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第61話 9-4 【光のギャル、タピ・ジ・ヤドルと闇のギャル、二葉クルミ】

「ごめんアヤメっち! ほんとゴメン!」


今は初夏、賢暦けんれき千二十年七月六日。女神が予言した……アヤメさんの命日、その前日の昼。魔鎧まがいの討伐を依頼してきた若い男性と別れてから、僕たちは魔鎧まがいが逃げ込んだという森の探索をしていた。


「あいつの姉貴は良い人なんだけど……。まさか今日、あいつしかいないなんて……」


どうやら最初タピさんに依頼をしてきたのは、さっきの男ではなく彼のお姉さんのほうだったようだ。


「いいのいいの。王都であんな感じの人にけっこう会ってるし。それに、元はと言えば、私が二人目の魔王を倒せなかったのが悪いんだし……」


「そんなこと、ない!」


タピさんが、歩いているアヤメさんの両肩を掴んで身体を回す。そして正面から、アヤメさんを見つめる。


「悪いのはあの、魔王城の大結界を張ってる二人目の魔王! あいつのせいで、故郷に帰れない人がたくさんいるんだから!」


第二次魔王城の下敷きになり壊滅した僕の母校、メフィストフェレス高等学園。魔王城の大結界が飲み込んだのはその学園だけではなく、周辺の居住区も奪還予定地のままとなっている。この大結界は半年経った今も破られることはなく、誰もその地に入ることすらできない状態が続いていた。


「それに大結界にヒビまで入れたんでしょ? 魔王軍が攻めてこないのは、そこに砦を作ってるからって聞いたし!」


前回、アヤメさんが結界にヒビを入れた場所は魔王城の南側。その区域には、最近になって魔族が砦を築いていることがわかった。つまり大結界のヒビは、あれから修復されていない可能性がある。


「そのおかげで、みんなが平和に暮らせてるんだよ!」


「……」


「アヤメっちはすごいって、私たちは知ってるから!」


「ありがとう、タピ」


ようやくアヤメさんの笑顔が見えたところで、みんなも頷く。


「……なんかタピって、たまにクルミちゃんみたいにかっこよく見えるときがあるよね」


「クルミちゃん? それって……アヤメっちと一緒に召喚された子?」


「うん」


二人目の魔王を倒すために召喚された勇者パーティーの一人で、魔王軍四天王との戦いで命を落とした魔法使い、クルミさん。話を聞く限り、生前はアヤメさんとかなり仲が良かったようだ。


「まー確かに、私も魔法使いだし? でもマジかー。二代目、召喚された魔法使い様、襲名しちゃう?」


「いや、召喚された一人目の魔法使いはユキ会長だから、タピは三代目ジ・ヤドルブラザーズね」


「いーじゃん! とりま流星とか降らしちゃう?!」


「ちょっと、流星魔法は私の専売特許なんだけど?」


ルリさんの呟きに、タピさんが杖を振り回して調子に乗る。ていうかタピさんもルリさんも、流星魔法が使えるのか。それってまぁまぁ、高度な魔法なんだけど。


「……彼ぴ氏も、流星魔法使えるの?」


「え? まぁ、はい」


森の中を歩きながら、ヴァレッタさんがこっそり話しかける。かく言う僕も、千年魔書魔炉せんねんましょまろで千年間狂ったように読み続けた魔導書から得た、魔法知識がある。流星魔法くらいなら、僕にも撃てる。


「今度教えてよ。タピ氏もルリ氏も感覚重視で、教わったけどよくわかんないし。昨日彼ぴ氏に教えてもらったヒールは、わかりやすかったから」


「そうですか。わかりました……」


どちらかというと感覚を重視するのは僧侶の魔法で、魔法使いの魔法は理論寄りだと思うんだけど……。タピさんとヴァレッタさんは役職が逆なほうが良い気がする。まぁでも、タピさんとルリさんとヴァレッタさんと僕の四人で一斉に撃つ流星魔法は見ものかもしれない。せっかくなら、今日の魔鎧討伐でやってみたい。


「ちょっと、ヴァレッち……?」


すると先を歩いていたタピさんが振り返り、僕とヴァレッタさんを交互に見る。


「アヤメっちの前で抜け駆け禁止!魔王城攻略のパーティーメンバーに合格できないよ? それから彼ぴっちも! さっきアヤメっちからカッコいい頂いちゃったし、私がアヤメっちのことっちゃうかもよ?」


タピさんがアヤメさんに飛びついて肩を組む。アヤメさんも、無言で頬を膨らませて僕を見る。


「え、タピはトゥーラのこと狙ってるんじゃなかったの?」


するとルリさんの呟きに、油断して水筒から水を飲んでいたトゥーラさんが思いっ切りせきこむ。


「だから、君たちの痴情のもつれに私を巻き込むな!」


そして矢印の向きが複雑怪奇になりつつあるなか、ヴァレッタさんが堂々と僕にくっついて、アヤメさんに告げる。


「じゃあ今度、こっそり二人っきりで教えてよ、彼ぴ氏?」


「おー……」


これには流石のアヤメさんも面食らったようで、慌てて僕の隣に瞬間移動して今朝と同じ言葉を繰り返す。


「ラノ君! 私もこれからずっとラノ君から、離れないから!」


「「「ひゅー!!!」」」


タピさん、トゥーラさん、ルリさんのタルトトリオの囃し立てる声が森に響く。僕とヴァレッタさんの間に入らず、ヴァレッタさんのいない反対側に回るのがアヤメさんらしいというか……。


「……まるで、魔鎧が落下してくる効果音ですね」


「え……?」


しかしアヤメさんの代わりに僕とヴァレッタさんの間に飛び降りてきたのは、木の葉の陰に隠れていた今回の討伐対象、一匹の唐傘魔鎧からかさまがいだった。

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