星が瞬き、月がぼんやりと照らす夜はとても静かだ。薄暗い室内の中で
メッセージアプリが起動しているタッチパネルの画面には、真司とみうの会話が表示されている。
『あー、ほんとムカつく!』
『逃げられちゃったもんね』
『つーか、イーグルもイーグルだろ。美味しい所を持っていこうとしやがってよー』
「彼は仮面の男を追ってきたんだから仕方ない」
そうやって幽璃がメッセージを送れば、ぶーぶーと真司は文句を垂れ始めた。長くなりそうな雰囲気を察しつつ、流れる文字列を眺めていればぬっと腕の隙間から琥珀が入ってくる。
黒い毛がふわりと肌を撫で、風呂上りの幽璃の長い髪を嗅いで琥珀は丸まると寝そべった。彼のふわふわの毛を撫でながらメッセージを打ち込んでいく。
「今日は疲れたのう」
「そうね」
「あの男が来なければ早かったろうに」
「仮面の男のことね」
そうさそうさと琥珀は愚痴る。仮面の男がいなければ、早くモノノケを倒すことができただろうと。
確かにあの男がいなければもう少しは早かったかもしれないと幽璃も思う。
「あの男は嫌だね」
「敵だからな」
「おぬしは敵か味方としか考えんのう」
その二つしかないだろうと思わなくもないのだが、この生き物はそうではないらしい。
相手をしたわけでもないだろうと幽璃が聞けば、「感情の渦が酷い」という答えが返ってきた。
「われはお前たちのいうモノノケ、人間の感情を喰らうもの。今は喰らえぬが、人間の負の感情を感じることができる。憎しみなのか、怒りなのか、悲しみなのか。ぐちゃぐちゃに混ざった面倒な人間だ」
琥珀は「あれは面倒な感情をもっておる」と欠伸をした。どうやら、あの仮面の男は何か闇を抱えているようだ。
琥珀曰く、いろんな感情が混ざり合い酷い状態なのだという。
「あそこまでなるのはよほど何かあったのだろうさ」
「そう……」
「あぁ、同情は止めておけ。余計に感情を増幅させるだけさね」
「わかったわ」
訳ありというのだけは頭の片隅にでも残しておこうと、幽璃は送られてくるメッセージに目を向ける。相変わらず真司の愚痴とそれをなだめるみうの言葉で埋まっていた。
『とにかくだ、あの仮面の男には気を付けろよ!』
「わかっている」
『もうこの辺にしときましょう。朝早いし』
みうのメッセージで時間に気づく、そろそろ寝ないと明日に響くだろう。
幽璃が睡眠は大事だと同意れば、真司はまだ言い足りないようではあったが仕方ないといったふうにおやすみと返事が返ってきた。
おやすみと返事をして幽璃は枕元に携帯端末を置いて、琥珀の毛を撫でながらぼんやりと今日のことを思い出す。
仮面の男は
また彼と戦うことがあれば、そっと幽璃は瞼を閉じた。倒せるかは分からないけれど、襲ってくるのであればそれを受けるまでだ。
自分はまだ死ぬわけにはいかない。
「彼とまた会うまでは死ねない」
ぽつりと呟いて、幽璃はゆっくりと意識を手放した。