グレゴリウスは全身から禍々しいオーラを放ち、最大限の力を解放していた。地面を揺らし、空気を切り裂くような容赦ない攻撃が、サヤカたちを次々と襲う。雷鳴のような衝撃波、炎を纏った剣撃、そして空間そのものを歪める魔術――その全てが、絶望的な威力で彼女たちに迫る。
しかし、サヤカたちは驚異的な連携と反射神経で攻撃を回避。舞香は翻る大鎌で衝撃波を切り裂き、碧は素早い身のこなしで炎をかわし、ヒカリは光の盾を展開して仲間を守る。彼女たちの反撃は、グレゴリウスの鉄壁の鎧に小さな傷を刻む程度だが、千恵が弱点を解析するまでの貴重な時間を稼いでいた。
「もう少し……よし! 弱点判明した!」
千恵の鋭い声が戦場に響く。彼女のデバイスから放たれる光が、グレゴリウスの鎧の隙間を浮かび上がらせていた。彼女は即座にサヤカたちに情報を共有する。逆転への希望が今、ここに生まれた。
「皆! グレゴリウスは強化されているけど、光の魔術に弱いみたい! 鎧の隙間に光を当てたら、弱体化が可能だよ!」
「よくやった、千恵! それならシャインラッシュで攻めるのみだ!」
サヤカは千恵に力強いグッドサインを送り、仲間たちに気合を入れる。彼女の瞳は燃えるような闘志で輝き、グレゴリウスに向かって突進しようとしたその瞬間――
「その必要はありませんわ。マジックキャンセル!」
「ぬおっ!?」
「こ、この声は……」
突如、空気が震え、光の奔流が戦場を包み込む。グレゴリウスの漆黒の鎧が、まるで星屑のように光の粒となって崩れ落ちた。その壮絶な光景に、グレゴリウスは驚愕し、サヤカたちも息を呑む。
光の粒が夜空に舞い散る中、魔術を放った人物が姿を現す――サヤカとの激闘を終えたばかりのエリカだった。
「エリカ! 来てくれたのか!」
「間一髪ですわね。私はあの後、ユキコさんに助けられましたわ。それに死んだ逃走者たちも、次々と復活しましたわ!」
「逃走者たちが復活!?」
エリカの言葉にサヤカたちが目を丸くした直後、巨大なモニターが戦場の上空に浮かび、鮮明な映像を映し出す。そこには、海上に浮かぶ船の甲板で、死んだはずの逃走者たちが笑顔で手を振っていた。傷一つない彼らの姿に、希望の光が再び灯る。
「皆……生き返ったんだ……」
「良かった……」
ヒカリと舞香は喜びのあまり涙を浮かべ、互いに抱き合う。碧と千恵も顔を見合わせ、温かな笑みを交わした。戦場に一瞬、穏やかな空気が流れる。
「バカな! 死んだ逃走者たちが復活だと!? どういう事だ!?」
グレゴリウスは予想外の展開に動揺し、冷や汗を流しながら震えていた。強化を失った彼の鎧は脆く、その威圧感は薄れつつあった。そこへ、モニターにユキコの姿が映し出され、自信に満ちた笑みを浮かべながら説明を始める。
『実は私、死者を生き返らせる事が可能です。この大会を終わらせようと必死に魔術を取得しまして、今大会でついに出せる事ができました。もうあなたのゲームはうんざりですので』
ユキコの堂々とした実況が戦場に響き、視聴者コメントは熱狂の嵐に。「よくやった、ユキコ!」「マジで神業!」「死者を復活させるなんて、最高かよ!」と、視聴者たちは奇跡の展開に狂喜乱舞。コメント欄は歓喜の声で埋め尽くされる。
『しかし、死後三日以上は難しいのであしからず。さあ、サヤカたちよ! この戦いを終わらせろ!』
「借りができた分、思いっきりやってやるぜ!」
サヤカはユキコのエールに応え、グレゴリウスに向かって疾風の如く駆け出す。彼女の拳が光のオーラに包まれ、地面を叩き割るほどの勢いでグレゴリウスの顔面に炸裂。衝撃波が戦場を揺らし、グレゴリウスは地面を滑りながら転がる。強化が解除された今、彼はただの強敵に過ぎなかった。
『因みに碧、舞香、千恵の武器なんだけど、私からのプレゼントだよ』
