小学生二人組を伴って階段を上がって行く。
「階段の途中で風景が変わるのが不思議よねえ」
「魔法だからね、峰屋さん」
「タカシ先生っ、最初の装備は何がいいですか?」
「槍か片手剣と盾だな」
「「やり~?」」
小学生は不満げだが槍は扱いやすくて強い武器だ。
泥舟だって使っている。
三階の草原をみんなで横切っていく。
空が赤くなって、みんな帰り支度だな。
なんとなく切ない気分になる。
「土日に爺さん冒険者が子供向けの剣術講座をやってるよ、俺も爺さんの弟子だよ」
「え、幾らぐらいですか?」
「無料だったよ」
「無料!」
「行ってみるかコウちゃん」
「そうだねっ」
『子供チューバーの配信は可愛くて良いんだけど、やられたときに辛いんだよな』
『わかる~~、思わず助けに行ったりしちゃう』
『基本装備とか、最低限の武器の取り扱いとかを覚えてから冒険してほしい』
『爺さん冒険者? ああ、厳岩師匠かあ。俺も弟子』
うん、手首にコメントが流れてくるのは変な感じだったけど、慣れるといいな。
三階の上り階段まで到着した。
ここを登れば子供達の今日の冒険は終わりだな。
階段を上りきると小学生二人はみるからにほっとしている。
二階はもうほとんど地上だしね。
さらに近くの階段を上がると迷宮ロビーだ。
「タカシさん、どうもありがとうございましたっ」
「講習受けてから再挑戦しますっ」
「ん、気を付けてな。一緒に換金しに行くか」
「「はいっ!!」」
俺たちは換金カウンターに並んだ。
今日はあまり混んでなかったので、すぐ順番が来た。
担当は眠そうな女悪魔さんだった。
「あ、タカシさんこんちゃー、換金ですね、ここに換金したい品物を出して下さい」
「先にやりなよ」
「はい、ちょっとですけど」
「これです」
小学生二人はスライムと角兎の物らしい魔石をお皿に入れた。
「千三百五十円です。まいどあり~」
「わっ、やったあっ」
「帰りマック寄って帰ろうぜっ」
次に、泥舟と峰屋みのりが狩った魔石を置いた。
ドロップアイテムの角兎の角も一緒に乗せた。
「二千四百五十円です、まいどあり~」
現金がお皿にのって出て来た。
「えとえと、どうするもの?」
「パーティで山分けですよ、峰屋さん」
「良いの? タカシ君が多く取るとか無いの?」
「無いよ、不公平を作ると喧嘩の元だから」
「僕は陣笠を貰ったから良いかな」
「装備品とも相殺するんだよ」
「ちょっと面倒臭いわね」
わりと報酬の分割で揉めて解散するパーティは多いらしい。
よくロビーで殴り合いの喧嘩をしているのを見る事がある。
「本来は五等分して、パーティの積立金にして、必要経費を払ったりするね」
「そうしようっ、タカシくんパーティのお金も必要よっ」
「よせやい、まだ良いだろ」
「だめよ、最初からきちんとしとかないとっ」
うむむ、峰屋みのりは口うるさいな。
俺はずっとソロだったからそういうのに慣れてないんだ。
学校の部活もやってなかったしな。
「泥舟、管理頼めるか?」
「うん、タカシはそういうの苦手だもんね、まかせておいてっ」
泥舟はにこやかに答えた。
出来る幼なじみを持つと助かるな。
「ねえねえ、タカシくん、わたしデモンズ寺院の中を見てみたい」
「え、まだ転職とかはできないぞ?」
「将来
そう言って峰屋みのりは青い羽根を触ってくふふと笑った。
そいつはダストアイテムだと思うんだけどな。
この迷宮には何に使うか解らない物がドロップする事がある。
なんか綺麗な青い珠とか、四角い黒いキューブとか。
その手のガラクタはダストアイテムと言われて、正体が解らない限り、買い取りカウンターでも買い取ってくれないのだ。
「僕らも行っていいですかっ」
「デモンズ神殿行きたいです」
『フラグにしか聞こえない』
『縁起が悪いぞコウちゃん』
まあ、そう言ってやるなリスナーよ。
小学生は自分が死んで神殿に運ばれるとか考え無いのだ。
ロビーの東の方にデモンズ神殿がある。
重々しい厨二っぽいドアを通ると、真っ黒な石で出来た礼拝堂があって、奧に邪悪な感じの大悪魔の像が飾ってあった。
今日の担当神父さんは山羊頭さんだった。
山羊の頭で、額に赤い目があって我々をぎょろりと睨んだ。
小学生と峰屋みのりは、びくりと身をすくませた。
「いらっしゃい、蘇生かい?」
姿はおっかないが、山羊頭さんは意外と柔らかくて優しい声なのだ。
「いや、転職をどうするか、初心者が見たいって言ってたので来ました」
「そうかそうか、おや、君はタカシだね、有名人だ、ははは、得をした」
「ありがとうございます」
ロビーの高位の悪魔さんたちに逆らっても良い事は無いのでフレンドリーに対応するのが一番なのだ。
「どれどれ、ええと、誰からかね」
峰屋みのりが泥舟の後ろからぐいぐい押した。
最初は怖いらしい。
「あ、では僕から」
「じゃあ近寄って」
山羊頭さんは泥舟の体を六本の手でぺたぺた触った。
「まだ転職条件はクリアしていないねえ、
「そうですか……」
泥舟はがっかりした声をだしたが、まあレベル1だしな。
すぐに転職出来る恵まれたパラメータの持ち主もいるらしいが、だいたいみんな10レベルぐらいは無いと
「お、おねがいしまーす」
「やあ、かわいいねえ君、食べちゃいたいぐらいだよ」
「ひいいっ」
「冗談冗談、はははは」
山羊頭さんは峰屋みのりの体を六本の手でペタペタ触った。
セクハラっぽいが、異人種だからセーフかな。
「うん、君、魅力が高いね、すごいね、
山羊頭さんがそういうと、峰屋みのりの前に
「なりますっ!」
峰屋みのりは即答でウインドウの『はい』ボタンを押した。
はい?