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第152話 十二階で新戦法を試す

 鏡子ねえさんがオーガーの死骸を引きずって二パーティレイドの真ん中に置いた。

 隊列は進んでいて、オーク達の死骸もちょうど真ん中にある。

 魔物の死骸は崩れるようにして粒子と変わり、魔力の霧と、魔石とドロップ品が落ちてきた。


「おー、やっぱ出るおー」

「みのりんはやっぱり何か持ってるっすよねえ」

「やめてよう、樹里さん」


 オークハムが出たのでねえさんがさっそく包み紙を剥いて囓り始めた。

 まあ、いつもの事だよな。

 あとはオークから丸盾とオーガーから大剣が出た。

 魔石の方はもれなくドロップだ。

 装備と魔石を収納袋に入れた。


 魔力の霧が満遍なく二パーティに吸収される。

 藍田さんが魔力の霧をぱたぱた手であおいで体に誘導しているのが面白かった。


「涼子、お参りじゃないんだから」

「あ、ああ、なんかお参りの癖が」

「お大師さんの煙をそうやるよねえ」


 お寺のお線香の煙は体の悪い所に掛けると治るという俗信があるからね。


『藍田さんは天然ほっこり僧侶で良いね』

『JK三人娘だ』

『俺はチアキちゃん一択だ』

『このロリコンめ』


 あいかわらずコメントの人達はかしましいな。


「さあ、進もう」

「了解っす、タカシ師匠」


 樹里さんがまた前に出る。

 先ほどと同じ隊列で進む。

 洞窟の中は薄暗くてヒンヤリしているな。


 ジャイアントバットや大ナメクジを倒しながら我々は十二階への下り階段に着いた。

 ちなみにジャイアントバットからまた煙草と、大ナメクジからは塩が出た。

 南米のピンク色の岩塩だな。


 十二階の階段を下りるとちょっと休憩。

 水分を取ったり行動食を食べたりする。


「やっぱり十人いると強いな新宮」

「わりと楽勝だな、今度は後ろを頼むよ」

「ああ、任せておいてくれ、しかし【気配察知】のメンバーが居るとこんなに楽なんだな」

「盗賊、斥候はいないとやばいからな」


 隊列を組み直す。


「チアキが先に行くか」

「任せて」

「【気配察知】を生やすコツは見えない前方や、物陰とか曲がり道全てに気を張って観察し続ける事だ」

「んっ」


 チアキは力強くうなずいた。

 まあ、うちは前衛二人が【気配察知】があるから奇襲は食らわないだろう。


 チアキはDマップを見ながら慎重に歩き始めた。


『半々、半々で見るんだよ、マップと先を半々に見てみれ』

「え、『盗賊シーフ』さんも見てるの?」

『そりゃあ、いるさ、試してみ』

「ありがとうございます」


 コメントを参考にチアキはスマホを片手に、先も見ながら歩き始める。


 『Dリンクス』の隊列は先ほどと逆だ、チアキ、俺とねえさんが前衛、中衛に泥舟、後衛がみのりとなる。

 『オーバーザレインボー』も同様に、後衛と前衛が逆になった感じで隊列を組む。

 最後尾は樹里さんだな。


 前方に気配が近づいてきたな。

 チアキが止まってしゃがみ込んだ。


「前方、敵」


 俺たちも黙って足を止める。

 十二階はオーク、オーガー、コボルト、ジャイアントハイバット、ヒュージスパイダーという所か。


「コボルト五」


 小声でそう言ってチアキは手の平を広げた。

 俺とねえさんが前に出る。

 チアキは中衛まで下がり魔銃を構えた。

 誤射してくれるなよっ。


 コボルトは犬頭の小型の亜人系モンスターだ。

 鼻が利き、動きも素早い。


 ダキューンダキュン!


 チアキの射撃は残念ながら外れ、コボルト達は背中を丸めて飛びこんできた。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪』」


 みのりの新しい曲『ぐるぐるの歌』がかかり、コボルト、俺、チアキ、音の範囲にいる全員がぐらぐらと揺れた。

 ちゃんと立っているのは歌っているみのりと、卓抜な平衡感覚を持つ鏡子ねえさんだけだった。

 わりと動くのが難しくなるな。


『みのりんの新曲!』

『やや、高田が転びおった』

『この平衡感覚を狂わせる歌の中で普通に動ける鏡子さんツエエ!!』

『鏡子を飛びこませる為の歌じゃな、良く考えられておる』


 余さんの感想通り、ぐらぐら揺れているコボルトに鏡子ねえさんは取り付き、頭部を一撃で粉砕して一匹を倒した。

 残りは四。

 更に裏拳でもう一匹を吹き飛ばし、蹴りで天井までもう一匹を打ち上げる。

 俺は低い姿勢でコボルトに近づき、突きを入れる。

 振りだとぐるぐるの効果で力がぶれそうだ。

 なんの抵抗も無く、『暁』はコボルトの心臓を突き傷を焼いた。

 嫌な臭いがする。

 引き抜いて次の標的を探す。


 ダキューン!


 チアキが地面に伏せて魔銃を撃った。

 コボルトの一匹の肩を打ち抜いた。

 みのりの歌が止まると、樹里さんの矢が飛び運良くコボルトにヒットした。

 よくあの距離から当てるな。


 するすると泥舟が前に出て無傷のコボルトの腹を刺し、鏡子ねえさんが手負いを仕留めて行って戦闘は終わった。


「うぇ~~いっ!」


 鏡子ねえさんが片手を上げて勝利を宣言した。


『強いなあ、さすが『Dリンクス』世界一のEランクパーティだ』

『チアキちゃんも一発当てた、スパチャを上げよう』


 ビロリン。


「ありがとうございます」


 チアキは『リロード』と唱えて弾込めをした。


「ぐるぐる戦法、いいな」

「ありがとうタカシくんっ」


 みのりが花のように笑った。

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