四人の清明派陰陽師が正座して土下座をしていた。
みのりが謡を止めると、天に赤い光珠、地に黄色い光珠が帰っていった。
わあっと野次馬の人が一斉に拍手をしてくれた。
『よくやったタカシ!』
『そうか[浄化]だからこういう方向の権能でもあるのか』
『各地に封じた大物妖魔を倒し放題だな』
やだよ、そんなの面倒臭い。
車から傷ついた陰陽師さんがふらふらと陸橋に上がって来た。
「朱雀……」
「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪』」
みのりが【回復の歌】を歌うと朱雀と呼ばれた陰陽師の体から煙が出て傷が治っていく。
「ありがとうございます、みのりさん」
「なんのなんのっ」
朱雀さんは俺の前でひざまずいて頭を下げた。
「白虎たちを助けて頂いて、本当に感謝します……」
「送ってやろうとしたらさ、『浦波』が『暁』を止めたんだ、カマドさんの意思かもしれない、だから礼を言うには及ばないよ」
「カマドさまが……、そう、ですか……」
「白虎に聞きたい、鬼人の肉はもう無いって乃木先生が言ってた、どうやって手に入れたんだ?」
「外人が……、『陰陽師の宝をタカシが盗もうとしてます、それで良いんですか』と言って、くれました……」
麒麟が顔を上げた。
「怪しかったんですけど、その、戦争で無くなった山本家の遺産だと言われて、それで……」
「空襲で無くなった分家筋の名前を出してきたので、鬼人の肉も言い伝え通りの形でしたし……」
陰陽師関係に詳しい外人か。
「あー、なるほどなるほど♡」
「なにか思い当たる事があるのか、サッチャン」
「まあ、大体、裏で糸を引いている勢力が解りましたが、タカシくんには教えてあげません♡」
「なんだよ、教えろようっ」
鏡子ねえさんが言うが、サッチャンは笑って答えない。
まったく、悪魔って奴は……。
「タカシくんが『浦波』を見つけたって聞いて、居ても立っても居られなくて、『暁』よりもずっとずっと、我々にとっては大事な退魔武具で……」
「本当に申し訳ありませんっ!」
朱雀さんが頭を下げると、四人の陰陽師は一斉に頭を下げた。
謝って欲しいわけではないのだけどなあ。
「権田権八に注射をした奴と一緒かな、タカシ」
「たぶん、罪獣を発生させる手段を持っている奴がいるな」
外国の退魔組織の残党かな。
日本の退魔武具を奪いたかったのか?
「タカシさん、お詫びにもなりませんが、これを」
朱雀が懐から『彩雲』を取り出して地面に置いた。
うーん。
「収奪戦じゃなかったから良いよ、白虎が使えよ」
「それでは、それではあまりにも申し訳なくっ!」
白虎が泣きながら訴える。
そう言われてもなあ。
貰って越谷さんにあげるか?
あそこにもフツノミタマの武具が二つ、あと歌女が居れば『大神降ろし』できるようになるし。
でもなあ。
「いらねえならくれよ」
ダキューン!
銃声と共に『彩雲』が宙を飛び、野次馬の中にいた伊達男の手に渡った。
「マイケル・ラプラトン」
「いらねえなら貰うぜ~、ひゅーっ、あとだ、『暁』と『金時の籠手』もくれよ」
「強欲だな、罪獣になっちまうぜ」
「あはは、良い男はなあ、欲張りぐらいの方が良いんだぜぇ、タカシボーイ」
マイケルは野次馬をかき分けて前に出て来た。
「返せっ!! それはタカシ君に渡すものだっ!!」
「うるせえっ! 負け犬は黙ってろっ、白虎ボーイ!」
……。
え、こいつ……。
「なんだ、この威圧感は……」
「おー、おー、お前、クラスチェンジしてきたなっ!」
鏡子ねえさんが笑顔で『金時の籠手』をガチンガチンと打ち鳴らした。
籠手の変形は元に戻っている。
「おうよ、『
「なんでだっ!! 外人のお前に何が解るというんだっ!!」
「昨日なあっ、奈良に行ってな、買ってきたからだ、山本家から、フツノミタマ付きの大剣をなあっ!」
そう言うとマイケルは背中から大剣を抜いた。
きらめくような赤金色の両手剣だった。
「ば、馬鹿なっ! それは山本家に伝わっていた『十柄』、空襲で空襲で焼けたって!!」
「ははっ、山本家の奴はなあ、奈良の田舎に逃げて隠れてたんだよっ、でなあ、一兆円で買ってきたぜえっ!」
「『十柄』に付いているフツノミタマは『スサノオノミコト』、表権能は『草薙』……」
応竜が震えながら、そう言った。
「その通り、タカシの持ってる『暁』と、ヤクザの持ってる『宵闇』、そしてこの『十柄』で、日本の三貴神が揃うってことよ、ヒューッ、この『ホワッツマイケル』の手の中になあっ」
サッチャンがくつくつ笑った。
「ああ、ついに真打ち登場ね、楽しいわ♡」
くそ、悪魔は脳天気だなっ。
「さあ、収奪戦、だったけか、を始めようぜえっ! 俺が賭けるのは『十柄』とこの魔銃、おまえらが賭けるのは『暁』と『金時の籠手』だっ、いやとはいわねえよなあっ!!」
「釣り合いが取れてないぞ」
「ああ、そうだなっ。今なあ、ここに『ホワッツマイケル』の八人が居る、だけど、全員で掛かっちゃあ、勝負にならねえな、なんで、こっちは二人、おまえらは四人だ、それでどうだ?」
野次馬の中から、レベルの高そうな外人が六人現れた。
あと一人は?
「あれ、エリベルトは?」
『なんか遅れるって、ねえ、マイケル、もうやめない? タカシに悪いし』
『うるせーキャシー、こういう勢いのある若手パーティは早めに叩いて置かなきゃ駄目なんだっ』
キャシーは肩をすくめて、こちらを見てちょっと頭を下げた。
「二人目は?」
「とうぜん、みのりん対策で、マリア・カマチョだっ!!」
オーラのある美人のお姉さんが前に出て来た。
『ぎゃあ、世界的な歌姫キター!!』
『カマチョ、カマチョ!!』
『うわあああ、本物だ~~~~!!』
『あの、私が謡をはじめたら、カマチョさんが呪歌掛け放題なのですけれど、それは……』
「え? あ……」
「みのり、謡無しだ、『大神降ろし』無しで戦う」
「え、いや、それは困るよ、大神降ろしの起動実験で持って来たんだよ、ほら、クラスチェンジしてまでさあ」
『謡、始まったら……、見てる……』
『そ、そうですか、初めましてみのりです、いつもカマチョさんのお歌は拝見しております』
『ありがと……、うれしい……』
わりと口が重い人っぽいな、カマチョさん。
ねえさんが寄ってきた。
「どうする?」
「やり合うのみ、世界一をたおーすっ!!」
脳天気だなあ、ねえさんは。
しかし、『
「二人か、痛いところを突いてきたね」
「『大神降ろし』を掛ければ、実質的に三対一だが……」
「剣士マイケルは凄く強いね」
「俺とねえさんの二人がかりでなんとかって所だ」
「まったく、ピンチばっかりだね」
まったくだ。