「「「ええっ!? ユキコさんから!?」」」
ユキコのさらなるサプライズに、碧たちは驚愕。彼女たちが手にしていた武器――碧のロケットランチャー、舞香の大鎌、千恵のデバイス――全てがユキコの贈り物だったのだ。
『そう。逃走ロワイアルを終わらせるには、協力者が必要だからね。参加者たちを見て自ら判断したの』
「じゃあ、私たちが武器を手に入れたのは偶然じゃないのか……だったら、思う存分やるしか無いわね!」
碧は確信に満ちた笑みを浮かべ、ロケットランチャーを構える。彼女の放った弾丸は轟音と共にグレゴリウスに直撃し、爆炎が戦場を赤く染める。爆風で巻き上がる土煙の中、グレゴリウスはよろめきながらも立ち上がるが、その姿はすでに満身創痍だった。
「まだまだ終わらない! サイトスラッシュ!」
舞香が叫び、大鎌を振り上げる。刃は風を切り裂き、グレゴリウスの胸部を深々と斬り裂く。鮮血が噴き出し、彼は片膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。
「クソ……この私がここまで追い詰められるとは……」
「おっと、まだ終わらないよ? 防御低下スキル!」
千恵がデバイスを高速操作し、グレゴリウスの防御力を極限まで引き下げる。電光が走るようにハッキングが完了し、グレゴリウスの身体から力が抜けていく。もはや彼に逆転の余地はなかった。
「このチャンスは無駄にしませんわ!」
「全力で倒しまくる!」
エリカとヒカリが息を合わせて突進。エリカの華麗なハイキックがグレゴリウスの顎を捉え、ヒカリの光の拳が彼の腹部に突き刺さる。連続攻撃が炸裂し、グレゴリウスの体力は風前の灯火となる。
「よくも私をここまで……もう許さん……」
グレゴリウスが最後の力を振り絞り、よろよろと立ち上がる。その瞬間、サヤカが雷鳴のような咆哮と共に突進。彼女の拳には眩い光のオーラが渦巻き、空間そのものを震わせる。
「グレゴリウス! お前は人の命を弄び、多くの逃走者たちを殺した! この一撃で全て終わらせる! シャイニングパンチ!」
サヤカの拳が振り上げられ、光の奔流がグレゴリウスを飲み込む。
――その一撃は雷鳴を伴い、グレゴリウスの右頬に炸裂。衝撃波が戦場を揺らし、彼の巨体はまるで流れ星のように宙を舞い、海上の船へと飛ばされていく。
「グレゴリウスが……船の方へ向かっていく!」
舞香の叫び声が響く中、グレゴリウスは船の甲板に激突し、衝撃で甲板がひび割れる。瞬時に警察隊が彼を取り囲み、鉄の鎖でその身を縛り上げる。
「グレゴリウス! お前はハルヴァスでの裁判にかけてもらう! 死刑となるのは確定だが、相当の罪は償って貰うぞ!」
警察隊の宣言が響くが、グレゴリウスは失神し、反応すらできない。余程の威力である以上、起きるのには時間が掛かるだろう。
同時刻、逃走ロワイアル終了のブザーが鳴り響き、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香、千恵の五人が勝利者として輝いた。
『グレゴリウスを撃破し、逃走ロワイアルは終了! 悪の野望は打ち砕かれ、正義が見事勝利! 実に感動の結末です!』
ユキコの実況が戦場に響き、視聴者コメントは歓喜の渦に。「終わった! 最高の結末だ!」「サヤカたち、ありがとう!」「この感動、忘れねえ!」と、称賛の声が止まらない。戦場は勝利の喜びに包まれる。
戦いを終えたサヤカたちは、疲労で膝をつきそうになるが、互いの笑顔を見て立ち上がる。船に向かう最後の道程が待っている。彼女たちは仲間たちの待つ場所へ帰るため、力強く歩き出す。
「よし、帰るとするか! 皆の元へ!」
サヤカの満面の笑みに、ヒカリたちは力強く頷く。夕陽を背に、彼女たちは船へと向かう。仲間たちの笑顔と新たな希望が、そこに待っている――。