銀の宝箱にチアキが取り付いた。
ちょっと離れて樹里さんが観戦している。
LEDランタンを床に置き、折りたたみ式のライトをサブに使って宝箱を調べている。
「【罠感知】で大体解るっすか?」
「うん、それほどグレードの高い罠じゃないね、『毒ガス』か『毒矢』かな」
チアキは盗賊の七つ道具を懐から出して、蓋の隙間をわずかに広げてグラスファイバー鏡を差し込み中を見ている。
「『毒ガス』だね、無理に開けても
「あーしは駆け出しっすから」
「わたしもだよ、樹里ちゃん」
実は宝箱の鍵はあるのだが、銀箱という事でチアキがチャレンジする事になったのだ。
鏡子ねえさんと霧積が
この宝箱の部屋は少し変わっていて、片側には扉があるが、反対側は通路が直に繋がっている。
扉を閉めて籠城はできないのだ。
チアキが針金を使ってカチャカチャと何かをやっている。
「ほえー、そうやって機構を殺すっすかー」
「基本は針金縛りだね、狭い時は糸で縛って殺したりするよ」
ラジオペンチで針金をパチンと切って、解錠に移った。
見ている者も集中してチアキの手元を見つめていた。
「勉強になるっすー」
「銀箱に鍵を使ってたら赤字になるしね」
なんだかチアキがその道のプロのようで大人っぽいな。
師匠に厳しく修行させられたのだろう動きに淀みが無い。
カチリ。
ほうっとチアキが一息吐いて宝箱の蓋を開いた。
わあっとみんなから拍手を貰うとちょっと頬を赤くして照れた。
「ああ、こうなってたんすね、ああ、ここで殺して作用しないようにするんだ」
樹里さんが宝箱の仕掛けチェックに夢中で何が出たのか解らない。
『チアキちゃん凄いっ』
ビロリン。
スパチャが投げられた。
『小さいのに腕利きじゃのう、【
『盗賊の腕前見れるのは楽しい』
さて、宝箱の中身だが……。
「スキルオーブ?」
「まさか」
「蘇生の珠?」
「銀箱には入ってないだろう」
カメラピクシーがアイテムカードに群がって字が読めない。
何かの珠だな。
『『逃げ足の珠×10』だああっ、戦闘回避アイテムだ』
『フロアボス以外ならば確実に敵から逃げられる魔法の珠じゃな、なかなか』
『わりと高く売れる。深く潜るパーティだと良く使うからね』
おお、なかなかの物が出た。
「チアキありがとう」
「何言ってんのっ、『
チアキは頬を赤くして口を尖らせた。
「ああ、でもありがとう」
俺はチアキの頭を撫でた。
チアキは目を細めて嬉しそうな顔をした。
うん、誰かの役に立つって嬉しいよな。
「逃げ足珠かあ、換金するかー?」
「そうだね、うちはまだレベルが煮詰まって無いからあまり必要はないかな」
「深い所で遭難したときに使えそうだけどねえ」
「うん、パーティが半壊したときとかに敵と出会うと怖いんお」
そう、高田くんが言った。
そうか、『オーバーザレインボー』はパーティ半壊の経験があるからな。
「どうやって使う物なの、タカシくん」
「地面に叩きつければ、
「
藍田さんが宣言した。
うん、頑張って。
さて、逃げ足の珠を収納袋に入れて探検を再開する。
宝箱部屋を抜ければ、下り階段はすぐそこだった。
階段を下りて、パーティの前後をチェンジする。
「そろそろ敵が強くなってくるから用心してくれ」
「お、おう」
「リザードマンには【
「解った、樹里さん、前方に注意してくれ」
「わかったっす」
十五階は罠は無いが、途中謎かけの部屋がある。
まあ、答えはDマップに書かれているので問題は無い。
初見攻略の時は答えがわからなくて一週間、十五階で停滞したらしいが。
今ではフリーパスの階と言っていい。
「ううう、十六階が近づいてくるよう」
「今回はそれが目的だから」
「十六階のムカデ部屋で通行権を取ったらどうするの?」
「二パーティで二十階フロアボスを倒すーっ」
チアキの問いに鏡子ねえさんが力強く答えたが、それは無理だ。
フロアボスの宝箱がもったい無いしな。
「通行権を取ったら、そのまま帰るよ」
「元来た道を引き返す感じ?」
「そうだよ、二十階のフロアボス攻略には一日掛かるから、今度の土曜かな」
「えー、さっさと階を進めようぜ」
「焦っちゃだめだよ、鏡子ねえさん」
今回はサクサク行けているが、一パーティで潜るともっと敵が手強い感じになりそうだしね。
「リザードマン三っす」
樹里さんが前方にリザードマンを見つけて小声で伝えてくる。
高田君の間合いまで引きつけて、投げ斧、その後、霧積が斬り込み、東海林の【
うん、トカゲには睡眠が良く効く。
ドロップ品は、魔石、青水晶、ポーション、トカゲ柄ボディスーツであった。
「ボディスーツは貰うっ」
「良いですよ鏡子さん」
「ありがとうっ、東海林!」
トカゲ柄ボディスーツはリザードマンから出るのか。
着替えが出来て何よりだ。
蛇柄は蛇系から出るのかな?