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第130話 世界一位の実力

『じゃあ、一緒に謡をしましょうか、教えますよ』

『いいの? 嬉しい……』


 マリアさんは背中のバッグからギターを出して来た。

 あれは相当高い奴なんだろうなあ。


『メロディは……』


 みのりは自分のリュートでポロンポロンと謡のメロディを奏でる。

 マリアさんは目をつぶってギターでその音を追う。


「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」

『意味は?』

『うーん、なんか古い言葉だから解んないよ』

『解った……『ひふみ よいむなや こともちろらね……』』


 謡はじめると術式なのか、歌詞がマリアさんからあふれ出てくる。

 みのりが声を合わせて謡が始まる。

 あたりに神聖な雰囲気が漂ってくる。


『ああ、カマチョとみのりんのデュエットだなんて~~』

『うっは、二人とも綺麗な声だなあ』

『和風魔術はロマンティックだ』


[問う、汝は神降ろしを望むか]


 頼む。


「『大神降ろし』!」

「『大神降ろし』!」

「あれ?」


[『暁』に畏くもアマテラス大御神、『十柄』に畏くもスサノオノミコト、古の約束にのっとり降りたもうねがいまする]


 天から、赤い光珠とオレンジ色の光珠が下りてきて、『暁』と『十柄』に宿った。

 ねえさんは渋い顔をして『金時の籠手』をパシパシ叩いていた。

 いや、電化製品の故障じゃないんだから。


「ははっ! 『金時の籠手』は故障かよっ、ヒュー!!」


 そう言ってマイケルはくるりとターンを決めた。


「ちがう、ねえさん、気力が溜まって無いか、第二段階にならないとフツノミタマが顕現しないのだろう」

「そうか、意外に面倒臭いなあ」

「きひひ、神降ろし装備が一個減ったぜ、これで対等ってもんだ」

「世界一の男が何を言ってやがる」

「レベルと実戦経験は俺の努力の結晶だからなあ、いいんだよっ、ヒューッ!」


 ああ、その通りだな。

 大剣を構えたマイケルの姿には一分の隙も無い。

 とてつもなく強い相手だ。


 表権能は[草薙]、神話からすると間合いを伸ばす権能か?

 真権能は武技タイプだろうか、なにしろ日本神話で一番の破壊神だからな。


「さあて、殺さないようにはするがよ、死んだらごめんなっ、へへっ、どうせ『復活の珠』はもってんだろ?」

「四つはある」

「ナイース、四回は殺せる、または四人全滅させても、まあ大丈夫ってことだなっ!!」


 マイケルは急に大剣から手を離し、腰から魔銃を抜いた。


 ダキューンダキューン!

 カキンカキン!


 『浦波』の[自動防御]で魔力弾を弾いた。


「ははっ! 良く受けたなあっ!!」

「全力で行くぜっ!! 世界一!!」


 鏡子ねえさんが駆けながら【狂化】バーサーク状態に入る。

 『金時の籠手』が獰猛な感じの爪を生やしていく。


「くっ!」


 ダキュンダキュンダキュン!!

 ガキキキン!!


 魔銃の弾を籠手の堅い部分で受け跳ね返し、鏡子ねえさんは見えないパンチを打ち込む。


「マジか、くそっ!」


 マイケルは急いで魔銃をホルスターにしまい『十柄』を両手で握って振った。


 ガキン!

 ザン!


 ねえさんは籠手の甲で斬撃を受けたが、二の腕に切り傷が入った。


「ぎゃうっ!!」

「へっへーっ! どうだい[草薙]の味は!!」


 【狂化】バーサークが入っているので煙を上げながら傷が塞がっていく。


「きあらああるううううぅぅぅっ!!」


 一声上げてねえさんは更に踏み込み正拳突きを飛ばした。


「へっ、そんなもんっ……、ぐっ!!」


 ガガッ! ガッ!


 二発のパンチは『十柄』の柄で受けられたが、籠手の表権能[楔]が働き、マイケルの腕を打ったらしい。

 偶然にも似た表権能だな。


 『十柄』の[草薙]は刀身から三十㎝ぐらいの見えない刃、『金時の籠手』の[楔]はインパクトの位置から十㎝ほど奧で打撃を伝える感じか。


 俺も間合いに踏み込んでいく。


「タカシから行くかっ!!」


 マイケルは俺に向けて『十柄』を振り下ろす。

 斬撃の方向がこうだから、こっちだな。


 ガキン!


 ぐっ、衝撃が強い! 

 なんとか『浦波』で受けて、[草薙]も避ける。

 切り返しての『暁』の斬撃は【身かわし】でするりと避けられた。

 なんて強さだ。


「ははっ、思ったより強いが、まあ、駆け出しだなあっ!! くらえっ、【切り落とし】!」


 刀身が光って、レア戦技が発動した。

 上から下への威力がある攻撃だ。


 【パリィ】を発動し、ステップを使って避けようとしたが、相手の【足運び】で位置を直された。


 ザン!!

 ガキン!!


 【パリィ】と[自動防御]が入り、なんとか【切り落とし】は受けきった。

 だが、[草薙]の間合い延長で胸を浅く切られた。


 ぐっ!!


「タカシ!!」


 泥舟がポケットからポーションを出して俺に投げつけた。

 ガラス瓶が割れ、傷に薬液がかかり、焼け付くような痛みと煙ともに傷が治っていく。


『泥舟ナイス!!』

『これはキツイ、マイケルつええっ!!』

『世界第一位、レベル72だしなあっ!』


「はっ!!」


 鼻で笑ったマイケルが『十柄』を振り上げた。

 こいつ、異常に強い!!

 世界一位は伊達じゃ無いな。

 レベル差四十と、各種レアスキルがもの凄いシナジーを起こしている。


 得意武器を持ったマイケルは、ここまで強いのか。


「きゃりいいいいいうあああるっ!!」


 鏡子ねえさんが背中を丸めて飛びこんできた。

 ガチャンガチャンと両手前腕部に角のような物が生える。


「『おおがみおろしっ!!』」

「おもしれえっ!! 掛かってこいっ、ミスキョウコ!!」


 更に速力を上げ、筋肉をバンプさせてねえさんはマイケルに襲いかかった。


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