスの過去はすでに明らかにされているが、肝心の弱点は依然として見えない。ハッキングでその糸口を探るしかなく、千恵は汗と緊張に耐えながらデータを掘り進める。


「長期戦となると、こちらが苦戦してしまう。だからこそ私たちの手で終わらせないと!」

「言われなくてもそのつもりだから! よし、ここをクリックして……」


 千恵がグレゴリウスの弱点を追い求める中、戦場では轟音と共に激しい動きが巻き起こる。

 サヤカとヒカリが息を合わせ、雷鳴のような拳をグレゴリウスの鳩尾に叩き込む。砂塵が舞い上がるが、グレゴリウスの身体は微動だにせず、冷たく平然と立ち続ける。


「その程度で私は倒せない。羅刹波動弾らせつはどうだん!」


 グレゴリウスが咆哮し、両手に禍々しい漆黒の波動弾を生成。エネルギーは空気を震わせ、触れるもの全てを焼き尽くすような威圧感を放つ。

 彼はそれをサヤカたちに向けて一気に投げ放つ。波動弾は空間を切り裂き、黒い尾を引いて迫る。直撃すれば、骨まで溶かすような大ダメージは避けられない。


「そうはさせない!」

「何!?」


 その瞬間、舞香が疾風のように前に躍り出る。大鎌が月光を反射し、弧を描きながら波動弾を次々と切り裂く。鋭い刃が黒いエネルギーを両断し、打ち返された波動弾はグレゴリウスに直撃。そのまま強烈な爆発が起こってしまった。


「ぐほ……!」


 爆発の直撃を受けたグレゴリウスは、身体がボロボロになりながら膝をつく。だが、その瞳に宿る闘志は消えず、むしろ燃え上がるようにサヤカたちを睨みつける。


「なるほど……そう簡単には倒せないみたいだな。それなら、ギアを一段階上げるとしよう!」


 グレゴリウスが吠えると、背中から漆黒の闇のオーラが噴き出し、まるで生き物のように彼の身体を包み込む。

 オーラは瞬く間に硬質な鎧へと変貌し、グレゴリウスを禍々しい戦神の姿へと強化。闇の結晶のような鎧は、触れるものを拒絶する絶対の防壁となり、戦場に不気味な輝きを放つ。


「なんて事だ! 闇のオーラが鎧となってしまい、グレゴリウスを強化! これは非常にヤバい事になるぞ!」


 ユキコの実況が戦場に響き、視聴者たちの驚愕の声がコメント欄を埋め尽くす。「まさかの第二形態とは!」「ゲームと同じ展開だ!」「非常にまずいぞ!」と、不安と興奮が入り混じった叫びが飛び交う。最悪の展開は避けられないが、ここまで来た以上、戦う以外の選択肢はない。


「くそっ! 戦うしかないか!」


 サヤカたちは強化されたグレゴリウスに立ち向かうが、攻撃は全て鎧に阻まれる。

 サヤカの拳は雷のような轟音を響かせるが、鎧に弾かれ火花を散らす。ヒカリの蹴りは空気を切り裂くが、かすり傷一つ与えられない。舞香の大鎌による斬撃も、鎧の表面を滑り、衝撃音だけが虚しく響く。闇のオーラはまるで鉄壁の要塞となり、グレゴリウスを無敵の存在にしていた。


「くそっ! こいつの鎧、硬すぎる!」


 サヤカが歯を食いしばり、血と汗にまみれた顔で叫ぶ。彼女の目は闘志に燃えているが、疲労がその身体を蝕んでいる。


「このままじゃジリ貧だよ! 何か策はないの!?」


 ヒカリが叫びながら、グレゴリウスの波動弾を紙一重で回避。強化された波動弾は地面を抉り、爆風が戦場を焼き尽くす。土煙が視界を覆い、まるで地獄の業火が吹き荒れるようだ。

 その時、碧がロケットランチャーを構え、グレゴリウスに照準を合わせる。彼女の目は鋭く、狙撃手の覚悟が宿っている。


「援護するわ! ストライクショット!」


 轟音と共にロケット弾が火を噴き、グレゴリウスに向かって一直線に突き進む。弾丸は空気を焼き、尾を引いて迫る。

 だが、グレゴリウスは冷笑を浮かべ、片手を振る。闇のオーラが盾となり、ロケット弾を瞬時に弾き返す。弾は軌道を変え、碧の足元近くで炸裂。爆風が彼女を吹き飛ばし、地面に叩きつけてしまった。


