ビルが立ち並ぶ交通量が多い道路に騒がしい人混み、信号待ちをしている学生が他愛ない会話をする中を
長い藍髪がさらりと揺れて頬を撫でる。黒いパーカーのポケットに手を突っ込み、白いハーフパンツが裾からちらりと見えた。
今日は休日、いくら学園生であっても休みぐらいは用意されている。モノノケが出現した場合は返上となるわけだがそれは仕方ないことだ。
幽璃は特に用があるわけではなかったが、室内でじっとしているのはなんだか落ち着かなくて外に出ていた。
何でもないように暮らしている人々を見ると、人間の負の感情によって生まれ、それを糧に成長するモノノケを狩る異能者は影のように感じてしまう。
晴れ晴れとした天気に空を見上げれば雲一つなく、もう夏も近いのかもしれないなと幽璃は目を細める。
ぼんやりとしていればポケットに突っ込んでいた携帯端末が鳴って、画面を見遣れば真司からのメッセージだった。
『暇なら遊ばねぇ?』
暇と言えば暇だったので幽璃はその誘いを受けることにした。
*
待ち合わせ場所のゲームセンターへと向かえば、真司が携帯端末を弄りながら立っていた。
パンクテイストの服に綺麗にセットされた金髪が今日も目立っている。
「待たせたかしら?」
「全然。数分前に来たから丁度いいくらいだぜ」
「ゲーセンで遊ぶか?」
「もちろん! シューティングゲームで勝負だ。この前のリベンジさせろよ」
やる気に満ちている真司の様子に幽璃は苦笑しながら店内へと入っていく。UFOキャッチャーやアーケードゲームのコーナーでは若者が集まっている。
音楽が耳に響く騒がしい店内をずいずいと歩いていれば、目的のシューティングゲームが設置されていた。見たこともないシリーズのもので、どうやら稼働したばかりのようだ。
小銭を入れてハンドガン型のコントローラーを真司は握った。二人プレイができるのでその隣に幽璃は立ち、同じようにコントローラーを手にする。
ゾンビを倒していくというよくあるタイプのもので、ゲームがスタートするとゾンビが現れて撃ち抜いていくというものだ。
ゲームは嫌いではなく、こういうのをたまにやるのも悪くはなかった。稼働したての最新作ということもあり、映像は綺麗でアクション性も高い。なかなかに面白いなと幽璃はコントローラーを操作しながら楽しむ。
ゲームクリアと表示されて撃退数が発表された結果、幽璃の圧勝で真司は悔しそうに台を叩いている。叩くのはよくない、そう注意すれば「また負けたんだぜ?」と返された。
「それは台パンと関係ない」
「そうだけどよー。オレ、結構上手くなったと思うんだけどなぁ」
「真司は近接タイプだからだろう。強化されたメリケンサックで殴るほうが私よりも強い」
「まー、殴る方がやりやすいけど」
真司は「狙撃ってなんかできたらいいじゃん」と言う。それを聞いて幽璃はなんだそれと思わず吹き出せば、彼は恥ずかしげに頬を掻いた。
「なんだよー、かっこいいじゃねぇかー」
「私はそんなこと気にしていなかったよ」
「なー、教えてくれね? 扱えるようになりたいんだよなぁ」
「私よりもみうのほうが上手い。彼女は確かに率先して戦うことはないけど、狙撃の腕は確かだ」
真司は「そうか?」と幽璃を見る。みうはサポートがメインであるが、狙撃の腕前は確かだ。氷や炎を操る
この前のモノノケ:ツチグモの時も彼女はショットガンを扱い戦った。
幽璃が「敵も一人戦闘不能にしたのだろう」と言えば、真司は「そうだけどよぉ」と口をもごもごさせる。不満に思うことはないと思うのだが真司の考えがよく読めない。
「おれは幽璃に教えてほしいんだけどなー」
「私よりもみうのほうが上手い。みうに頼め」
きっぱりと断れば真司はがっくりと肩を落としたので、何かあったかと問うがなんでもないと返されてしまった。
そんな会話をしながらゲームセンター内の自販機が置いてあるスペースへ向かう。次は何処行くかと真司が提案しているのを聞きながら幽璃は自販機で買ったアイスをほおばった。
「つっても、学園都市からは出れねぇしなぁ」
「適当に街をふらつくのも悪くない」
「それで平気なの、幽璃ぐらいじゃね? つーか、思ってたんだけどよ。暇つぶしならいろいろあるのに、なんで街をふらつくんだ?」
真司の問いに幽璃は視線を逸らしてしまう。何故、ふらついているのか。
それは探しているのだ、無謀だと分かっていながら希望を捨てずに。幽璃は散歩も悪くないとだけ答えた。
「散歩って暇じゃね?」
「そんなことはない。外の空気を吸えるし、適度な運動にもなる。気分転換には丁度いいわ」
「そういうもんか?」
「そういうものよ」
ランニングのようなものだと誤魔化してみると、真司はうーんと首を傾げながらも納得はしてくれた。
散歩が気分転換になるというのは理解できるようで、「外の空気吸いたくなるのは分かる」と返される。
「息抜きって大事だもんな。じゃあもっと息抜きしようぜ! そうだ、百貨店にでも行くか?」
「百貨店? 別に構わない」
じゃあそうするかと真司が立ち上がって二人の携帯端末が同時に鳴った。
真司は途端に嫌そうな表情をする、同時に連絡がくるというのは一つしかないので幽璃は電話に出た。
「こちら、スノードロップ」
『休日中に申し訳ないが任務だ』
「場所は」
「センター街石津屋百貨店ビルだ」
ビルと聞いてこの近くであることに気づくと、店内放送が流れ始めた。避難誘導の指示に客たちが慌てて走っていくのが視界に入る。
「すぐ近くに私と紅蓮がいます。そのまま直行できますが?」
『武器は』
「拳銃と短刀が」
『……無理はするな。すぐにウミネコを派遣し、武器を渡す』
「了解」
電話を切って真司を見遣れば、携帯端末を仕舞うところだった。
内容は把握しているのか、ポケットからメリケンサックを取り出し指にはめていく。
「こっから走ればすぐだな」
「あぁ、急ごう」
「まったく、せっかく幽璃と遊んでたのになぁ」
ぶつくさと文句を言いながらも駆けだしていく真司を幽璃は地面を凍らせて後を追うように滑った。