【間話】
私たちは双子のデッドバイドラゴンです。
生まれながらにしての強者。生まれながらにしての最強種です。
私たちは一つの卵の中で互いを認識し、互いを最強の片割れだと認識しながら育ちました。
そんな私たちに唯一、土をつけたのは私たちが生まれ育ったダンジョンの大主人、スカルデーモン様でした。
「貴様らは最強であるが故に敗北を知らぬ」
そう言って一撃の元に私たちに死を与え、デッドバイドラゴンが転生するドラゴンであることを教えてくださいました。
デッドバイドラゴンは死を経て強くなります。
記憶と共に力も引き継がれるのです。
初めての敗北。初めての死。
いつも私たちは一緒でした。
生まれる時も、死するときも。
たとえ私たちのどちらかが欠けてしまったとしても、すぐに自害し、片割れと共に転生します。
それが私たち双子の絆であり、誓いなのです。
共に強者であり続けること。
共に強者として生き続けること。
死を司る存在であるスカル・デーモン様は生きながらに死んでいるようなものですから、実質的に私たち双子が生物の頂点。最強の存在であるはずなのです!
そうやって私たちは研鑽を積み、スカル・デーモン様の僕として数多くの冒険者を屠り続けました。
スカル・デーモン様がおっしゃるには、このダンジョンの最下層は人間たちにとっての暗黒領域であり、前人未到であることが、このダンジョンに与えられた役割なのだそうです。
小難しいことは私も片割れにも分かりませんでした。
常に思考を共有している片割れにもわかっていないことがよーく分かりました。
なので私たちは冒険者たちを殺し続けることにしました。
姿を見たものは帰さない。
踏み入ったものは追いかけでも殺す!
時にはモンスター・パレードを引き起こしてダンジョン内を掃除し、冒険者どもにお灸を添えてやることだってあります。
冒険者は強欲な生き物です。
人間がそうなのだとスカル・デーモン様はおっしゃいますが、その中でも冒険者という職業に就く人間はより強欲なのだと外の世界に出た時に知りました。
ダンジョンの外では魔素の供給が絶たれ、そう長くは行動できませんでしたが、それでも、人間という生物の生態系、社会構造は賢い私たちであれば一目見ればわかります。
奴らは一度調子に乗るとどこまでも助長する生き物なのです。
なので私たちのような存在が「身の程を」知らしめる必要があるのでしょう!
そう言ったらスカル・デーモン様は愉快そうに笑ってくださいました。
「ならば最強であり続けろ。いつか、貴様らを屠る人間が現れた時、必ずその人間に復讐し、地上の支配者であれど地下では我々には敵わぬことを教えてやれ!」と。
それからはより一層張り切って冒険者を殺し続けました。
時々ダンジョンから出て行って近隣の村や街を襲ってやりました。
当然、冒険者や騎士と呼ばれる訓練を受けた人間の反撃にも遭いましたが、私たちはデッドバイドラゴンです。
死をもたらすドラゴンであり、私たちに死を齎すことのできる存在は私たちの大主人様であられるスカル・デーモン様だけなのです。
なので、そのスカル・デーモン様が一人の人間に許しを乞い、討伐されてしまった時には言葉を失いました。
スカル・デーモン様は死を司る悪魔様です。
死と生は表裏一体であり、状態の変化でしかないと豪語するお方です。
そんなお方が「小型な刀一本」の人間の娘に泣いて許しを乞う様はちょっと幻滅でした。
いつもあんなに偉そうにどっしり構えていたのに、一皮抜けばモンスターなんて分からないものだなぁと死の淵で片割れと思い合ったのを覚えています。
……ええ、まぁ、私たちも早々にやられてしまって、転生したのはそれから半年後なのですけども。
そうして卵の中で機会を伺い、相手が気弱な性格であることを把握した私たちは幼子の姿で接近して一気に叩くことを決めました。
結果は、……はい。まぁ、言うまでもなく負けましたよね。
あの禍々しい妖気を放つ小刀を使われない限りは勝機があると考えていたのですが、私たちが卵になっている間にいったい何が起きたのでしょう?
半年の間に小娘がモンスターになっていました。
いえ、人間のままで小娘がモンスター化していたわけではないのですが、明らかにあれはモンスターです。化け物です。モンスター以上のモンスターです。
意味がわかりませんが、片割れも同じことを考えていたようで同意見です。
人間が到達できる次元だとは思えません。
ゴーレムになったかと思えばドラゴンになって、最後はスカル・デーモン様なのです! ありえなくないですか? どうなってやがるんです???
――とまぁ、文句を言ったところで私たちはもうすでに卵の中なのです。
咄嗟に二人して卵に形態を変化させ、中に閉じこもっているのです。
体は消失し、新たに生み出した小さな幼体になってしまいましたが、これには利点があります。
なんと、蓄えた魔素をそのまま確保し続けることができるのです!
今はまだ、体が出来上がるのを待つばかりですが、今度こそ、今度こそ、あの小娘の裏をかき、不意をつき、未だ復活してこないスカル・デーモン様の供物として捧げて「あー、なー? これ、目玉焼きにしたりできないか?」
……はぇ?
突然暗闇の中に能天気な声が響き渡りました。
こんこん、と殻を叩くような音も聞こえてきます。
「わ、私は生でも平気、ですけど……」
「ご要望とあらば、私がお料理いたしましょうか?」
「お、いーねぇっ! さすがは一人メイド長!」
「やめ、て……! 卵、私が預かる……!」
「うえぇー……? だって腹減っただろ? ――なら、食っちまおうぜ?」
ガンゴン、と世界をかち割るような音が響きます。
いえ、私たちの入っている卵をかち割ろうとする野蛮で愚かな行いの音です。
「やめて、くださいっ……! かわいそう、です……!」
「あれ? ヘタルは生派じゃなかったっけ?」
「そうです。ご主人様は生で流し込まれるのがお好きです」
「だ、黙って……!」
「ピギャ」
……………どうやらスライムが死んだようです。
そして、私たちは身動きひとつ、……いえ、動かすべき手足もまだ出来上がっていない私たちは、暗闇の中、思うのです。
次は、私たちなんだろうなぁー……、と。