【2】デットバイスライム
とても、とても困った事になりました。
大主人を討伐してから二週間足らずで失敗の連続です。
失敗に失敗を重ね、今となっては駆け出しさんたちに声をかけようとすると足が自然と震え、その振動で声がぶるぶるしてしまうほどです。
思えば、一番最初が一番かっこよく助けることが出来たような気がします。
モンスターパレードを蹴散らし、「大丈夫ですか?」とまるで師匠のようでした。
……いえ、師匠のようだったから、怖がらせてしまったのかも知れませんが、それでも、ここ数日の失敗に比べればかなり上出来だったのです。
ある時はキラーラビットに追われていた駆け出しさんたちを助けようと、リヴァイアサンの水鉄砲で薙ぎ払ったら、冒険者さんたちの足首まで切り飛ばしてしまいました。
危険すぎます! リヴァイアサン・スタイルは封印です!
あんなもの、水を発射できるのは便利でかっこいいと思いましたが、あまりにも加減が難しいだけの凶器です!
窒息させ、気絶させて治療できる、スライム・スタイルを見習ってほしいです!
次に、ゴーレムに襲われている方々を見つけたので、ベアー・スタイルでゴーレムを粉砕して見せました。
ゴーレムの破片が駆け出しさんたちに打つからないよう、彼らの後ろから待ち伏せる形で登場する念の入れようです。
あとは駆け出しさんたちが私の横を通りぬけ、私が壁となってゴーレムを破壊すれば一件落着。
かっこよく「大丈夫でしたか?」を言えばいいだけだったのです。
……なのに、運悪く駆け出しさんの戦闘をいく僧侶さんが私に驚き、悲鳴をあげ、足が止まり、後ろの魔法使いさんがそれにぶつかって転び、そこに戦士職さん、盗賊職さんが巻き込まれてゴーレムに踏み潰され、ミンチになってしまいました。
唖然としました。
お互いに運が無さ過ぎると肩を落としました。
ゴーレムを粉砕して、スライム・スタイルで包み込み、地上へと運びましたがあれは絶対に後遺症が残るレベルです。
無事回復して戻って来てくれることを願っていたのですが、それ以降、彼らの姿を見かけることはありません。
きっとどこかの教会でリハビリに励んでいることでしょう。
ええ、どうかそうであると祈ります。神様は私にすら力を与えてくださったのですから、運悪く躓いてしまった彼らの冒険にも、再び立ち上がる機会を与えてくださると信じています!
……さて、そんなわけで、今日も私は一人でした。
深層で日課のモンスター狩りで修練を積み、いつ師匠が訪れてくれてもいいようにと準備だけはしておきます。
師匠がいうには一日サボれば三日分衰えるというので毎日の鍛錬は欠かさず行なっています。
この鍛錬のせいで駆け出し冒険者さんたちの元へ参上するのがギリギリになっていたりするのですが、私がお友達を作るよりも先に命の恩人であり、冒険者としてのお師匠様である師匠に恩返しする方が優先されると思うので仕方ありません!
それに、師匠ぐらいに強くなることが出来れば一瞬で助けを求めている新人さんたちのところに駆けつけることが出来る気がするので私は頑張るのです! 張り切るのです!
――と、コカトリスを倒していたら後ろからべたり、べちゃり、と聞き慣れた音が聞こえました。
スライムです。最近、あまりにもよく遭遇するので振り返ることなく分かるようになりました。
ダンジョンのモンスター生成にはある種の法則性があると思うのですが、そういう周期なのでしょうか?
早く浅い階層に戻り、まだ見ぬ駆け出しさんたちの元へ駆けつけたい私は振り向きざまにリヴァイアサン・スタイルで水鉄砲を発射し、スライムの核を一撃で撃ち抜きました。
ええ、はい。やっぱり真っ黒な色をしたデッドバイスライムです。
触れれば即死、匂いを嗅いだだけでも行動不能になる要注意モンスターなので初手で倒すことができてホッとします。
というのも、出会うスライムというのがほとんどこのデッドバイスライムなのです。
ほぼ毎日。
私が深層で強いモンスターを倒したタイミングで必ず現れます。
何度かドラゴンの炎に飲み込まれたり、落石に巻き込まれて潰れたりと私が相手をするまでもなく消滅していたりもするのですが、こうも毎日毎日現れると神様の悪戯を勘繰ってしまいます。
もしくはこのダンジョンの意思とでもいうものが働いているかのように――。
「いえいえ、そんなそんな。あり得ません」
自分で妄想しておきながら即座に否定いたします。
だってダンジョンに意思があるわけがないですし、神様だってそんな悪戯をするはずがありません。
きっとこれは何かの偶然。たまたま私がデッドバイスライムの発生ポイントで鍛錬を行なっているというだけの話なのでしょう。
そうに決まっています。
「よしっ」
そうと分かればこんなところに長居は不要です。
第一層に戻って駆け出し冒険者さんたちを待ちましょう。
そうして私は第一層へと戻り、今日も今日とて張り切りすぎてしまい、「化け物ー!?」と駆け出しさんたちを怖がらせてしまうのでした。
とほほ……。