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第67話 10-2【視点R】嘘つき吸血鬼ザック

「それでサイカ、新しい身体はどうだ?」


朝ご飯を済ませ王都へ出掛ける準備をしていると、地下室へと続くらしい階段の奥の扉が閉まる寸前、その向こうから、サイカ・ワの同居人で嘘つき吸血鬼のザックの声が聞こえた。


「新しい、身体……?」


アヤとアリスは、ゴッデスマーライオンのマーちゃんと特訓中。アヤは朝ご飯の前にサイカ・ワとも特訓していたらしいけど、相変わらずそういうところはストイックだ。


「……」


この場にいるのは私だけ。あの吸血鬼は私たちが引っ越してきた初日から、怪しい動きしかしていなかった。嘘しかつかないし、私にアヤを倒させようとするし、それに酒癖も悪いらしい。悪事の証拠を押さえて問い詰めるなら、今しかない。私は音を立てないように慎重に階段を下り、扉の前で耳を澄ませた。


「朝試した感じですが、魔法も問題なく作動していました。ところで、この肋骨ミサイルと爪爆弾の作動法は?」


肋骨ミサイルと、爪爆弾……?


「そいつは魔法が封じられたときしか使えない、最終手段って言っただろ? それに一度使ったら次の身体を用意しとかないと、長くは持たない諸刃の剣だ」


まさかあの吸血鬼、口だけじゃなくて本当に、サイカ・ワの身体を使って卑劣で外道な実験まで……?


「ちょっと、二人とも!?」


私は思わず、扉を開けた。


「え…………?」


私の視線は、手前の二人ではなく部屋の奥へと吸い寄せられていた。そこには、いつもの緑色のパーカーを着せられたサイカ・ワが入った、巨大な水槽があった。


「…………」


緑色の液体で満たされたその水槽の中には、数え切れない数のサイカ・ワが、浮いていた。


「ルリさん……?」


「おっと、おいでなすったか」


その水槽の前で話をしていた、目の入っているサイカ・ワとザックが、こちらを見た。


「なに……これ……?」


「ザック……わざと鍵をかけませんでしたね」


「おいおい、うっかりだようっかり! わざとじゃないって」


サイカ・ワがため息をつき、水槽の前の装置らしきものをいじる。すると天井から真っ黒なカーテンが下りてきて、その不気味な水槽を隠した。


「すみません……お見苦しいものをお見せしました」


「今の……何なの……?」


「そちらの世界の言葉を借りるならば、僕のクローンです」


「クローン……?」


「簡単に言えば、生物の細胞を採取して培養し、同じ個体を作り出したものです。この身体が破壊された瞬間、僕の魂には先程のクローンのどれかに転移するよう、自動魔法がかけてあります」


「……」


淡々と説明を続けるサイカ・ワ。私が何も言えずにいると、ザックがまた、私たち以外の時間を止めた。


「こいつは心臓をなくしちまったからな、どれに魂が入っても同じなのよ」


「心臓を、なくした……?」


なぜか、アヤの最期が脳裏をよぎる。


「そういやーあの勇者も、抉り出した心臓を食われて死んだんだったか?」


「何でっ、それを……?!」


「あいつの血から、記憶を見せてもらったんだよ。おっと、ほんのちょっとしか吸ってないから安心しな」


「そういう、問題じゃ……」


まずい……またこいつのペースに……!


「言っただろ? サイカも心臓をなくしてるって。俺は、こいつの心臓を探してやってるだけなのよ。そしたらまぁ、ビンゴだったってわけ」


「え……?」


袴姿の吸血鬼が、心底楽しそうに笑う。


「千歳アヤメの中で今動いている心臓は、サイカ・ワ・ラノの失われた心臓だ。血の味が、完全に一致したからな」

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