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第151話 十一階の初戦はハイオーク

「一階ごとに前に出るパーティを変えよう」

「そうだな、最初は『オーバーザレインボー』が出るか」

「頼めるか」

「まだ十一階だからいいぜ」


 十一階も洞窟階だから通路の幅が横三人分ぐらいだから、パーティごとに前後ろと並んだ方が能率的なんだな。


 『オーバーザレインボー』は最前衛に探索役シーカーで『盗賊シーフ』の樹里さん、その後ろに盾役タンクの霧積と高田君、その後ろに魔術師ウイザードの東海林と僧侶プーリストの藍田さんという隊列になっている。


 樹里さんはスマホのDマップを見ながら慎重に進んでいるな。

 【気配察知】があるので大丈夫だろう。


 俺たち『Dリンクス』は前衛に『吟遊詩人』バードのみのり、『盗賊シーフ』のチアキ、中衛に泥舟、後衛に俺と鏡子ねえさんだ。


 なんで『オーバーザレインボー』と布陣が逆かというと、後ろから襲いかかってくるバックアタックの魔物を警戒するためだ。

 俺も鏡子ねえさんも【気配察知】があるので探索能力が高い。


「みんなで冒険するの、なんか楽しいね、タカシくん」

「そうだな、前を見ろつまづくぞ」

「うんっ、『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」


 いつもの景気づけの【元気の歌】だ。

 体の奥から活力が湧いてくる。

 チアキも途中から合唱しはじめた。


「樹里さーん、呪歌はかかってる~?」

「掛かってるっす~~」


 最前列まで掛かる感じだな。

 バードは真ん中に置くと便利だ。


『やっぱ、『Dリンクス』と『虹超』がレイドを組むと安心だな』

『タカシと鏡子さんで五十階まで行けそうだからな』

『『虹超』も最近はまとまって来た、キスミーが真面目になったのはでかいな。あとは高田』


 レイドなので同接数もみるみるうちに上がって行くな。

 八千人ほど、やっぱりメイン狩りは視聴率が高い。


 暗い洞窟内は、皆が頭に付けているライトでまだら状に照らされている。

 小動物系は足下から襲ってくるので警戒が重要だ。

 足をやられると戦闘能力が格段に落ちる。


 前方からオークとハイオークの群れが来た。


「オーク四、ハイオク一」


 樹里さんがそう言って後衛に下がり、短弓を手に取った。

 高田くんがまずは手投げ斧を飛ばす。


 ザッシュ!


 切れ味の良いレア投げ斧はオークの首を半分切り裂いて高田くんの手元に戻って来た。

 大剣の霧積が踏み込む。

 一撃でオークが一匹切り伏せられた。

 藍田さんの奇跡は温存のようだ。

 今回は走破距離が長いからね。


 ボッシュ!


 東海林の詠唱が終わり、『火炎弾ファイヤーボール』が中央のオーク目がけて飛んだ。


 火の弾はオークに着弾して隣のオークを巻き込んで吹き飛ばす。


 ドカーーン!


 なかなかの安定具合だな。


 みのりの呪歌は温存。

 チアキが銃を構えているが撃ってはいない。

 前方に人が多すぎる感じだな。


 霧積の動きが格段に良くなっているな。

 スキルが生えたか、生えかけな感じだ。


「いいなあ、『オーバーザレインボー』」

「そうだね、ずいぶん強くなってる」


 後ろを警戒しながら鏡子ねえさんと語り合った。


 樹里さんの短弓が飛んでオークの膝に当たり跪いた。

 高田君の投げ斧が頭蓋を砕くと、残りはハイオークだけになった。


 ハイオークはオークの上位種で体格が大きくスキル【豪腕】を持つ強敵だ。


「高田くん、あれをやるぞ」

「やるおーっ」


 高田君はポケットから何かのコードを出して斧に繋いだ。

 端を東海林に投げる。

 そして飛ばした。


 ハイオークは馬鹿にしたように鼻を鳴らして斧で迎撃する。


 ガチーン!!

 バリバリバリバリ!


 コードの端を持った東海林が小声で【微電撃エレクトロ】を唱えていたらしい。

 感電したハイオークの動きが止まる。


『上手い! 連携いいねえっ』

『狩りはこうでなくてはな』


 後ろ頭にチリチリと反応があった。

 【気配察知】のイメージを広げる。


「来てるな」

「オーガーか、結構強そうだ」

「いひいひいひ」


 鏡子ねえさんは変な笑い方をして『金時の籠手』をガチーンと打ち合わせる。


「一人で貰っていいか?」

「かまわないよ」


 返事を聞くか聞かないかのタイミングでねえさんは飛び出して行った。

 お団子ちゃんが慌てて追いかけていった。


『バックアタックか』

『ここら辺の奴って、よくこの手を使うな』

『班ごとに戦略の癖があるのじゃ』


「バックアタック!! オーガー一!」


 声を張り上げると東海林が了解とばかりに手を上げた。

 俺はオーガーの方には行かない、さらにバックアタックを警戒して後方を照らしておく。

 俺の灯りの下で鏡子ねえさんが凄まじい早さで動き回り、大剣を持つオーガーを翻弄していく。

 京都で戦った白虎たちの初期の姿と良く似ているな。

 やっぱり、太古に瘴気を吸った人間のなれの果てなのだろうか。


 鏡子ねえさんはオーガーの足を払い、頭を持って洞窟の壁に激突させた。

 そのまま胸板に見えない突きを放つ。


 ドガガガガガ!


 轟音と共にオーガーの背中が吹き飛んだ。

 『金時の籠手』の表権能[楔]が働いているな。

 オーガーは動きを止め、床に崩れ落ちた。


「おし、完了!」

「おつかれ」


 前方を見ると、高田君と霧積がハイオークを切り落とした所だった。


 二パーティレイドの初戦は完勝だな。


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