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第6話

「レガロ。被害者生徒のこと、頼んだよ」

「仰せのままに。……シュガーシュガーはこれからどうなさいますか?」

「僕は、別ルートからこの事件について調べることにするよ。少し心当たりがあるんだよね」

「危険です。もしただの人間による犯行だった場合、あたしたちは手が出せません。そういう契約のはずです。……なにより、あたしがあなたをお守りできない」


 安寧を手に入れるためにこの日本で暮らすときに警察とある契約を交わした。そのことをレガロは懸念しているのだろう。

 僕は心配そうにしている彼女を安心させるために、彼女の頭を抱き寄せる。


「そうだね。犯人が本当にであれば僕たちは戦う手段を持たない。……だけど可能性が無いわけじゃない。本当に『吸血蝙蝠』だった時、これ以上の犠牲が出ないように、徹底して灰にしなければならないんだ。それが出来るのは、僕だけだからね」


 朱月の王にだけ許された特別な力、それは魔族を燃やし尽くすほどの強力な力だ。この力がないと、魔族を完全に殺すことは出来ない。


「僕のお願いを聞いてくれるかい? 愛しき我が

「……!」


 嗚呼、なんて僕はずるい生き物なのだろう。こんなずるい言い方をしてまで、レガロを強制的に縛って、こんな小さな事件を解決しようと思うだなんて。

 しかし、これも僕の今後の平穏な生活のため。しいては、レガロと生きるために必要なことなのだ。

 レガロは呆れたため息をはいて僕を見た。その目には、不安と強い意志が感じられた。


「……分かりました。……くれぐれも気をつけてくださいね、愛おしい方シュガーシュガー


 こうして僕たちは別れを名残惜しみ、互いに課した務めに動いた。



(ごめん、レガロ。嘘をついた僕を許して)


 きっと彼女は、これから僕が何をしようとしているのか気づいていたはずだ。


(頼んだよ。必ず僕を迎えに来て)


 だからその日の夜、僕は安心して誘拐された。

 僕の、思惑通りに。



 * * *



 ふっ、とまぶたが上がった時、まだ眠っているのかと錯覚したのは、今いる場所が暗闇に覆われているからだろうか。

 自分以外に聞こえる息づかいに、複数名だと推測する。


 ここで僕は、不謹慎ながら「計画通り」とほくそ笑んだ。


 今日がレガロと最後に会ったあの日からどれくらい経った頃なのか、外の様子からは把握が難しいけれど、少なくとも一日は経っていそうだと肌で感じ取る。


(いち、に、さん……僕を含めて三人が人質ってことね)


 段々と暗闇に視界が慣れてきた。まだ人物の特定までは難しいけれど、黒い影が二つ僕以外にあった。被害者生徒AとB(仮にAとBにしておく)は息を殺してこの闇の世界を怖がっていた。


(闇が怖いだなんて人生の大半を損しているよ、君たち)


 僕は闇の深い世界で育ったから、この世界は僕のテリトリーも等しいのだ。

 さて。ようやく夜目が効くようになったので僕はこの世界の探索を行うことにした。けれど、ふと「ガチッ」という金属音が僕の鼓膜の遠くを掠めた。



?」



 音の次に違和感を覚えたのは自分の腕。どうやら僕は手錠のようなもので拘束されているみたいだった。今まで痛みがなかったので気づかなかったが、手を左右にねじると手錠の金属部分に手首が当たって擦れて痛い。


(しかもこれ、大人用の拘束具じゃない……)


 ご丁寧にその拘束具は子供用の規格で、それも玩具ではなく本物同様に作られていた。その用意周到さに、感心さえしてしまう。


(あまりしたくないけど)


 できれば、騒ぎを起こさず穏便に全てを終わらせたかったが、こうなってしまっては致し方ない。無理やりにでもこの拘束を解いて、レガロに会わなければ。


 僕は手に力を入れて拘束具ごと破壊しようと振り切ろうとした瞬間、「ね、ねえ!」と、二人のうちのひとりが声を上げた。その声は、妙に聞き覚えがあった。


「やめなよ、手が怪我しちゃうよ! 佐藤くん!」

「……えっ? 井口さんっ?」

「お前佐藤なのかっ?」

「山田くんまでっ?」


 ここでやっと被害者生徒AとB——もとい、クラスメイトである二人を認識した僕は、何百年かぶりの動揺に混乱した。


「えーっと……どうして山田と井口さんがここに?」


 僕の記憶は、数時間前まで遡ることとなる。

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