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第37話 5-7 【視点A】でもこれって、恋愛感情じゃなくて母性本能よね?

「ここって……」


目を覚ますと、私は見渡す限りの本棚の隙間に敷かれた、ふかふかの布団の中にいた。


「ラノ君の……千年魔書魔炉せんねんましょまろ……?」


確か昨日の夜はフォーボスを倒して、それで眠れなくて一階でお酒を飲んでたらラノ君が現れて、眠くなるまでおしゃべりすることになって……。眠くなってからたっぷり寝られるように、中にいる間は外の時間がほとんど経過しないラノ君の結界、千年魔書魔炉せんねんましょまろに入れてもらったんだっけ……?


「この布団……」


でも、布団を敷いて寝た記憶はない。多分寝落ちした私を、ラノ君が運んでくれたんだと思う。掛け布団をめくると、ルリとお揃いのパジャマが視界に入る。ちゃんとボタンも留まったままだし、身体の痛みも感じられない。


「…………残念」


恋愛経験はないけど、その先を求められることは何度もあった。キュアソルのリーダーとして、ルリやソラのためにと思って何度も耐えてきた。だから結界という密室で、二人きりになることの危険性もわかってはいた。……でも、ラノ君になら良いかな、と思っている自分の中の悪魔がいた。昨日フォーボスを倒したときの、あの手の感触や血飛沫を、忘れられるなら。


「……いやいや、残念はないでしょ」


でも、ラノ君はそんなことしないと思っている自分もいた。多分私は、ラノ君のそういう雰囲気に惹かれたんだと思う。私の周りには、いなかったタイプの男の子。


「……でも残念は、ない。うん」


自分に言い聞かせるように呟きながら布団から這い出ると、本棚と本棚の間から二段ベッドが見えた。


「ラノ君……まだ、寝てる?」


二段ベッドの下の段に敷かれた布団がこんもりと膨らんでいる。下の段で布団を被って寝るのがラノ君のスタイルらしく、じゃあ上の段で寝させてほしいと昨日の夜言ってみたけど、きっぱり断られた。


「……」


私はそっと近づき、布団をめくった。


「……!」


そこには、天使のような寝顔ですやすやと眠るラノ君がいた。いつもクールで澄ました顔をしているラノ君が、こんなにあどけない表情で眠っている。思わず、頭を撫でてしまう。


「おかあ、さん……」


「!」


寝言……? 私は慌てて、手を離す。


「おとう、さん……」


ラノ君の額に、汗がにじむ。


「置いてかないで……」


ラノ君の手が、何かを求めるように空を掴む。


「行っちゃ……やだぁ……」


その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。私は無意識に、ラノ君の手を握っていた。


「……」


ずっと一緒にいるよ。そう想いを込めて、強く握った。その想いが伝わったのか、ラノ君はすうすうと穏やかな寝息を立て始めた。ラノ君の顔にかかった髪を、そっとはらう。


「なんか、魔王になるなんて信じられないな……」


この強がりで寂しがり屋な魔王候補兼、私の恋人候補を、私はきっと放っておけない。守りたいとさえ思う。……でもこれって、どちらかというと恋人に対する恋愛感情じゃなくて……母性本能みたいなものよね? だって、恋愛感情ってもっとこう、胸が苦しくなって、甘酸っぱい感じでしょ?


「だって、この気持ちは……」


この気持ちは、私がルリやソラに感じているものと一緒のはず。家族愛っていうか、庇護欲っていうか、やっぱり、母性本能……?


「はあぁ……」


普通の恋愛がしたいなんて女神様に願ってみたものの、まだ私は……恋をすることに怖気付いたままだ。

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