『じゃあ、一緒に謡をしましょうか、教えますよ』
『いいの? 嬉しい……』
マリアさんは背中のバッグからギターを出して来た。
あれは相当高い奴なんだろうなあ。
『メロディは……』
みのりは自分のリュートでポロンポロンと謡のメロディを奏でる。
マリアさんは目をつぶってギターでその音を追う。
「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」
『意味は?』
『うーん、なんか古い言葉だから解んないよ』
『解った……『ひふみ よいむなや こともちろらね……』』
謡はじめると術式なのか、歌詞がマリアさんからあふれ出てくる。
みのりが声を合わせて謡が始まる。
あたりに神聖な雰囲気が漂ってくる。
『ああ、カマチョとみのりんのデュエットだなんて~~』
『うっは、二人とも綺麗な声だなあ』
『和風魔術はロマンティックだ』
[問う、汝は神降ろしを望むか]
頼む。
「『大神降ろし』!」
「『大神降ろし』!」
「あれ?」
[『暁』に畏くもアマテラス大御神、『十柄』に畏くもスサノオノミコト、古の約束にのっとり降りたもうねがいまする]
天から、赤い光珠とオレンジ色の光珠が下りてきて、『暁』と『十柄』に宿った。
ねえさんは渋い顔をして『金時の籠手』をパシパシ叩いていた。
いや、電化製品の故障じゃないんだから。
「ははっ! 『金時の籠手』は故障かよっ、ヒュー!!」
そう言ってマイケルはくるりとターンを決めた。
「ちがう、ねえさん、気力が溜まって無いか、第二段階にならないとフツノミタマが顕現しないのだろう」
「そうか、意外に面倒臭いなあ」
「きひひ、神降ろし装備が一個減ったぜ、これで対等ってもんだ」
「世界一の男が何を言ってやがる」
「レベルと実戦経験は俺の努力の結晶だからなあ、いいんだよっ、ヒューッ!」
ああ、その通りだな。
大剣を構えたマイケルの姿には一分の隙も無い。
とてつもなく強い相手だ。
表権能は[草薙]、神話からすると間合いを伸ばす権能か?
真権能は武技タイプだろうか、なにしろ日本神話で一番の破壊神だからな。
「さあて、殺さないようにはするがよ、死んだらごめんなっ、へへっ、どうせ『復活の珠』はもってんだろ?」
「四つはある」
「ナイース、四回は殺せる、または四人全滅させても、まあ大丈夫ってことだなっ!!」
マイケルは急に大剣から手を離し、腰から魔銃を抜いた。
ダキューンダキューン!
カキンカキン!
『浦波』の[自動防御]で魔力弾を弾いた。
「ははっ! 良く受けたなあっ!!」
「全力で行くぜっ!! 世界一!!」
鏡子ねえさんが駆けながら
『金時の籠手』が獰猛な感じの爪を生やしていく。
「くっ!」
ダキュンダキュンダキュン!!
ガキキキン!!
魔銃の弾を籠手の堅い部分で受け跳ね返し、鏡子ねえさんは見えないパンチを打ち込む。
「マジか、くそっ!」
マイケルは急いで魔銃をホルスターにしまい『十柄』を両手で握って振った。
ガキン!
ザン!
ねえさんは籠手の甲で斬撃を受けたが、二の腕に切り傷が入った。
「ぎゃうっ!!」
「へっへーっ! どうだい[草薙]の味は!!」
「きあらああるううううぅぅぅっ!!」
一声上げてねえさんは更に踏み込み正拳突きを飛ばした。
「へっ、そんなもんっ……、ぐっ!!」
ガガッ! ガッ!
二発のパンチは『十柄』の柄で受けられたが、籠手の表権能[楔]が働き、マイケルの腕を打ったらしい。
偶然にも似た表権能だな。
『十柄』の[草薙]は刀身から三十㎝ぐらいの見えない刃、『金時の籠手』の[楔]はインパクトの位置から十㎝ほど奧で打撃を伝える感じか。
俺も間合いに踏み込んでいく。
「タカシから行くかっ!!」
マイケルは俺に向けて『十柄』を振り下ろす。
斬撃の方向がこうだから、こっちだな。
ガキン!
ぐっ、衝撃が強い!
なんとか『浦波』で受けて、[草薙]も避ける。
切り返しての『暁』の斬撃は【身かわし】でするりと避けられた。
なんて強さだ。
「ははっ、思ったより強いが、まあ、駆け出しだなあっ!! くらえっ、【切り落とし】!」
刀身が光って、レア戦技が発動した。
上から下への威力がある攻撃だ。
【パリィ】を発動し、ステップを使って避けようとしたが、相手の【足運び】で位置を直された。
ザン!!
ガキン!!
【パリィ】と[自動防御]が入り、なんとか【切り落とし】は受けきった。
だが、[草薙]の間合い延長で胸を浅く切られた。
ぐっ!!
「タカシ!!」
泥舟がポケットからポーションを出して俺に投げつけた。
ガラス瓶が割れ、傷に薬液がかかり、焼け付くような痛みと煙ともに傷が治っていく。
『泥舟ナイス!!』
『これはキツイ、マイケルつええっ!!』
『世界第一位、レベル72だしなあっ!』
「はっ!!」
鼻で笑ったマイケルが『十柄』を振り上げた。
こいつ、異常に強い!!
世界一位は伊達じゃ無いな。
レベル差四十と、各種レアスキルがもの凄いシナジーを起こしている。
得意武器を持ったマイケルは、ここまで強いのか。
「きゃりいいいいいうあああるっ!!」
鏡子ねえさんが背中を丸めて飛びこんできた。
ガチャンガチャンと両手前腕部に角のような物が生える。
「『おおがみおろしっ!!』」
「おもしれえっ!! 掛かってこいっ、ミスキョウコ!!」
更に速力を上げ、筋肉をバンプさせてねえさんはマイケルに襲いかかった。