みんなで乃木先生邸に押し掛けて、東郷先生に亀の飾り物を見せた。
「これは、何という物を……」
「由緒ある物なんですか?」
「『浦波』かあ、京都にあったとは……」
乃木先生がしみじみと言った。
「こいつは、ユタの術師にして剣士だった、カマド嬢の持っていた手盾だ、そうかそんな所にあったのか」
「お土産物屋とか、行きませんからね」
美春さんがしみじみと言った。
「カマドさん、偉い人だったんですか?」
「まあ、何とも懐かしい名前よなあ、カマドちゃんにはほんに良くしてもろうてなあ」
顔をくしゃくしゃにして桔梗おばあさんが言った。
『カマドで女性の名前なんだ、カマドタンジロウかと思った』
『沖縄の女性で良くある名前よ』
キャシーが横やりを入れたが、俺もそう思っていたのは秘密だ。
「今の陰陽剣法の基礎を作った方だ、幕末に京都に出て来て縁あって陰陽師になったんだ。明るくて綺麗な人で、オヤジの世代には惚れていた奴が多かったそうだよ」
「そうぞ、東郷の先代も、乃木の先代も惚れておって、必死に武具を打っておったわいなあ」
幕末から明治時期の陰陽師のアイドルな人だったのか。
「手矛の『帚星』と手盾『浦波』で封じた大妖は二つ、『野鎚』と『温石』だな。で『大狐』と戦い亡くなった」
凄い人だったんだな。
「おっしゃ、起動を試してみようかい、みのりや手伝っとくれ」
「はい、おばあちゃん」
みのりが桔梗おばあさんの隣に座った。
彼女にリュートを渡す。
「ぬおー、また退魔武器かあ、さすがはタカシ、良く見つけたっ」
「まあ、『巡行』じゃろうて。まだ残るならばフツノミタマは『キクリヒメノミコト』じゃな」
「ククリ姫ですか」
わりと有名な感じの神様だな。
メガテンとかで良く出てくる。
俺は収納袋から『暁』を取り出した。
『浦波』は切れた東郷さんによって頭をもがれ四肢を取られ、髭を引き抜かれて手盾の形を取り戻している。
まあ、塗料は落とせなかったのか表面に『開運招福』と書かれているが。
これでフツノミタマが残っているなら、『大神降ろし』が起動するはずだが、さて。
桔梗おばあさんとみのりが声を合わせて『謡』を歌っていた。
綺麗な声だな。
シュワッと音がして、表面の塗料にひびが入り、ばらばらと落ちていく。
「「「おおっ!!」」」
『浦波』は往年の赤銅色の輝きを取り戻した。
だが、起動を知らせる告知の声は聞こえなかった。
桔梗おばあさんが琵琶の手を止め、ふうと大きく息を吐いた。
「キクリヒメノミコトはもう天にお帰りになったかのう」
「残念ですねえ」
「真権能は『縁切』で、強力なのだがなあ」
なんか名前だけでも強そうな権能だね。
まあ、いらっしゃらないならしかたが無い。
表権能の[自動防御]だけでも十分美味しい手盾だ。
ふと、森の方に、快活な表情をした綺麗な女の人がいて、ぺこりと小さく頭を下げて、樹間に消えていった。
カマドさん、かな?
『浦波』をよろしくね、って言いに来たかな。
はい、大事にします。
ありがとうございます。
『どうしたの、タカシ』
『ん、いや、なんでもない』
『そういえば、なんだお前は、外人!』
鏡子ねえさんがキャシーに声を掛けた。
英語できるのか。
『英語話せるのねっ』
『まかせろ、よく知らないが前世は英語やってたようだ』
ねえさん、前世じゃないから。
『私はキャシー・アイランドよ、よろしくね鏡子』
『どこかで聞いた事があるような名前だ』
『二人目のサーバントスキル持ちだよ、鏡子さん』
『おおっ、タカシと同じなのかっ!』
『そして、『ホワッツマイケル』のメンバーよっ!!』
『敵だ~~~!!』
やめなさい、ねえさん。
俺は、キャシーにつかみ掛かろうとしたねえさんを止めた。
『止めるな~~』
『キャシーとは休戦中だから、喧嘩したらだめだよ』
『そうかー』
なんだか残念そうだな。
キャシーも腰から折りたたみの槍を出すのをやめなさい。
『折りたたみの槍を持ってるんだ』
『護身用よ』
細身の槍だが結構長いね。
強度はどんな物かな。
『槍士か』
「やれやれ、鏡子は血の気が多いのう」
「『ホワッツマイケル』は敵だ」
「昨日も攻めて来たんじゃろ」
「マイケル氏と『
『パティがタカシの事褒めてたわよ、勘が鋭いって』
スキルのお陰なんだけどね。
「ここに攻めてはこんだろうな」
「奈良に行ってるようですよ」
「奈良? なんじゃろうか」
「なんであろうなあ」
退魔鍛冶の先生二人も解らないか。
『でも良いわねえ日本は、伝統が残っているのね』
『アメリカも隠されているが、バチカン系の退魔組織があるぞい』
『西洋はカトリック系が多いな』
『そう、なのっ!!』
『オカルトだからな、隠されておるんじゃ』
中国とかは道教系なんだろうか。
各国の退魔組織の情報が欲しいね。
「世界の退魔組織は、大迷宮に対してどういう立場なんですか?」
「立場もなにも、近代前にだいたい妖魔のたぐいは封じて解散した所が多いの」
「バチカンは積極的に迷宮探索しているな」
各国で色々なのかあ。
ロシアはどうなんだろうかな。
ロシア正教の退魔組織なのかな。
共産主義の影響とかもありそうだなあ。