闇より深い、闇に生きる者——。
それが僕の『異名』だ。
* * *
砂ぼこりが落ち着いていく。
たった数量の『
僕は昔の相棒である、大振りの鎌を携えて彼女の前に立つ。
「さあ、狩りを始めようか」
鎌を振りかざし、一気に場を詰める。しかしこの小さな体での力の解放は初めてのことで、うまくコントロールができない。
僕の鎌は内海山の右肩に触れ、彼女は躱しきれずその場に転倒した。その目は怯えに染っている。僕の口角が静かに上がった。
僕はいつだって狩る側だ。その目にはもう慣れた。
憐れむことはしない。
「逃げるなよ。手元が狂って、もっと傷つけてしまうだろう」
「あ、ああ! この、う、裏切り者! 四皇を裏切り人間側についた堕落王が‼」
随分と懐かしい響きに、思わず手が止まる。あの日の走馬灯が脳裏を過ぎった。
* * *
希少種を人間に売り、僕たちを裏切ったのは『
僕が自らの体を犠牲にし、研究所もろども消し炭にしたのだ。やっとの思いで終わらせたあの日の真実を、ルカが知らないのも無理はない。
僕たちが生きていることが知れたら、四皇は何としてでも僕たちを捕らえて殺すだろう。あの場所のあった
何故ならあの研究所こそが、四皇のための『
だけど、彼らを守ったつもりが、事実は時をかければこうも簡単にねじ曲がる。
——生まれながらにして死に行くこの子をお使いください、シュガーシュガー様。
不意に、
あの日……レガロと同じ目をしていたあの人は、すべてを理解して、ぼくに
遠い、遠い記憶だ。
「……ほんとうに……気が滅入るよ」
感傷に浸るのはらしくないと思いつつ、あの人の笑顔が浮かんで僕は思わず笑みをこぼす。
彼女を失うことは必然だった。そして彼女も、そうなることを分かっていた。
あの日も同じようにこの鎌を振りかざした。彼女は目元をきらきらと涙で輝かせて、最期は笑顔で亡くなった。
あの時の笑顔を、僕は一生忘れることはない。
鎌を握る手に力がこもる。
目の前で恐怖におののくルカの目を、ただ無心で見た。
たくさん見てきた『目』だなと思った。
四皇を裏切り、研究所を壊滅させ、中にいた人間も、同族たちも、同じ目をしていた。
彼らを四皇から救うために必要な行為だった。だけどこの目を見たところで、僕が心動くことは無い。
「…………残念だよ、鏡蝙蝠のルカ。大人しく故郷で暮らしていれば、死なずに済んだだろうに」
「う、うるさい! うるさいうるさいうるさい‼ 故郷はお前が奪ったんだ! すべてを燃やし尽くして
「あそこは本当の故郷じゃない。悪魔の地だ。お前の見ていた
「あ、あああ、アアアあぁああああ!!!」
ルカの絶叫が月夜に響いた。憐れだと思えど、情けは必要ない。僕は鎌を振りかざし、無慈悲にも、目の前で泣き叫ぶ少女の首を刎ねた。