「碧さん! くっ!」


 舞香が叫び、碧のもとに駆け寄ろうとするが、グレゴリウスの波動弾が再び襲いかかり、彼女の動きを封じる。爆発の余波が戦場を揺らし、土煙が視界を覆う。


「無駄だ。お前たちに私を倒す力はない」

「うぐぐ……」


 グレゴリウスは不敵に笑い、闇のオーラをさらに増幅。その姿は闇そのものが実体化したかのような威圧感を放ち、戦場を支配する。空気が重く、息をするのも苦しい。

 サヤカ、ヒカリ、舞香はズタボロになり、地面に膝をつく。碧も立ち上がれず、千恵はデバイスを操作しながら焦りの表情を浮かべる。


「まだ……弱点が見つからない! もう少し時間が……!」


 千恵の声は震え、指先はデバイスを叩き続ける。絶望が戦場を覆うその瞬間、遠くの海から雷のような轟音が響き渡った。


「何だ? この音は……!」


 グレゴリウスが初めて動揺を見せる。島の周囲に無数の船が姿を現し、エンジンの咆哮とサイレンが戦場を切り裂く。船には警察のマークや軍の旗が翻り、ヘリコプターのプロペラ音が空を震わせる。戦場に新たな風が吹き込む。


「援軍だ! ミンリーたち、やってくれたな!」


 サヤカが顔を上げ、希望の光をその目に宿す。船の甲板にはミンリー、隆、隼人の三人が立ち、圧倒的な援軍の到来を告げる。


「遅くなってごめん! 警察や軍隊をまとめて呼んだから!」

「それだけでなく、ハルヴァスからも援軍が来ています! グレゴリウスを逮捕する為に駆けつけました!」


 ミンリーと隆の報告に、サヤカたちは安堵の笑みを浮かべる。一方、グレゴリウスは一瞬たじろぐが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「ふん、雑魚が何人集まろうと、私を倒せると思うのか? 愚かな!」


 グレゴリウスは両手を広げ、闇のオーラを爆発的に放出。島全体が揺れ、大地が裂け、空気が歪む。戦場はまるで終末の光景と化す。オーラの奔流は空を覆い、雷鳴のような轟音が響き渡る。

 だが、サヤカたちはその威圧に屈しない。ボロボロの身体を引きずりながら、彼女たちは再び立ち上がる。


「終わりじゃない……まだ終わらせない! ここまで来たらやるしかないだろ!」


 サヤカの叫びに、ヒカリたちは真剣な表情で頷き合う。四人の瞳には炎のような闘志が宿り、ボロボロの状態でも正々堂々と立ち上がっていた。


「千恵! 弱点の解析、急いで!」

「あと少し……! もう少しで何か掴めそう!」


 ヒカリの叫びに対し、千恵はデバイスを叩きながら答える。ここまで来た以上、諦めるという選択肢はない。グレゴリウスを倒すため、彼女たちは全てを賭ける。


「これはまさに最終決戦! サヤカたちの不屈の精神と援軍の到着で、グレゴリウスは追い詰められつつある! だが、まだ奴の力は健在! 勝負の行方は!?」


 ユキコの興奮した実況が戦場に響き、視聴者コメントは「サヤカ、頑張れ!」「援軍カッコいい!」「ここで決着をつけろ!」と、エールで溢れる。

 サヤカはコメントを一瞥し、冷静な笑みを浮かべながら一歩前に進む。拳を握り締め、グレゴリウスを睨みつけた。


「グレゴリウス……お前の好きにはさせない。みんなの力を合わせて、絶対に倒す!」


 サヤカの宣言と同時に、最終決戦は終盤に突入。島全体が戦場と化し、グレゴリウスとサヤカたちの運命を決する一撃が、今まさに放たれようとしていた。


 ※


「う……」


 一方、島の安全地帯では、倒れたはずのエリカが目覚めていた。彼女はユキコによってここに運ばれ、休息を経て今に至る。


「こ、ここは……確か私は倒れて……」


 エリカがキョロキョロと辺りを見回すと、実況中のユキコが近づいてくる。彼女はエリカの前に座り込み、優しい笑みを浮かべる。


「気が付いた? あなたは倒れていたから、私が運んだのよ。サヤカとの勝負に負けていたからね」

「ええ。あの時、私は多くの皆を殺してしまった……もう、私は……捕まる運命……」


 エリカは後悔の涙を流しながら、自分の罪を自覚する。自らを追い詰め、人生を台無しにした今、進む道は一つしかないと思っていた。

 だが、ユキコは彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。


「大丈夫。やり直せるチャンスがあるから。私に任せて!」

「へ?」


 ユキコの言葉に、エリカは思わずキョトンとした表情を浮かべる。この時、彼女は知らなかった。ユキコの秘策によって、逃走ロワイアルの戦いに終止符が打たれることを……。

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