「やあ。遅かったね
「遅かったですね斎条さん」
「ご無事のようでなによりでしたね、お二人共。この度は事件解決にご助力いただき感謝します」
知り合いであるはずの彼の言葉は、どこか他人行儀のように思えてならない。
「……なんか言葉に棘を感じる。なんで怒ってるの、この人?」
「さあ?」
「——ッこの! 現場の惨劇の後始末を! 誰がすると思ってんだ! このバカ部下が‼」
「あいてっ! 暴力だ! ハラスメントで訴えるぞアホ上司‼」
「あーあ」
ルカとの決着がつき、事件が終息したのは夜中の三時だった。宵が更けきって、次に朝月夜が顔を見せている。眠たい体に鞭打って、僕たちは現場に残っていた。それはレガロの手配した救急車や警察を待つためだ。
幸い、内海山先生もほかの人質の子たちも生きている。レガロだけは大怪我を負ってしまったけれど、死者を出さなかっただけでも良かったなと思う。
井口さんはあれから気を失うように眠ってしまった。無理もないかなと苦笑する先で、レガロが申し訳なさそうにしていた。
うなだれた犬に似ていると思ったけれど、あえて言うことはしないでおこう。
そうして先行して到着したのは、意外にも斎条率いる特殊犯罪怪奇課の面々だった。
彼らは早速、少女たちと内海山先生を警察病院へ運ぶため、外で待っていた救急車に乗せていく。その光景を見て、僕は深く息を吐いた。
僕は壊す力は持っていても癒す力はからっきしだった。待っている間すごく落ち着かなかった心も、これでやっと息がつけた心地だった。
そうして今に至る。
犬猿の仲なのか、レガロと斎条が睨み合いを続けている。傍から見ればバチバチと火花が散っているのだろうけれど、僕から見れば可愛い子らがじゃれ合っているようにしか見えなかった。
斎条、本名はオルガレオ。彼もまたマカロンに囚われていた者の一人で、夢見の力を持つ異形の子だった。その特異な力は記憶操作も可能としているため、こうした特殊犯罪においての後始末を請け負っている。
僕たちがこうして異国の地で暮らすことができるのも、先にこの国に辿り着いていた彼の助力あってこそだった。
「オルガレオ、レガロを叱るのはその辺にしておいてよ」
「しかしシュガーシュガー! ……分かりました。今日のところはあなたに免じて、この辺にしておきましょう。だが覚悟しておけよレガロ。帰ったら始末書だからな!」
「べー! やなこった!」
「レガロ‼」
「レガロ……もっと面倒なことになるから黙ってて」
僕の言葉に、はーい、とレガロが微笑む。
はあ。まったくこの二人はお互いが引かない性格というのが玉に
「それじゃあ後のことはお願いね、オルガレオ」
「はい。人質の皆さんの記憶操作ですね。お任せ下さい。……というかシュガーシュガー、私のことを本名であまり呼ばないでください……。一応隠しているんですけど……」
「え、あ、ごめん。会えて嬉しくなっちゃってつい」
「それは……私もそう言っていただけて嬉しいのですが……」
「デレないでくださいよ斎条さん。キモイ」
「お前それ以上喋るな! てかもうお前も病院行けよ!」
手配はしてあるからな! と悪態を吐いてからオルガレオ(もとい斎条さん)は現場の検証に向かった。
優しいのかなんなのか。僕とレガロは顔を見合わせて、彼の気遣いに笑ったのだった。