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第154話 湧き水を水筒に入れて十四階を行く

 水場で水筒に水を詰める。

 ここの水は美味しい感じがする。

 たまに濁っている水場とかもあってちゃんと注意して飲まないと危ないんだ。


 俺がどくとチアキが同じ形の水筒の水を捨て、湧き水を入れ始めた。


「楽しいか?」

「ワイワイしてさあ、こういうの初めてで楽しい」

「うん、楽しいよな」


 俺もチアキも、迷宮はなんだか辛い所だったので仲間と一緒に潜るのはとても楽しくてワクワクする。

 子供時代が少なそうなチアキにとってはもっと鮮烈な体験なんだろうなと思う。


 迷宮は楽しいよな。


 さて、また隊列を入れ替えて十四階を歩き始める。

 この階は『Dリンクス』が前だ。


「この階は両パーティとも初見だ、慎重に行くぞ」

「わかったっ」

「おうよ」

「わかりました」

「初見の階は怖いからね」


 全員気を引き締める。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりが【冷静の歌】を歌い始める。

 うん、なんだか心が平静になった気がする。


 この階からハイオーク、オーガーが増え始める。

 メインの人型魔物は階の深度によって移り変わって行くんだ。


「オーク二、ハイオーク二」


 ジャラーンとみのりがリュートをかき鳴らす。

 前方のオーク達が俺たちに気づきウオウオと吠え上げた。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 【ぐるぐるの歌】が響き渡る中、鏡子ねえさんがまっすぐにオークの群れに突っ込んでいく。

 チアキは地面に腹ばいになって魔銃を構え、俺たちは姿勢を低くして前に出る。


「わあっ」

『また高田が転んだ~~』

『平衡感覚が弱いのう』

『樹里ちゃんは耐えているね』

『東海林は四つん這いだ』


 コメントで『オーバーザレインボー』の状況が解るのは良いな。


 ドキューン!


 ぐらぐらと揺れる中、オーク達は鏡子ねえさんの攻撃を避けることも出来ないし、チアキの銃撃も避けられない。

 俺と泥舟が前にでて、一匹ずつオークとハイオークを倒すと戦闘は終わった。

 チアキは胸の辺りをパンパンと叩きながら立ち上がる。


「腹ばいになるのは良いな」

「狙いやすくなる」

「でも汚れる~~」

「死んだら意味ない」


 問題は鏡子ねえさんが滅茶苦茶な速度で飛び回るので、誤射が怖いぐらいだな。


 『オーバーザレインボー』が寄ってきた。

「ぐるぐるの歌で転ぶおー」

「もうちょっと慣れ無いとな」

「へ、高田は運動神経なさすぎだぜ、中腰になって耐えるんだよ」

「しかし能率的だな」

「MPも【スロウバラード】よりは消費が少ないのよ」


 長丁場だとMPの消費量も気をつけないとな。

 マジックポーションを飲めばある程度は回復するが、何本もある訳ではないし。


 オーク達が粒子に変わり、魔力の霧が漂った。

 女の子たちがパタパタと手を動かしていた。

 チアキも真似てぱたぱたとしている。


 ドロップ品は魔石、オークハム、高級豚肉ブロック、オークセーターだった。

 緑色のセーターで、前に大きくオークの笑顔が編み込んである。

 意外に暖かそうだ。


「高田に似合いそうだ」

「えー、嫌だおーっ」


 霧積の言葉に高田君が嫌がった。


 収納袋に入れていく。

 あとで地上に上がった時に分けよう。

 誰も要らなかったら俺が着るかな。


 二パーティレイドは十四階を進む。

 ここの階は散らばるように宝箱がある階なので最短を進むと割と階段まで早い。


 途中、宝箱がポップする部屋を通った。

 宝箱は蓋が開いて中身は無い。


「まあそうだね」

「リザードマン!! 三!!」


 チアキが指を三本出して警告する。

 トカゲ人間リザードマンの皮膚がライトに照らされてヌメヌメと光った。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 先手にみのりの【ぐるぐるの歌】だ。

 鏡子ねえさんが飛びこむが槍で迎撃される。

 くそ、ぐるぐるが効いて無い、三半規管が強いのか。


「尻尾で支えてるっ!!」


 鏡子ねえさんが籠手で槍を弾きながらそう言った。


 ジャラーン、曲調が変わる。

 この曲は!

 俺はポケットからハッカ飴を出して口に含んだ。


「チアキ、口をあけろっ」


 素直に口を開けたチアキの口にハッカ飴を放り込んだ。


「辛っ!」


 ハイパーミントだから、刺激が強すぎでスウスウというよりも辛い感じがするのだ。


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 みのりが【お休みの歌】にシフトした。


 リザードマンがこっくりこっくりと船をこぎ始めた。

 鏡子ねえさんがアッパーカットで天井までリザードマンを打ち上げた。

 奴の頭が粉々に砕けて一匹倒した。


 【お休みの歌】はリザードマン特攻だったらしく、残りの二匹は槍を手放して寝てしまった。


 泥舟と俺で一匹ずつ、急所をえぐって仕留めた。


『高田が寝ておる』

『なんで効きまくるんだ高田ー』

『というか、『虹超』は眠そうだなあ』


 みのりは曲調を変えた。


「『おはようおはよう~~、あかるい笑顔にさんさん太陽さんが~~♪ にっこり顔出しおはようさん~~♪』」


 すっきりしゃっきりと目が覚める。

 チアキがハッカ飴をバリバリとかみ砕いて、辛かったのか、水を急いで飲んだ。


「いきなりの【おやすみの歌】は酷いお」

「わるいわるい、初対決だったからね、ハッカ飴持ってて」


 俺は収納袋からハッカ飴の袋を出して『オーバーザレインボー』に配った。


 リザードマンは粒子に変わり、魔力の霧となり、ドロップ品が落ちてきた。


 魔石が三つと、槍と魔法の呪文スペルだ。


「『睡眠スリープ』は持ってたか、東海林」

「あ、持って無い、意外に高いんだ『睡眠スリープ』」

「それは良かった、今覚えてくれ」

「わるいな、新宮」

「良いって、気にすんな」


『『睡眠』はMP消費も少ないし、良い呪文だよな』

『『火炎弾』と並んで初歩呪文なのだが、十階を越えないとあまり出ぬからのう』

『槍は泥舟か? いや、まだ家伝の手槍の方が強そうだな』


 泥舟は槍をあらためた後、俺に渡してきた。


「良い槍だけど、まだ、こっちの方が良いね」

「なかなか良いのが出ないな」


 ガコン!


 音がしたので振り返ると、宝箱がポップしていた。


『『『『『うお~~~』』』』』

「「「「「うお~~~」」」」」

『いやいや豪運だな、しかも銀箱だ』


 とりあえず、ポップ宝箱は嬉しいな。



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