蔓の鞭が壁に当たって音を立て崩れる。
液体を吐き出しながら暴れる食虫植物のモノノケに複数の弾丸が撃ち込まれていく。
血のような緑の液体を流しているがモノノケは呻くだけだ。
みうが撃った弾丸が命中するも大打撃とまではいかなかった。
的が大きく当てやすいがそれだけ耐久力は高くなっているようだ。
食虫植物のモノノケは遠くから放たれる攻撃に気づき、周囲を探すように根を張っていく。
それに気づいた幽璃がみうに指示を出す。
「根に気を付けて!」
『了解!』
みうはショットガンを構えながら、伸びる根から逃げるように走る。
瓦礫を壁にしながら相手に気づかれないように場所を移す。
幽璃が空中に氷の刃を生み出し放つも、モノノケは蔓の鞭で跳ね落とした。
けれど、全てを落としきれなかったのか数発は受けている。
突き刺さる氷に指を鳴らせば、ばんっと爆破した。
じゅるじゅると液体を流しながら、悶え苦しむモノノケだが動きがさらに激しいものへと変わる。
太い茎からさらに蔓が伸び増えて液体を滴らせていた。
真司も至近距離での攻撃を避けるため、炎の弾丸を飛ばずも葉は燃えるが本体に燃え移らない。
どくどくなる鼓動が早まり、身体の中心がひと際輝く。
ぴきりとひびが入ってぱきぱきと音を鳴らしながら剥がれていった。
幽璃はその中心部へと氷の刃を放つも全弾命中とはいかず、何発かしか当たっていない。
このままでは進化を遂げてしまうのは真司も気づいているようで、同じように中心部を狙っていた。
複数の蔓の鞭を避けているうちに全てが剥がれ落ちぱっと光り、ぬるりとそれは出る。
気持ち悪いぐらいに明るい赤色の花に鋭い牙が生えたそれは、がんがんがんと歯を鳴らし咆哮した。
進化を遂げた食虫植物のモノノケの動きが活発になり、量を増す蔓の鞭が二人に目掛け飛んでくる。
床を転がるように幽璃が回避すれば咆哮が響き、鞭がしなる。
「スノードロップ!」
真司が駆け飛ぶと腕を炎で包み込んで前に立ち、その腕で蔓の鞭を受け止めた。
じゅぅと炎を消していくそれを巻き込むようにさらに炎を燃え上がらせる。
幽璃は素早く態勢を立て直して飛び退き、真司が受け止めていた蔓の鞭を弾き飛ばすように殴る。
「紅蓮、すまない!」
「いいてことよ! 仲間を守れなきゃ意味がねぇからな!」
真司は受けた腕を回しながらまだまだいけると笑みを見せる。
腕の傷が視界に入り、やってしまったと幽璃は目を細めれば、イヤリング型の通信機から声がした。
『こちら、イーグル。目標を捕捉している。これより指示を出す、従ってくれ』
楓の声に幽璃と真司が見合って頷く。
食虫植物のモノノケの蔓の鞭を避けながら指示に耳を傾けた。
『紅蓮は鞭の囮になれ、スノードロップはモノノケの身体に氷を撃ち込むんだ。撃ち込んだら紅蓮はその氷を溶かせ、ウミネコは待機だ』
楓の指示に二人は別れるように飛んだ。
暴れる蔓の鞭に炎の弾丸を放ち、真司は攻撃を誘うように挑発する。
蔓の鞭が真司のほうへと向かった瞬間に、幽璃は無数の氷の刃をモノノケの身体へと撃ち込む。
『今だ、紅蓮』
紅蓮は炎を燃え上がらせて氷の刃を狙う。
その炎に溶けだした氷が水となり、モノノケの全身を濡らした。
『紅蓮、そこまでだ。スノードロップとともに避けろ』
その指示に幽璃が何かに気づき、後ろへ飛ぶように真司へ叫ぶ。
彼が後ろに飛んだのと同時に遠くでぱっと何かが光った。
轟音と共に稲妻が宙を駆けて真っ直ぐにモノノケへと向かい、狙い撃つ。
貫かれる赤い花、全身を駆け巡る電流で周囲が明るくなった。
声にならない悲鳴を上げてモノノケは藻掻き、はらはらと花が散った。
黒い塵となってモノノケが消えたのを確認して幽璃はふっと息を吐く。
周囲を見渡してみるが他にモノノケはいないようだ。
「間に合ったな」
「何が間に合った、だ! 危うく巻き込まれるとこだったんぞ、オレら!」
瓦礫の奥から楓が現れるとその隣には真理奈がいて笑みを見せていた。
真司は文句を言いながら、彼のほうを向く。
「仕方ないだろう。早く処理するにはこうするしかない。これでだめだったらさらに耐久戦だったぞ」
天津光ノ民の到着まであと数分といったところか、彼の口ぶりならばそれぐらいだろうと幽璃は予測する。
あと数分を耐え忍ぶか、一発に賭けるかと言えば、やれるほうをやるといったところだ。
彼の判断は悪くはないだろうと幽璃は思った。
それでも真司は文句が言い足りないのか、突っかかっている。
それを止めようとみうが駆け寄っていた。そんな様子にあっと幽璃は思い出し、真司に声をかける。
「紅蓮」
「なんだよ、スノードロップ。おれは今……」
「怪我は大丈夫か?」
幽璃は顔を顰めて「申し訳ない」と口に出せば、真司は「気にするなって」と笑う。これぐらいどうってことないと。
「こんな怪我、しょっちゅうだろ? 平気平気」
「しかし……」
「大事な存在を守れなきゃ意味がねぇからな」
だから気にすんなと真司は何でもないといったふうに怪我をした腕を叩いてみせる。
幽璃は暫くその腕を見ていたが、真司に大丈夫だからと押されて分かったと頷いた。
*
「今の告白だと思うのだが、スノードロップは気づいていないのか」
「彼女は鈍感なんですよ……なので、気づいてません……」
「あらまぁ」
みうの返事に二人は驚いたように幽璃を見遣る。
真司の言葉を気にしている様子もない姿に本当に気づいていないようで、あれは大変だろうなと楓は少しばかり同情した。