『天蓋の中心にて長く尾を引く者の真の名を答えよ』
大きく重厚な扉にこのような銘板が掛かっていて、ひらがなを打ち込む機器が付いていた。
「ひらがな?」
「アメリカだとアルファベット、別の国だとその国の文字のキーボードらしい」
「答えは、ええと『すいせい』?」
「ブブー、『ほっきょくせい』」
「なんでっ!?」
「しらん」
俺たちはリドルの大扉の前で一休みしている。
ここは安全地帯だ。
『なんで『ほっきょくせい』なんだろう』
『おおぐま座の尻尾から引っ張るからか?』
『このリドルは三千年ほど前の地球は北半球の
『そんなの解るかーっ!!』
『リドルとはそういうものよ』
コメントチェッカーに余さんの解説が入った。
さすが博識だなあ。
なるほど、地軸は傾いているから時期によって北極星はずれるんだな。
というか、逆になんで解けたかな、多分、天蓋の中心で当てずっぽうで入れたな。
この迷宮が出来た頃、三千年前のリドル。
たぶん、異世界でも該当する極地星の名を当てる天文クイズなんだろう。
そのまま翻訳して来たのかな。
泥舟がポンポンポンとボタンを押して『ほっきょくせい』と入力すると、ガタンと音がして大きな扉が開き始めた。
「なぞなぞで一週間停滞かあ、ダンジョンは厳しいなあ」
「まあ、ここは間違えても罰則無いから。五十二階のリドルドアだと間違えると魔物が湧くから、開くまで三十人ぐらい死んだらしいよ」
悪辣な仕掛けだなあ。
俺たちは扉をくぐり、通路を進んだ。
「オークっす、オーク二、オークリーダー一、ハイオーク一」
とりあえず初手、高田君の投げ斧。
オークリーダーが盾で受けて跳ね返した、魔法の斧はキリキリ回って高田君の手に戻る。
東海林の火炎弾、霧積の突撃で、オーク、ハイオークを倒したが、オークリーダーが倒れない。
なにげに強い個体だな。
ネームドかもしれない。
高田君が片手剣に切られた、すかさず藍田さんが【回復】をかける。
「ありがとうだおっ」
「がんばってっ」
ドキューン!
チアキの銃撃が足に入った。
オークリーダーの動きが鈍る。
霧積が振り回すように大剣をないでオークリーダーの胸板を切り裂いた。
オークリーダーはニヤリと笑って倒れた。
高田くんが手斧でとどめを刺した。
「はあはあ、強敵だったお」
「格としてはハイオークの方が上なのになあ、強い個体か」
東海林がスマホをいじくっていた。
「ああ、これ片牙だ、ネームドのオークリーダー」
「そりゃあすごいっすっ」
迷宮の魔物にはちょっと有名な奴がいて、そういう奴はネームドと言って少し強いんだ。
ドロップ品も良い物を期待できる。
『オーバーザレインボー』は肩で息をしていた。
やっぱり強敵と戦うと消耗が早いな。
「【プロテクト】を掛けるべきだったかなあ」
「そうだね、敵が強そうだったら追加で掛けてもいいだろう」
「ごめんね高田くん」
「初見だからしょうがないおっ、ドンマイだおっ」
こっちのパーティではチアキが当てただけだな。
「よくやったチアキ」
「だんだん魔銃慣れて来たっ」
「くそー、ネームドかあ、帰りに出るかなあ」
「もう、ねえさんは、そんな早く再ポップはしないよ」
オークたちが粒子になって消えて行く。
みんな藍田さんに倣ってぱたぱたと手を動かした。
気になるドロップ品は……。
魔石、オークハム、赤いオーク帽、豚の貯金箱(五百円硬貨入り)、そして片牙からは、丸盾であった。
「あ、意外に良さそうな盾だお」
「高田の盾変えるか?」
「そうするお、タカシくん、良いかな?」
うちのパーティには丸盾使いはいない。
チアキもバックラーまでだな。
俺はスキルの関係でバックラー系オンリーだ、というか『浦波』があるから交換はなさそうだ。
「良いよ、高田君使いなよ」
「やったおんっ、『Dリンクス』と一緒だとドロップが派手で楽しいお」
「よし、オーク帽もかぶれ」
「それはいやだお、霧積くん」
『『片牙の盾』じゃな、【重量軽減】と【盾術補助】が付いておる、良い物じゃな』
『おお、【盾術補助】は良いねえ』
余さんは物知りだなあ。
盾術補助というのは、【盾術】が無くても【盾術Lv.1】程度の補助が付く物だ。
浅い階では破格のアイテムだな。
「盾術苦手だったから助かるお」
「というか、もっと盾使え、【手斧】だけじゃなく」
「すぐ忘れてしまうお」
さて、鏡子ねえさんに食べられないうちにオークハムと貯金箱を回収した。
オーク帽かあ。
赤いニット帽で、豚さんの耳がついているちょっとカワイイ帽子だ。
寒くなったら良いかもな。
「オークセーターと合わせるとクリスマスカラーだわ」
「運営は遊んでいるよね」
さて、オークたちを撃破したので、まっすぐ進んで十六階への下り階段だ。
「げげげ、ムカデ部屋が近づいてくる」
「いやっすねえー」
「いやだわー」
諦めるんだ、女子達。