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第155話 宝箱を開けて十五階へ

 銀の宝箱にチアキが取り付いた。

 ちょっと離れて樹里さんが観戦している。

 LEDランタンを床に置き、折りたたみ式のライトをサブに使って宝箱を調べている。


「【罠感知】で大体解るっすか?」

「うん、それほどグレードの高い罠じゃないね、『毒ガス』か『毒矢』かな」


 チアキは盗賊の七つ道具を懐から出して、蓋の隙間をわずかに広げてグラスファイバー鏡を差し込み中を見ている。


「『毒ガス』だね、無理に開けても僧侶プリーストさんが居るなら大丈夫。でもここには『盗賊シーフ』が二人もいるからね」

「あーしは駆け出しっすから」

「わたしもだよ、樹里ちゃん」


 実は宝箱の鍵はあるのだが、銀箱という事でチアキがチャレンジする事になったのだ。

 鏡子ねえさんと霧積が徘徊ワンダリングモンスターを警戒して入り口に立っている。

 この宝箱の部屋は少し変わっていて、片側には扉があるが、反対側は通路が直に繋がっている。

 扉を閉めて籠城はできないのだ。


 チアキが針金を使ってカチャカチャと何かをやっている。


「ほえー、そうやって機構を殺すっすかー」

「基本は針金縛りだね、狭い時は糸で縛って殺したりするよ」


 ラジオペンチで針金をパチンと切って、解錠に移った。

 見ている者も集中してチアキの手元を見つめていた。


「勉強になるっすー」

「銀箱に鍵を使ってたら赤字になるしね」


 なんだかチアキがその道のプロのようで大人っぽいな。

 師匠に厳しく修行させられたのだろう動きに淀みが無い。


 カチリ。


 ほうっとチアキが一息吐いて宝箱の蓋を開いた。

 わあっとみんなから拍手を貰うとちょっと頬を赤くして照れた。


「ああ、こうなってたんすね、ああ、ここで殺して作用しないようにするんだ」


 樹里さんが宝箱の仕掛けチェックに夢中で何が出たのか解らない。


『チアキちゃん凄いっ』


 ビロリン。

 スパチャが投げられた。


『小さいのに腕利きじゃのう、【盗賊シーフ】スキルと【鍵開け】の複合じゃな』

『盗賊の腕前見れるのは楽しい』


 さて、宝箱の中身だが……。


「スキルオーブ?」

「まさか」

「蘇生の珠?」

「銀箱には入ってないだろう」


 カメラピクシーがアイテムカードに群がって字が読めない。

 何かの珠だな。


『『逃げ足の珠×10』だああっ、戦闘回避アイテムだ』

『フロアボス以外ならば確実に敵から逃げられる魔法の珠じゃな、なかなか』

『わりと高く売れる。深く潜るパーティだと良く使うからね』


 おお、なかなかの物が出た。


「チアキありがとう」

「何言ってんのっ、『盗賊シーフ』の仕事だからっ」


 チアキは頬を赤くして口を尖らせた。


「ああ、でもありがとう」


 俺はチアキの頭を撫でた。

 チアキは目を細めて嬉しそうな顔をした。

 うん、誰かの役に立つって嬉しいよな。


「逃げ足珠かあ、換金するかー?」

「そうだね、うちはまだレベルが煮詰まって無いからあまり必要はないかな」

「深い所で遭難したときに使えそうだけどねえ」

「うん、パーティが半壊したときとかに敵と出会うと怖いんお」


 そう、高田くんが言った。

 そうか、『オーバーザレインボー』はパーティ半壊の経験があるからな。


「どうやって使う物なの、タカシくん」

「地面に叩きつければ、僧侶プリーストの中位奇跡の【逃げ足】が掛かる。十回使えるから拾わないといけないけどね」

僧侶プリーストの奇跡……、私、将来絶対覚えますっ」


 藍田さんが宣言した。

 うん、頑張って。


 さて、逃げ足の珠を収納袋に入れて探検を再開する。

 宝箱部屋を抜ければ、下り階段はすぐそこだった。


 階段を下りて、パーティの前後をチェンジする。


「そろそろ敵が強くなってくるから用心してくれ」

「お、おう」

「リザードマンには【睡眠スリープ】が効きそうだ、試してくれ」

「解った、樹里さん、前方に注意してくれ」

「わかったっす」


 十五階は罠は無いが、途中謎かけの部屋がある。

 まあ、答えはDマップに書かれているので問題は無い。

 初見攻略の時は答えがわからなくて一週間、十五階で停滞したらしいが。

 今ではフリーパスの階と言っていい。


「ううう、十六階が近づいてくるよう」

「今回はそれが目的だから」

「十六階のムカデ部屋で通行権を取ったらどうするの?」

「二パーティで二十階フロアボスを倒すーっ」


 チアキの問いに鏡子ねえさんが力強く答えたが、それは無理だ。

 フロアボスの宝箱がもったい無いしな。


「通行権を取ったら、そのまま帰るよ」

「元来た道を引き返す感じ?」

「そうだよ、二十階のフロアボス攻略には一日掛かるから、今度の土曜かな」

「えー、さっさと階を進めようぜ」

「焦っちゃだめだよ、鏡子ねえさん」


 今回はサクサク行けているが、一パーティで潜るともっと敵が手強い感じになりそうだしね。


「リザードマン三っす」


 樹里さんが前方にリザードマンを見つけて小声で伝えてくる。

 高田君の間合いまで引きつけて、投げ斧、その後、霧積が斬り込み、東海林の【睡眠スリープ】で勝負が決まった。

 うん、トカゲには睡眠が良く効く。


 ドロップ品は、魔石、青水晶、ポーション、トカゲ柄ボディスーツであった。


「ボディスーツは貰うっ」

「良いですよ鏡子さん」

「ありがとうっ、東海林!」


 トカゲ柄ボディスーツはリザードマンから出るのか。

 着替えが出来て何よりだ。

 蛇柄は蛇系から出るのかな?

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